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【日本経済】少子高齢化はプラス要因? 近い将来、日本は高度成長期と同じ環境になる

所得と生産性

『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.298より一部抜粋

我が国の高度成長期は、人類史上空前と言っても過言ではない「生産性の向上」によって起きた。
日本国民の多くは、高度成長期について、
「人口が増えたから、高度成長した」
「輸出が増えたから、高度成長した」
と信じているが、間違いだ。無論、人口増や輸出増が高度成長に「全く貢献しなかった」という話ではない。とはいえ、総人口や生産年齢の増加や輸出だけでは、実質値で10%近かった高度成長期の成長率を説明できない。

図の通り、高度成長期の生産年齢人口の上昇率は、均すと1.7%程度に過ぎなかった。また、高度成長期の輸出依存度(財の輸出÷名目GDP)は10%に満たなかった。高度成長期の日本経済は、現在よりも輸出に「依存していなかった」というのが真実なのである。

労働を提供できる生産年齢人口の増加率が2%に満たなかったにも関わらず、実質GDP成長率は10%近い状況が続いた。働き手あるいは「生産者」一人当たりのモノ・サービス(=付加価値)の生産が増え続けたからこそ、我が国は高度成長を成し遂げたのである。すなわち、高度成長期は「生産性の向上」で起きた。

高度成長期に劇的な生産性の向上が起きた理由は、「企業の設備投資」「企業の人材投資」そして「政府の公共投資」と、生産を拡大するための投資が激増したためだ。高度成長期は失業率がわずか1%と「完全雇用」状態にあった。しかも、当時の日本は外国人労働者を安易に招くことができなかった。それが、幸いしたのだ。

完全雇用状態で、外国人にも頼れない。それにも関わらず、高度成長期は平均で5%(GDPデフレータベース)のインフレが続いた。すなわち、需要が供給能力を上回るインフレギャップ状態にあったのだ。

目の前に、仕事が溢れている。それにも関わらず、圧倒的な供給能力不足状態にある。すなわち、経営者の目の前で「機会損失」が発生しているわけだ。

当時の日本の経営者は、「儲ける」ために限られた労働力を活用する必要があった。だからこそ、各企業は設備投資を拡大したのだ。また、完全雇用下であるため貴重となっていた生産者を「囲い込み」、人材として成長させるために支出した(労働者を雇用することも「投資」の一種である)。

政府も東海道新幹線や東名自動車道、首都高速道路などのインフラを整備し、企業の生産性向上を後押しした。結果、我が国は生産者一人当たりの付加価値が激増し、高度成長を達成した。

高度成長期にインフレギャップ状態が「続いた」理由

それでは、なぜ高度成長期はインフレギャップ状態が「続いた」のだろうか。所得創出のプロセスを理解すれば、理由が分かる。

所得創出のプロセスは、
「生産者が働き、付加価値(モノ・サービス)を生産し、消費・投資として支出(購入)されることで所得が創出される」

となっている。GDP三面等価の原則により、「付加価値」「支出」「所得」の三つは必ず同額になる。そして、生産性向上とは「生産者一人当たりの付加価値」が増えることだ。

すなわち、企業の設備投資等で生産性が向上すると、「生産者一人当たりの所得」も拡大するのである。分かりやすく書くと、生産者が「豊かになる」わけだ。

豊かになった生産者、あるいは日本国民は、消費や住宅投資を増やす。すると、需要(名目GDP)における「民間最終消費支出」「民間住宅投資」が拡大してしまう。結果、インフレギャップは埋まらない。

お分かりだろうか。高度成長期の日本では、供給能力面では、
「インフレギャップを埋めるため、設備投資、人材投資、公共投資で生産性を向上させる」
ことを目指したのだが、実際に生産性が向上すると、国民の所得が増えてしまい、
「国民の消費や投資が増え、名目GDPが拡大することでインフレギャップが広がる」
という現象が起きていたのだ。

供給能力と需要が、追いかけっこをして共に増加していったのが高度成長期なのである。

現在の日本は、未だにデフレギャップ状態(内閣府試算で約14兆円)にあるが、「幸運」なことに生産年齢人口が減っていっている。生産年齢対総人口比率が低下していっている以上、我が国は近い将来、間違いなくインフレギャップ状態になる。

つまりは、高度成長期と同じ環境になるのだ。

インフレギャップ状態に突入した日本が、外国人労働者に頼らず、
「生産性向上のため、企業が設備投資・人材投資を、政府が公共投資を拡大する」
という、正しい施策を講じれば、我が国の経済成長率は大きく高まることになる。

人口の減少など、現実には大した問題ではない。1億2千万人の人口を抱える国にとって、例えば毎年25万人、人口が減少したとしても、減少率は0.2%に過ぎない。

それに対し、高度成長期の「生産者一人当たりの実質GDP」は、平均5%で増えていった。すなわち、生産性が5%ずつ上昇していったわけである。0.2%の人口減少など、軽くカバーしてお釣りがくる。

日本国民は「生産性向上」こそが経済成長の鍵であることを、改めて理解する必要がある。

 

『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.298より一部抜粋

著者/三橋貴明
中小企業診断士。07年頃、「2ちゃんねる」上での韓国経済に対する分析、予測が反響を呼ぶ。『本当はヤバイ!韓国経済』(彩図社)など著書多数。
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