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藤島ジュリー代表の“税逃れ”残留は正しい経営判断?使われた制度「特例納税猶予」の考察と最終的に納税“免除”となる条件=奥田雅也

ジャニーズ喜多川氏の性加害問題が世間の注目を集めています。関連して先週、興味深い記事が文藝春秋から公開されました。藤島ジュリー景子氏がジャニーズ事務所の代表取締役を退任せず残留するのは、相続税支払い免除のためだった……という内容です。保険屋の我々としては、ジャニーズ事務所問題の中身については触れませんが、使われた制度「特例納税猶予」については非常に興味深いので、考察してみたいと思います。(『奥田雅也の「無料メルマガでは書けない法人保険営業ネタ」』奥田雅也)

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※本記事は有料メルマガ『奥田雅也の「無料メルマガでは書けない法人保険営業ネタ」』2023年9月26日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:奥田雅也(おくだ まさや)
事業(医業)経営に関する生命保険・損害保険活用術に精通し、過去20数年間で保険提案した法人数は2,500社以上。現在は大阪を拠点として保険代理店経営・保険営業を行うかたわら、年間60回程度の講演や、業界紙・本などの執筆、コンサルティング業務を展開中。著書に『ここから始めるドクターマーケット入門』(新日本保険新聞社)『法人保険販売の基礎』(電子版・保険社)など。

ジュリー氏が代表取締役を辞めない理由「特例納税猶予」

ジャニー喜多川氏の性加害問題に関連して、皆さんもすでにご存じだと思いますが、先週に興味深い記事が公開されました。

※参考:《ジャニーズ性加害問題》ジュリー氏「代表取締役残留」は相続税支払い免除のためだった 国税庁関係者は「被害者やファンを馬鹿にした話」- 文春オンライン(2023年9月20日配信)

いま、話題を一手に集めているジャニーズ事務所の2020年に行われた株式相続について、事業承継税制の「特例納税猶予」を適用していたという内容です。

このメルマガでは、巷で話題になっているジャニーズ事務所問題の中身については触れませんが、この「特例納税猶予」の適用については非常に興味深いので、考察してみたいと思います。

事業承継税制における「特例納税猶予」についてはこのメルマガで過去にも解説しておりますし、皆さんもよくご存じだと思いますので、簡単にポイントだけ確認しておきます。

<特例納税猶予の主なポイント>

・事前の特例承継計画の提出が必要(※これが令和6年末に提出期限を迎えます)
・相続と贈与の適用期限は令和9年12月31日
・対象株式は全株式
・納税猶予割合は相続も贈与も100%
・雇用維持要件は弾力化

そして最大のポイントは、あくまでも「納税猶予」であって「免除」ではないという点です。

今回の騒動で問題になっているのは、代表取締役である藤島ジュリー景子氏が社長は退任するが、代表取締役を退任していないという事実です。

※参考:会社概要 – ジャニーズ事務所

代表取締役にいる理由として、「特例納税猶予」における猶予取消要件の1つに『後継者が会社の代表権を有しなくなった場合』とあるため、今回の騒動の責任を取って代表取締役を辞任すれば、納税猶予が取り消されて相続税+利子税の納付が発生するからだと言われています。

非上場会社で自分が100%の株式を持っている状態で、外野から「退任しろ」と言われても、退任する必要はありません。ですから、経営判断としては間違ってないと個人的には思います。

ただ、今回の騒動を起こしたような企業と取引を続けてもらえるのか?という問題はあるでしょう。しかし、少なくとも「株式会社ジャニーズ事務所」の代表取締役退任を外部から言われる筋合いはありません。

2025年5月11日までは代表取締役として留任する可能性

先代のジャニー喜多川氏の相続発生は2019年7月9日で、相続税申告期限は10ヶ月後の2020年5月9日、ただしこの日は土曜日だったために2020年5月11日が期限日となります。

少なくとも2025年5月11日までは藤島ジュリー景子氏は代表取締役で在任していなければ、納税猶予が取り消され多額の相続税+利子税の納税が発生します。

代表取締役の在任以外にも、雇用要件などの条件がいくつかあり、これらを満たしておかないと納税猶予が取り消されて納税が発生する可能性はあります。

ただ、その後の報道を見ていますと、新会社を設立して名称変更し、所属タレントをそちらへ移籍させて現ジャニーズ事務所は被害者救済会社として存続する方向性が報じられています。

※参考:ジャニーズ事務所・東山紀之新社長が社名変更決断 10・2会見で新社名発表へ 井ノ原快彦と登壇か – スポーツ報知(2023年9月12日配信)

こうやって株式会社ジャニーズ事務所をさせて納税猶予を継続させつつ、新会社へ事業移行させる「第二会社方式」を使うのは、ジャニーズ事務所の事業継続としては最適だと思います。

実際に根強いファンが支えるでしょうから、第二会社の事業継続はほぼ問題ないでしょうし、株式会社ジャニーズ事務所を存続させて道義的責任を果たすという観点からも有効な一手だと思います。

株式会社ジャニーズ事務所から第二会社へ事業移行をさせたのちに、株式会社ジャニーズ事務所が保有している資産や所属している社員も徐々に移行させていけば、当然ながら株式会社ジャニーズ事務所の保有資産は減少し、自社株評価も下がっていくことは私でも想像ができます。

そして現代表取締役の藤島ジュリー景子氏に相続が発生したら、どうなるでしょうか?

Next: やがて相続税は免除に?非上場企業の経営にとやかく言うのは筋違い



やがて相続税は免除に?

ジャニー喜多川氏の相続発生時に適用された「特例納税猶予」は、後継者である藤島ジュリー景子氏の相続発生にともない「免除」に切り替わります。

そして藤島ジュリー景子氏の相続発生時において保有している株式会社ジャニーズ事務所の株式を相続人が相続する流れになりますが、この時には、藤島ジュリー景子氏の相続発生時に財産評価が行われ、株価計算を行います。

計算の結果、株価が高ければ、その時に納税猶予の申請を行う流れになると思われます。

現時点においては、特例納税猶予制度は令和6年3月31日までに都道府県知事へ「特例承継計画」の提出が必要で令和9年12月31日までに発生した相続が対象となり、この期限は延長しないと昨年度の税制改正では明記されていました(※筆者注:今年の改正要望にこの期限延長が盛り込まれるらしいので、どうなるかは分かりませんが、現時点では上記期限です)。

ですので、藤島ジュリー景子氏の相続発生が令和9年12月31日以後になれば、「特例」ではなく「一般」の納税猶予を申請することになります。

ただ前述の通り、タレントマネジメント事業は現行の株式会社ジャニーズ事務所から新会社へ移行し、それに伴う資産も徐々に新会社へ移行すれば、将来的には株式会社ジャニーズ事務所の株価評価はかなり下がっている可能性も考えられます。

そうなりますと、藤島ジュリー景子氏の相続発生時には「一般納税猶予」すら適用しなくても良い株価になっているかも知れません…。

性加害は大問題だが、非上場企業の経営・人事にとやかく言うのは筋違い

ここからは私の私見ですが、株式会社ジャニーズ事務所が特例納税猶予の適用要件を充足しており、制度適用が認められた後に社会的問題が発覚したからというだけで、制度適用が取り下げられるような措置はあり得ないと思います。

さらに、非上場の私企業の経営についてマスコミや世間が文句を言うのも、私は筋違いだと思います。

確かにジャニーズ事務所の性問題は異常だと思います。ですが、性問題と特例納税猶予の適用はまったく違う話であり、ジャニーズ事務所を問題視するのであれば、新たに設立する第二会社と取引をしなければ良いだけの話だと私は思います。

さらに新会社へ移籍するタレントを応援しない、起用するマスコミや企業を相手にしなければ良いだけの話ではないでしょうか。

ちょっと世間の論調を見ていると、怪しげな方向に行っている様に感じております。

ともかく保険屋の我々は、株式会社ジャニーズ事務所の「特例納税猶予」の適用とその後の流れについて簡単に押さえておきつつ、経営者への情報提供ネタにしたいですし、このネタから経営者の財産承継問題へ切り込んでいきたいですね。

最後に、今回確認に利用した国税庁ホームページのリンクも貼っておきます。

・法人版事業承継税制 – 国税庁ホームページ
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm

まぁ今後の株式会社ジャニーズ事務所がどうなるかは、事業継続・財産承継という観点で注目したいですね……。

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※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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