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ネット証券各社「手数料無料」戦争勃発も投資家が喜ばない理由。トクするのはいったい誰か?=九条

SBIホールディングス(HD)が引き金を引いた、ネット証券の売買手数料のゼロ化は、想像されたとおり、各社に広がりました。象徴的な意味では、これはすごいことですが、コストを気にする投資家にとっては、実はそれほどの影響はなかったりします。いったいどういうことか?投資家でもあるブロガーの九条が、実際の経験をもとに、これまで手数料がどうだったのか、そして完全無料化によって何が変わるのか、紐解いてみたいと思います。(九条)

プロフィール:九条(くじょう)
ブロガー。資産からの不労所得で経済的独立を手に入れ、自由な生き方を実現するセミリタイア/FIREを実現している。米国株、優待クロス、クリプト、太陽光、不動産投資などを行うインデックス投資家で、リバタリアン。マイクロ法人2社保有。ロジックとエビデンスを大事に、確率と不確実性を愛している。ブログ『FIRE:投資でセミリタイアする九条日記』を運営。

ネット証券で広がる「手数料無料」

SBIホールディングス(HD)が引き金を引いた、ネット証券の売買手数料のゼロ化は、想像されたとおり、各社に広がりました。SBIHD傘下のSBI証券はもちろん、そのライバルである楽天証券も国内株に関する手数料を無料化し、コストをかけずに取引できる環境が整ったのです。

SBI証券は、3年前の宣言どおり10月から手数料無料化を果たしました。(出典:SBI証券

楽天証券は、SBI証券の無料化に追随し手数料を無料化しました。(出典:楽天証券

一方で、投資家にとって、これがどのくらいインパクトがあることなのかというと、実は少々微妙だったりします。というのも、ここ数年各社は段階的に手数料の無料化を進めてきており、コストを気にする投資家にとっては実質的にほぼ売買手数料はかかっていなかったからです。

投資家でもあるブロガー、九条が、実際の経験をもとに、これまで手数料がどうだったのか、そして完全無料化によって何が変わるのか、紐解いてみたいと思います。

すでに1日100万円までは無料だった

SBI証券、楽天証券をはじめ、マネックス証券を除く各ネット証券は、「一日定額制プラン」の拡充を進めてきました。これは「一日あたり◯◯万円以内なら手数料無料」というプランです。

その金額も徐々に増加し、直近ではSBI証券、楽天証券、auカブコム証券、GMOクリック証券などの無料枠は1日あたり100万円に増えていました。松井証券は50万円までですが、これによりほとんどの株式は無料で売買できるようになっていたのです。

東京証券取引所は2022年10月に、上場株の投資単位を50万円未満に引き下げるよう要請しました。投資単位が高額な企業を減らして、個人の取引機会を広げる狙いです。

その結果、ファーストリテイリング(単元価格約350万円)やキーエンス(単元価格約560万円)などは相変わらず高単価ですが、任天堂が10分割、オリエンタルランドも5分割を行うなどして、単元価格を下げました。

直近では、単元価格が100万円を超える銘柄は42社。東証要請時の39社からは、増加してしまっていますが、3,900社余りの上場企業のうち、無料で買えない銘柄は40社程度だったわけです。

単元価格が100万円を超える銘柄は42社。うち17社は150万円を超えています。(出典:GMOクリック証券、10月20日時点の株価より)

つまり1日定額プランを利用すれば、ほとんどの銘柄は手数料無料で購入できるし、日にちをずらしていいのであれば、1ヶ月で2,000万円程度の売買が可能です。高単価な銘柄を売買したいとか、デイトレードのような頻繁な売買がしたいとかといった理由でない限り、実質的には手数料は無料化していました。

Next: 信用取引や未成年口座はもっと前から無料化されていた



信用取引でも無料化は進んでいた

ではデイトレーダーにとってはコストが重しになっていたのかというと、実はそうでもありません。各社は、デイトレ向けのプランとして「一日信用」というものも用意してきました。これは、建玉を翌日に持ち越せない代わりに、手数料を無料とするプランです。

しかも信用取引には、買建には買方金利、売建には貸株料がかかるのが普通ですが、楽天証券やSBI証券は、これも段階的にゼロにしてしまいました。当初は、約定金額が100万円以上ならゼロだったものが、次に50万円以上になり、2022年3月からは約定金額にかかわらずゼロとなったのです。

つまり次の日にポジションを持ち越さないデイトレーダーであれば、手数料も金利も貸株料もかからないわけで、いち早く完全無料化されていたわけです。

さらに、信用取引の買建からの現引、売建からの現渡を使えば、実質コストがゼロのまま、現物株の売買も可能でした。つまり、信用取引口座を開けば、手間はかかるものの、投資単位が100万円を超える銘柄も売買手数料は無料だったのです。

若者はひと足早く無料化されていた

では信用取引口座を開くことができない未成年はどうかというと、こちらはすでに完全無料化が進んでいました。先鞭を付けたのはやはりSBI証券で、2021年4月に25歳以下の国内株式売買手数料を実質無料化しました。

これに対し、松井証券も25歳以下を完全無料化。岡三オンライン証券、DMM.com証券、auカブコム証券、岩井コスモ証券も25歳以下は手数料を全額キャッシュバックと追随しました。さらにGMOクリック証券は27歳以下まで手数料無料化の対象を広げました。

この未成年口座無料化に乗らなかったのは、楽天証券とマネックス証券が主なところです。

このように、手数料を意識する投資家にとっては、ほとんどの場合ですでに手数料は無料化されていました。その意味では、今回SBI証券と楽天証券の手数料ゼロ化は、総仕上げではあるものの、実はそこまで投資家にとって大きな変化ではありません。

では、いったい誰が今回の手数料ゼロ化の恩恵を受けるのでしょうか。

Next: 売買手数料ゼロ化の恩恵を受けるのは誰か?



完全無料化の恩恵を受けるのは誰か?

SBI証券の直近(8月4日)の決算説明資料によると、売買手数料を示す「国内株式委託手数料」は四半期で55.9億円あまりとなっています。四半期の収益の14.6%です。楽天証券の場合、直近決算資料(8月2日)によると、直近半期の委託手数料は155億円。うち、オンライン取引の国内株は58%とされており、半期で90億円程度。収益の17.4%にあたります。

SBI証券によると、収益の14.6%にあたる約56億円が、国内株式売買手数料によるものです。(出典:SBI証券

楽天証券によると、収益の約3割が売買手数料にあたる委託手数料。うち58%にあたる収益全体の17.4%が国内株によるものです。(出典:楽天証券

ちょっとした調整で手数料は実質ゼロにできるのに、これだけの手数料収入があるのは、プラン変更をせず、そこそこ高額な手数料を払い続けている人が、まだまだ多かったということを意味するでしょう。またはちょっと手間をかけるよりは手数料を支払うことを選ぶ人がそこそこいたということです。

これらの人にとっては、手数料が完全に無料になるわけで、嬉しいことだと思います。でも一方で、これまで手数料無料で取引できる方法はいろいろあったのに高額な手数料を負担し続けてきた人たちであり、手数料の多寡に関心がない人たちだともいえます。この人たちにとっては、手数料ゼロ化は恩恵ではあるものの、「だから何?」という感じでしょうか。

唯一、無料化の恩恵を大きく受けられるのは、実は法人口座ではないかと思っています。比較的審査のゆるい個人とは違い、法人では決算書などによる審査を通過しないと信用取引口座が持てません。そのため、信用取引を使った手数料無料化のハードルは、法人においては高かったと感じています。

それが今回、法人においても手数料が完全に無料になります。法人を使って日本株を売買している人にとっては、無料化によって投資の幅が広がる。コストコンシャスな投資家にとって、実は一番うれしいのは法人による取引のコストがゼロになることではないでしょうか。

image by: Arsenii Palivoda / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2023年10月26日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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