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株価ピークから8割減「バルミューダ」株は買いか?スマホ事業失敗だけじゃない赤字転落の理由。唯一の活路とは=山口伸

パンを蒸気で美味しく焼ける「BALMUDA The Toaster」など、シックなデザインかつ確かな性能の家電を生み出してきたバルミューダ<6612>だが、すでに業績はピーク時から悪化に転じている。スマホ事業が失敗し撤退に追い込まれたためだ。そして今期は本業である調理家電の売上も減少し、今後の行く末が危ぶまれている。乱高下するバルミューダの業績とその背景について追ってみた。(山口伸)

プロフィール:山口伸(やまぐち しん)
本業では化学メーカーに勤める副業ライター。本業は理系だが、趣味で経済関係の本や決算書を読み漁っており、得た知識を参考に経済関連や不動産関連の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。

蒸気トースターのヒットで知名度が急上昇

バルミューダは、元ミュージシャンの寺尾玄氏が2003年に創業した日本の電機メーカーである。

当初はパソコン周辺機器に注力しており、最初の製品としてパソコン冷却台「X-Base」を発売後、翌年にはLEDデスクライト「Highwire」を発売した。

しばらくは日の目を見ることがなくリーマン・ショック後には経営難に陥ってしまうのだが、2010年に発売した扇風機「GreenFan」がヒットして倒産を免れた。GreenFanは自然の風と同じように大きな面で広がる風を再現できるのが特徴であり、DCブラシレスモーターを搭載しているため3万円以上と高価格だが、深夜番組で紹介されたこともあり売れたようだ。

そしてバルミューダの知名度を一気に高めたのが、2015年に発売して現在も主力製品となっている「BALMUDA The Toaster」である。

無駄のないシンプルな外観で、”無印良品”スタイルのデザインと言えば分かりやすいだろう。特に注目されたのがパンやトーストを美味しく焼けるスチーム機能だ。吸水口に5ccの水を入れ、「トーストモード」「フランスパンモード」など、パンに合わせた機能を選択することで、蒸気を使いながらパンを美味しく焼いてくれる。当初の小売価格は2万5,000円と相場の4倍以上であったが、デザイン性や性能が評価されて爆売れし、バルミューダを急成長に導いた。

売上高は2015年12月期まで20億円台を推移していたが、16年12月期には55億円となり、18年12月期には100億円を突破した。

シンプルなデザイン&機能が強み

バルミューダ製品の魅力といえばシンプルなデザインと機能だ。

扇風機やトースターは古くからある家電だが同社の製品では古めかしさを感じさせず、シンプルなつくりが高級感を醸し出している。無印良品のような飾りの無さを求める近年の消費者にバルミューダ製品はマッチしているのだろう。

そのうえで機能面でもシンプルさが際立っている。上記のトースターはパンを美味しく焼くことに特化しており、大手家電メーカーにありがちな、あれもこれもといった追加機能はない。トースターの後に生み出された電子レンジ「BALMUDA The Range」も同様に見た目だけでなく機能もシンプルだ。自動/手動モードのほか、オーブンモードや飲み物モード、解凍ごはんモードなど様々な設定があるが、アナログのレンジをつまむだけで操作でき、ボタン操作の煩わしさを感じさせない作りとなっている。製品開発では性能だけでなく芸術性も重視しているという。

「BALMUDA The Toaster」のヒットで知名度を上げたバルミューダはトースター以外の製品も売れるようになり、シックな新興家電メーカーとして知られるようになった。他にもコーヒーメーカーや電気ケトル、空気清浄機など様々な製品を取り揃える。

コロナ禍では巣ごもり需要が追い風となって規模はさらに拡大、2018年12月期に112億円だった売上高は、21年12月期に184億円とピークを迎えた。

Next: 次なるヒットを狙ったスマホ事業で大失敗……復活のシナリオはあるか?



次なるヒットを狙ったスマホ事業では失敗

家電事業で注目を浴びたバルミューダは次なる分野としてスマホを狙い、2021年11月に「BALMUDA Phone」を発売した。

製造パートナーは京セラ。コンパクトサイズの丸みを帯びた形状が特徴で、社長自らデザインを手がけたようだが、発売早々から酷評の嵐となってしまった。特に批判の的となったのは10万4,800円(SIMフリー版)という価格だ。Android OS搭載でCPUはオクタコア、6GBメモリ(RAM)というスペックだが、このスペックに照らし合わせると高くても5万円前後が適正価格といえる。そのうえカメラ性能も特に高いわけではなく、外部SDが非対応な割にメモリ(ROM)が128GBしかない。同時期に発売されたAppleの「iPhone 13」が10万円前後で買えることからも、BALMUDA Phoneは高すぎると批判されてしまった。

確かにブランド力やデザイン性で買われているiPhoneだが、優れた機能も裏付けとなっている。電子製品はやはり家電以上にスペックが求められる分野であり、芸術性に偏重した点が失敗に繋がったようだ。成功していればバルミューダが家電の次にブランド力を確立できた分野となっていただけに残念な結果である。そして今年、同社はスマホ事業から撤退してしまった。

本業のキッチン家電も悪化に転じる

近年の業績について見てみよう。決算資料によると2019年12月期〜21年12月期までの業績は次の通りだ。

売上高:108億円 → 126億円 → 184億円 → 176億円
売上高(キッチン関連):52.6億円 → 69.6億円 → 96.3億円 → 108.4億円
営業利益:10.7億円 → 13.2億円 → 15.2億円 → 7,500万円
最終利益:6.3億円 → 8.3億円 → 10.2億円 → 300万円

2021年12月期までは前記の通り、「BALMUDA The Toaster」のほかレンジなどのキッチン関連、扇風機や空気清浄機などの空調関連製品が順調に伸び、全社規模が拡大した。

21年12月期の売上高にはスマホ関連の売上高28.5億円も含まれている。翌22年12月期が減収に転じたのはスマホ事業が大コケしたためだ。主力のキッチン・空調関連は共に伸びたものの、スマホの売上高は8.7億円と前年比で約20億円も減ったことにより全社では減収となってしまった。利益も大幅に減少しているが、円安や原材料費高騰による仕入コストの増大が原因としている。とはいえ黒字であり、22年12月期まではなんとか耐えていたようだ。

しかし今期23年12月期の業績は主力事業も落ち込み、危うい状態となっている。第3四半期における業績を昨年と比較すると次の通りである。

売上高:124.9億円 → 79.6億円
営業利益:1.6億円 → ▲11.4億円
売上高(キッチン関連):77.6億円 → 52.8億円
売上高(空調関連):29.0億円 → 16.7億円

バルミューダ<6612> 業績(SBI証券提供)

キッチン関連、空調関連と本業の稼ぎが減少していることが分かる。決算資料では巣ごもり需要の一巡を一要因と主張しているが、蒸気トースターに代わるヒット作が無く、話題性が失われたことが原因といえるだろう。

キッチン家電はそもそも頻繁に買い替えるものではなく、ファンが居たとしてもすぐにリピーターとはならない。新規客を掴みたいところだが、スマホ事業の失敗が尾を引いて広告宣伝費は減少しており、宣伝力も失われている状態だ。

スマホ事業に進出せず、家電に注力していれば別の結果が待っていたかもしれない。

Next: バルミューダ株は買いか?次のヒット作がなければ細々と…



次のヒット作がなければ細々と…

バルミューダが再起するには、家電分野で新たなヒット作を生み出すしかない。

実際に同社は早急な黒字化を目指しており、今後の具体的な施策として以下の3点を掲げている。

1. 売上利益率の改善
2. 固定費の圧縮のほか
3. 家電カテゴリー製品の積極的な展開

(1)は値上げや製品工程の見直し、(2)は人員体制・組織の見直しだ。(2)に関連して言えばすでにリストラを進めている。

肝となる(3)は新製品の投入や海外展開だ。新製品に関して、今年はトースターやレンジなど既存製品のリニューアルを実施したほか、10月には高級ホットプレート「BALMUDA The Plate Pro」を発売した。同製品は高級感のあるデザインと、お店のような鉄板焼きを再現できるとして一定の話題を得ている。だが、現時点でトースターには及んでいない。

次のヒット作が無くても企業として残ることはできるだろう。今期は第3四半期段階で赤字とはいえ自己資本比率は60%台をキープしており、危機的状況にあるわけではない。ファブレス企業として工場を持たず、身軽なためだ。だが、数十億円規模の売上高で細々と続けることになってしまう。

バルミューダ<6612> 週足(SBI証券提供)

再度注目されるには機能とデザイン性を両立する新製品を出す必要がある。バルミューダはスマホ事業での失敗から、性能軽視の危険性を学んだはずだ。次なるヒット作を生み出すためには、芸術性偏重の姿勢を改める必要があるかもしれない。

image by: yu_photo / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2023年12月25日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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