今回はヤクルト<2267>についてです。ヤクルトの株価が下落し続けていますが、その理由と今後の見通しについて解説したいと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
長期的に成長している
ヤクルトの株価はこの1年くらい下落を続けています。
ヤクルト本社<2267> 月足(SBI証券提供)
5,000円くらいあったものが2,800円くらいと、半分近くにまでなっています。
しかし、その以前から見てみると、長期的に下落しているというわけではありません。
上がったり下がったりを繰り返している中で、今は下がっている局面だということです。
業績も悪くはありません。
ヤクルト本社<2267> 業績(SBI証券提供)
基本的には右肩上がりで推移しています。
ヤクルトを、店頭だけでなく「ヤクルトレディ」を通じて継続的に売り続けるという堅実な事業を行っています。
日本だけでなくメキシコなどでも販売しているように、海外展開にも積極的です。
海外売上高比率はまもなく50%になろうとしています。
アジア・オセアニアが多く、最近ではアメリカにも進出しているようです。
なぜ株価下落?
ヤクルトは長期的な成長銘柄だと言えるかと思います。
それなのになぜ株価が下がっているのでしょうか。
その理由として大きく2つあり、1つは「ヤクルト1000」に関すること、もう1つは中国に関する話です。
<原因その1:中国の状況>
海外売上高比率は特にアジアが多く、中国はやはりそれなりの売上比率を占めています。
しかし、足元では中国の状況が非常に良くありません。
これが支社別の売上動向ですが、中国での売上がおおむね25%くらい減っていて、極端に悪い状況です。
その理由としては、やはり中国の景気が良くないというところがあります。
また、日本やその他の海外では「ヤクルトレディ」が販売を行って、会話をしながら商品の説明をしながら売っていたので、他の商品とのバッティングを避けられたり、多少高くても買ってもらえたりしていました。
しかし、中国では最初からスーパーで販売され、ヤクルトレディによる販売があまりできていなかったために、隣に置かれた商品との価格競争に陥ってしまい、なかなか選ばれなくなってしまっているようです。
そこに経済状況が良くないということが重なると、どうしても安い商品が選ばれてしまいます。
業績予想も下方修正が行われ、実績でもそれを下回るということになると、株式市場的には良くなくて、まして株価が大きく上がっていたところだったので、割高感を持っていた人はどんどん売ることになってしまいます。
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<原因その2:ヤクルト1000>
元々なぜここまで株価が上がっていたかというと、「ヤクルト1000」によるものです。
一時はヤクルト1000が手に入らず、入荷されたら即売り切れてしまうほど熱狂的なブームとなりました。
なぜヤクルト1000がこれほど足りなくなっていたかというと、製造能力が追い付いていなかったからです。
たくさん作れていなかったので、人気の割には思いのほか売上を出せていませんでした。
しかし、人気は高いからたくさん作れるようになった時には多くの人が買うだろうという期待値もあって株価が上がっていたところがあります。
直近でようやく生産能力が増強され、たくさん作れるようにはなりましたが、工場を建設している間に、「ピルクル」などライバル社の商品でヤクルト1000と同様に“睡眠の質を改善する”効果を謳ったものが発売されました。
競争が発生してしまう部分に懸念を持たれているのではないかと思います。
ヤクルト1000の熱狂がどこまで続くのかということがヤクルトの大きな懸念事項となっています。
長期投資には適した銘柄か
長期投資の観点では、ヤクルト1000ブームは必ずしも本質ではないと思っています。
ヤクルトレディを通じて商品を売り続けること、そしてそれを海外に広げて、ヤクルトを飲んでくれる人を世界で増やしていくということがヤクルトの戦略なので、大筋ではブレていないということになります。
ヤクルト1000単体ではもしかしたらブームが終わってしまう可能性がありますが、こうやって付加価値商品を作ればそれが売れて業績が上がるという手ごたえを感じられた状況だったのではないかと思われます。
2023年初めの頃は業績も好調で、高い目標を掲げたものの、今そこに達していないということで株価下落の要因となっていますが、今期は増収増益を計画しているようです。
中国の立て直しには時間がかかるとは思いますが、時間をかけることができるということもヤクルトの強みであるので、そこまで心配する必要はないと私は考えています。
これまでの成長率を見ると、直近ではヤクルト1000が好調だった分大きく伸びていますが、5年・10年の平均成長率は7%前後となっていて、基本的には5~10%の成長を続けていく会社だと思われます。
長期投資が前提で、目先の大きなリターンを見込む必要がないのであれば、十分適した銘柄だと私は考えます。
それに対して今のPERは15倍ほどで割高感はありません。
ヤクルト1000が盛り上がったころはPERも30倍くらいあり、それが今落ちてきているのですが、過去5年の平均では24倍くらいであり、その意味では根本の部分が崩れているという状況ではないと思われ、過去のPER水準から考えても今は割安に見えます。
PBRも過去最低水準です。
問題はどこで株価の下落が止まるかということですが、チャートを見るとそろそろ底が来てもおかしくないように見えます。
株価の動きは予想できないのであまり真に受けないようにお願いします。
ヤクルトの言い分としては、ヤクルト1000はこれまで商品が足りなくて積極的な営業活動ができなかったけれども今後はそれができるようになり、売上が伸びていくということです。
どう転ぶかは分かりませんが、状況を見ながら買うタイミングを探ってみるのも良いかと思います。
そろそろ海外の売上が50%を超えるグローバル銘柄ですし、インフレにも比較的強い銘柄かとも思いますので、注目してみると良いかもしれません。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
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『
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問
』(2024年6月17日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。