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防衛費増加で株価も上がる?川崎重工・IHIは買いか?長期投資家が見るべきポイント=栫井駿介

先日公開した記事の中で、日本は防衛費を強化する方針で、国の防衛装備品を作って納めている代表的な企業が三菱重工<7011>であり、実際に株価が大きく上がっているという話をしました。

【関連】石破銘柄「三菱重工」は買いか?防衛費増を追い風に株価高騰も、長期投資には向かない理由=栫井駿介

ということは、同じように防衛品を作っている川崎重工<7012>やIHI<7013>も上がるのではないかと連想され、実際に足元で株価が上がっていますが、本当に買って良いものなのでしょうか。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

防衛費増の追い風

まず、国の方針として防衛費が上がっているという現状があります。

出典:JIJI.COM

2023年から5年間「防衛力強化期間」ということで、倍近くまで予算が上がるようです。

石破政権の中で、いわゆる“防衛族”と呼ばれる防衛大臣出身の人が石破さんを含めて3人入閣し、さらに小野寺さんが自民党の政調会長になっています。
防衛費は今後も石破内閣の下で増えていくだろうという思惑があるとともに、仮にアメリカでトランプ氏が大統領に返り咲くということになると、日本にも防衛費の増額を要求してくるのではないかと思われます。

防衛産業には今追い風が吹いているということです。

 

三菱重工は防衛費増の追い風と、北米での電力不足によるエネルギー事業の好調で業績や株価が上昇しているところがありますが、川崎重工やIHIはどうでしょうか。

出典:マネックス証券

三菱重工の株価はかなり上がってきたので、PER32.3倍と高めになっていて、どこまで上がるかということが焦点になっています。
それに対して、同じ防衛をやっている川崎重工とIHIのPERは14.0倍、20.4倍と、三菱重工に比べると割安なのではないかという見方ができます。
いずれも売上高に対する防衛産業の割合が2割くらいで、防衛費倍増の恩恵を受けることは確かです。

ただし、5年間で防衛費が増えるとはなっていますが、国家予算にも限界があるので5年後も増え続けるかというと難しいところがあり、やはり防衛費以外にも何か強いところがないと簡単には期待値は上がらないのかなと思います。

防衛“以外の”強みは?

川崎重工もIHIも、三菱重工と似たビジネスを行っています。

出典:川崎重工

川崎重工もエネルギー産業の大きな発電所や工場で使われるものを作っていて、あとは鉄道や船舶、飛行機というところもやっています。
川崎重工の特徴としては、バイクやバギーなどレジャーで使う乗り物も作っています。

出典:IHI

IHIも似たようなところですが、橋や水門といったインフラ系のものも作っています。
特に強いのは航空エンジンで、もちろん戦闘機なども作っていますが、ボーイングにエンジンを納めていたりもしています。

IHIのセグメントを見ると、前期に問題が起こって赤字になってはいるのですが、直近の第1四半期だけ見ると、きちんと利益が出ているのは「航空・宇宙・防衛」の分野だけになっています。

出典:マネックス証券

昨年度の第2四半期で大きな赤字になっているのはエンジンを追加で検査しなければならなくなったからで、それによって通期でも赤字になってしまったのですが、それを除いてもIHIの中でまともに利益を出せるのが「航空・防衛・宇宙」のところだけであり、その大部分を占めるのが現時点でも民間の飛行機ということになっています。

 

同じように川崎重工を見てみましょう。

出典:マネックス証券

実は利益の大部分がパワースポーツ&エンジンとなっていて、バイクやバギーなどの方面が強く、他のところではあまり利益が出せていません。
航空宇宙システムに関しては、運航上の問題が発生したこともあり赤字になっています。

出典:マネックス証券

直近では航空宇宙システムも利益は出ている状況で、ここに防衛産業も入ってくるので利益としては確保できていると思われます。

Next: 三菱重工には及ばない?川崎重工とIHIを長期投資家はどう判断すべきか



三菱重工には及ばない

川崎重工もIHIも、防衛装備品の影響がポジティブに働いてくるだろうとは思われますが、いずれも三菱重工と比べると力強さが足りないところがあります。

両社とも前期にエンジンなどに大きな問題が発生しています。
重工系のシステムは一つ一つのプロジェクトが大きいので、そこで問題があると多額の損失を計上することになってしまいます。

そもそもリスクが高いビジネスであるにも関わらず利益率が低いです。
川崎重工の経常利益率は5%弱くらいで推移していて、IHIも7%程度です。

どちらも長期投資に向いているかというとかなり厳しいと言わざるを得ません。

 

長期投資に向いていないということになると、目先ではどうかという話になります。

三菱重工は防衛に加えてアメリカでガスタービンが売れていることが前向きに捉えられ、この2つで上がっていると思われます。

一方で、特に川崎重工に関しては、防衛品以外で業績が上がってきそうな芽があまりないように見えます。
バイクなどは少し調子は良いですが、これは民間向けなので急に大きく上がるものではありません。
よって、防衛の期待である程度上がった後の上昇イメージは持ちづらいところです。

あえて選ぶならIHIか?

私の感覚では、何か材料が出て株価が上がると、次々に人々が上がる理由を探し始めて、さらに材料が見つかるともう一段階上がると思うのですが、川崎重工には次の材料が見当たらないなというところが正直なところです。
それがチャートにも表れていて、最初は三菱重工と同じように上がってきたのですが、その後は頭打ち感があります。

出典:マネックス証券

それに対して割と可能性があると思えるのがIHIです。

前期は問題があって赤字を計上してしまったところがありますが、今期に関してはまずその問題は解消されているようです。

さらに、民間のエンジンに強いということでしたが、コロナ禍で飛行機が飛ばせず、メンテナンス需要がぽっかり無くなってしまっていたところが今盛り返しているようです。

出典:IHI 2024年度第1四半期決算説明資料

これを成長と呼べるかは分かりませんが、少なくとも過去にコロナ禍で取りこぼした分を今回収しているところがあります。
この期待が乗っかって、瞬間的に株価が伸びることもあるのではないかと思います。

出典:マネックス証券

これまでが悪すぎたということもありますが、期待が高まって勢いがついている状況です。

 

三菱重工と川崎重工・IHIを比べると、本質的な強さに差があると思えるので、防衛費増の勢いに乗るにしても三菱重工じゃない2社を選ぶ必要はないかと思います。

あえて2社のどちらかを選ぶとするとIHIの方が期待が持てます。
PERの低さで選ぼうとすると川崎重工になると思いますが、PERが低いということは懸念点が多いということなので、そういう選び方はあまりおすすめできません。

 

私は長期投資を行っているので、いずれの銘柄も長期投資にはあまり向かないと思っていますが、皆さんは自身の投資スタイルに合わせて判断していただければと思います。


(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:yu_photo / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2024年10月14日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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