JX金属は、2025年3月19日に石油会社のENEOSから独立した上場企業です。IPOしたこともあり「JX金属は投資対象としてどうなの?」と気になっている方も多いようです。そこで今回はつばめ投資顧問が、JX金属の事業内容や将来性について詳しく解説します。またJX金属に投資する際の注意点も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
JX金属の歴史
JX金属は、もともとJXグループ(ENEOSグループ)の傘下の企業として事業を展開していました。
その歴史は、日立鉱山の買収からはじまっています。
色々な鉱山を開発し、鉱山から取れる鉄や銅などの金属を加工する事業を拡大してきました。
たとえば1964年(東京オリンピックの年)には、NHK向けのテレビ放送用銅板の製造などを中心に金属関連の事業を展開してきました。
また海外にも進出しており、海外の鉱山の権利や金属加工工場も持っています。
このようにJX金属は、資源に関わる事業を行いJXグループの中で活動してきた企業です。
JX金属の主力製品
現在JX金属は半導体事業で注目されていて、資源会社というより技術力のある会社としての側面が強くなってきています。
JX金属は半導体向けの金属材料であるスパッタリングターゲットを提供しており、この分野が今後の主要成長領域として期待されています。
ここでは、半導体事業の主力製品であるスパッタリングターゲットについてみていきましょう。
<主力商品「スパッタリングターゲット」とは>
スパッタリングターゲットとは、基盤に薄膜を形成するために使われる材料です。
スパッタリングターゲットは単なる導電材料ではなく、半導体や電子機器の心臓部で電気を精密に制御するための重要部品です。
一般的な銅板とは違い、原子レベルの精度が要求される極めて繊細な製品であり、スマホのディスプレイやCPU(PCなどの頭脳にあたる部分)の計算処理にも不可欠な技術です。
この高度な技術を持つのは、世界でもJX金属を含むごく一部の企業だけであり一般的な金属加工とは次元の異なる精密さが必要とされます。
<スパッタリングターゲットの市場シェア>
スパッタリングターゲット市場においてJX金属は世界シェア6割以上を誇り、IntelやTSMCなど世界的半導体メーカーへ製品を供給しています。
現在の半導体技術は「チップレット」と呼ばれる新方式へと進化しており、従来の平面構造から複数層を積み重ねる立体構造へ変化しています。
増大する情報処理需要に対応するため、限られたスペースで効率的に処理を行う必要があるのでこのような進化を遂げました。
この立体構造化により、縦方向の電気伝導も必要となりスパッタリングターゲット技術が必要になっています。
このことから、スパッタリングターゲットの需要は今後さらに拡大すると予測されています。
JX金属の事業内容
ここでは、JX金属の事業内容についてみていきます。
JX金属の事業は主に3つのセグメントに分かれています。
- 半導体材料セグメント
- 情報通信材料セグメント
- 基礎材料セグメント
ここで、JX金属の事業内容を整理しておきましょう。
Next: 将来性はあるか?事業内容を整理して見えてきた強みとは
<1.半導体材料セグメント>
半導体材料セグメントは、先ほど説明したスパッタリングターゲットなどを製造する部門です。
今後のJX金属の成長性を握るセグメントとなります。
<2.情報通信材料セグメント>
情報通信材料セグメントでは、電子回路基板などに使用される銅箔などを製造しています。
半導体のような極小のものというよりは、少しスケールの大きいものを製造しています。
これらの製品は、電気自動車などにも使われており重要な役割を果たしていますが、半導体ほどの高い利益率や競争力は持っていないようです。
<3.基礎材料セグメント>
基礎材料セグメントでは、銅山の経営や銅の採掘・販売、そして上記の部門への金属材料の供給などを行っています。
チリのカセロネス銅鉱山、ロス・ペランブレス銅鉱山、エスコンディーダ銅鉱山などの権利を持っていて基礎材料セグメントは昔から続く事業です。
他にも、金属リサイクル事業も行っており捨てられる金属を回収して再利用しています。
再利用するにも高い品質が必要なので、純度99.99%以上の銅材料を生産するなどの高度な技術が使われています。
JX金属の業績
セグメント別の業績を見ると、第3四半期までの状況は以下のとおりです。
- 半導体材料セグメント:約200億円
- 情報通信材料セグメント:約200億円
- 基礎材料セグメント:約500億円
半導体事業が成長しているとはいえ、現時点で最も利益を上げているのは基礎材料セグメントであることがわかります。
2024年3月期(1年前)を見ても、半導体事業部門の営業利益が264億円、情報通信部門が9億円、基礎材料部門が772億円という状況です。
この時期は鉱区の売却などもあり利益が出ていると思われますが、銅山などの基礎材料部門が稼ぎ頭であることは明らかです。
ですが将来の成長性に関しては、やはり半導体分野に注目が集まっているといえます。
JX金属の将来性
JX金属への投資を考える上で、投資家の方は将来性が気になると思います。
ここでは、JX金属の将来性をセグメント別でみていきます。
Next: JX金属は買いか?セグメントごとに将来性を分析すると…
<半導体材料セグメントの見通し>
半導体材料セグメントの見通しとして、事業の将来性とリスクについて解説します。
・半導体材料セグメントの将来性
半導体材料セグメントに関しては、今後成長する可能性が高いと考えられます。
この分野に対して会社としても大きく力を入れており、年間約30%の成長を見込んでいるようです。
需要が増えている理由としては、先ほど説明した半導体の高密度化・積層化にあります。
この技術トレンドに対応しながら競争力を維持し続けて、半導体メーカーのニーズに応える製品を提供し続けられれば、JX金属の製品は引き続き求められるでしょう。
また、利益率やシェアも高く質の高い製品を作っているという強みもあります。
・半導体材料セグメントのリスク
半導体材料セグメントのリスクとして、挙げられるのがシリコンサイクルです。
半導体産業にはシリコンサイクルと呼ばれる波があり、好況期には需要が高まり大量に生産して利益が上がります。
ですが、ある程度供給が満たされると「もう今の製品はいらない、次の世代の高度な半導体が出るまで新しく注文はしない」といった状況が発生し、需要が落ち込みます。
また在庫調整の波も存在し、四半期ごとの業績が上下することは避けられません。
今期予想では前期比11.1%の成長となっていますが、現在は比較的好調な時期である可能性もあるため、中期的には需要減少の波が来る可能性も考慮する必要があるでしょう。
<情報通信材料セグメントの見通し>
情報通信セグメントの製品であるFPC用圧延銅箔は、78%のシェアを持っています。
電子部品は今後も重要性が増す分野で成長性はあると考えられますが、景気の影響を受けやすいというリスクもあります。
そのため、2024年の実績に関しては赤字寸前という状況でした。
情報通信材料セグメントに関してみると、現時点での実績では将来に不安が残る部分があります。
<基礎材料セグメントの見通し>
基礎材料セグメントは、現在第3四半期までで500億円の営業利益を上げ、売上比率も45%を占める重要な事業です。
しかし、主に銅を扱うこのセグメントは資源価格の変動に大きく左右されます。
現在は良好な市場環境で高収益ですが、銅価格が下落すれば急速に利益がゼロになったり、赤字に転落したりする可能性もあるでしょう。
この大きな業績変動リスクと高い売上比率により、半導体材料セグメントや情報通信材料セグメントがいくら成長しても、基礎材料セグメントの不振が会社全体の業績を大きく押し下げる不確実性が存在します。
そのため、基礎材料セグメントについては、JX金属にとって重要かつ難しい位置づけにあります。
ENEOSグループからの分離上場の背景
ENEOSグループがJX金属を分離上場させた背景には、戦略的な判断があると考えられます。
銅価格の不確実性は、ENEOSの石油事業が好調でも連結決算を悪化させるリスク要因となっていました。
この不安定要素を切り離すことで、グループ全体のリスク管理をしたい意図があったと考えられます。
また、現在は半導体材料セグメントも銅価格も比較的好調な時期であり、このタイミングで売れば高い評価額での売却となり効果的な資金調達につながるという判断もあったと推測されます。
JX金属の社長も言及しているように、石油事業と金属の鉱物開発・製品製造事業の間には特に強い相乗効果は存在せず、別々の経営体制でも問題ないとの認識もあったようです。
Next: 長期投資家はどう判断すべきか?「JX金属」企業分析まとめ
JX金属のバリュエーション分析
ここでは、JX金属のバリュエーションについてみていきます。
今後、JX金属に投資しようと思う方は参考にしてみてください。
<JX金属PER>
JX金属のPERは16.4倍となっており、高くもなく低くもない普通の水準です。
化学メーカーに近い業種として見ると、好況期には高利益を上げる一方で不況期には赤字になるケースもあるので通常はPERが低く評価される傾向があります。
そのため、JX金属のPERは10倍前後であることが妥当との見方ができます。
この観点から見ると、JX金属はやや割高感があるかもしれません。
しかし、高い技術力を持ち半導体向け製品を提供する企業として評価すれば、妥当な水準とも考えられます。
総合的に見れば、JX金属の株価は極端に割高でも割安でもないと評価できるでしょう。
<JX金属の配当利回り>
JX金属の配当利回りは10.81%となっていますが、この配当利回りは実態を反映していません。
これは一株当たり配当予想103.55円を現在株価で割った数字ですが、すでに第3四半期時点で91.55円の配当が上場前に親会社であるENEOSグループへ支払われています。
つまり、新規株主が実際に受け取れるのは残りの12円のみです。
株価1,000円と仮定すると、実質的な配当利回りは約1.2%程度にすぎません。
表示されている10%超の高配当を期待して購入すると、実際には10分の1程度の配当しか受け取れないので注意が必要です。
まとめ
今回はJX金属について解説しました。
JX金属は2025年3月にENEOSから分離上場した企業で、半導体材料・情報通信材料・基礎材料の3セグメントを展開しています。
特に半導体材料セグメントでは、スパッタリングターゲットで世界シェア6割以上を誇り、将来の成長が期待されています。
現状では基礎材料部門が最大の収益源ですが、投資を考える際は資源価格の変動に左右されるリスクがあることを理解しておくのがいいでしょう。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
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『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2025年3月30日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。