中国の雑貨小売チェーン「名創優品(メイソウ)」についてご紹介します。2024年3月29日、上海で日本のキャラクター「ちいかわ」を使ったグッズが販売になると、たいへんな人気になったというニュースを覚えている方もいるかと思います。販売開始から10時間で売り上げは268万元(約5,400万円)となり、入店するには予約が必要であったのに、予約した人が1時間も並ぶという熱狂ぶりでした。この販売を行ったのが、名創優品の静安大悦城店です。
メイソウと言えば、「店舗はMUJI風、商品はダイソー風、ロゴはユニクロ風」と三重パクリ企業だとして、日本のメディアではさんざん笑いのネタにされてきた企業です。しかし、私は当時から、小売業の方々は最大限に警戒しなければならない企業だと申し上げてきました。特に、中国事業でライバルとなるMUJIにとっては強敵です。
実際、なぜ「ちいかわ」のような質の高いIPが“パクリ企業”に使用許諾を与えたのでしょうか。メイソウが獲得しているIPはそれだけではありません。マーベル、ディズニー、サンリオ、ハリーポッターと世界的なIPを次々と獲得しています。なぜ、ディズニーのような使用に厳しい企業が“パクリ企業”に使用許諾を与えるのでしょうか。
それは、メイソウが国内3,600店舗・海外2,200店舗という日用雑貨チェーンとしては世界最大級の規模に育っており、各IPホルダーは自社の保有するIPを広めるのに適していると判断したからです。
私がいつも皆さんにお伝えしている「中国をさんざん笑いのネタにして、侮って、日本企業がやるべきビジネスを奪われてしまう」の典型例になっています。
メイソウは、創業者が日本のMUJIに感銘を受けて創業されたチェーンです。しかし、経営手法はMUJIとは大きく異なっています。これは、MUJIとメイソウの違いということを超えて、日本企業と中国企業の考え方の違いにもなっています。
そこで、今回は、メイソウのこれまでの成長をご紹介し、MUJIと比較をすることで、日本と中国の考え方の違いをご理解いただくというのがテーマです。(『 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード 』牧野武文)
※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2025年7月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『論語なう』(マイナビ新書)、『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』(角川新書)など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。
「MUJI(無印良品)」中国事業は安定成長へ
MUJIの中国事業が安定してきました。
無印良品(MUJI)は2005年に上海市に1号店をオープンすると、すぐに中国の消費者の心をつかみました。簡素・合理性・環境といったMUJIのメッセージは、中国の若者層にも響いたのです。
このイメージは、2002年に上海に進出をしたユニクロとも共通するもので、日本のイメージとも合致するものでした。当時は、「日本人は、MUJIの日用品がある家に住み、ユニクロの服を着て、吉野家の牛丼を食べに行く」と言われたほどです。
余談ですが、吉野家の牛丼は当初は高価な食事で、座って30秒で牛丼が出てきて、5分で食べて、客がどんどん回転する合理性が、日本が経済的に成功したひとつの要因であると言われ、日本のビジネス戦士が食べる戦闘食のように見られていました。当時は、中国のビジネスマンが仕事に成功した時に、自分へのご褒美として食べに行く店だと言われていました。
MUJIの商品も、貨幣価値の違いから、当初は中国人にとっては高価でなかなか手が出ないところがありました。それだけに、強い憧れを持たれたのです。MUJIの中国でのブランド力は昔も今も非常に高いものがあります。
2010年代になると、中国の経済も成長し、その恩恵が庶民にまで回るようになり、それまで手が出なかったMUJIやユニクロの商品が買えるようになっていきます。
ところが、MUJIは2019年頃から調子がおかしくなってきました。MUJIの中国事業の既存店売上+オンライン売上の前年比の推移を見ると、マイナス領域に突入してしまったのです。
2020年以降のコロナ禍で、既存店売上が乱高下をするのは仕方のないことにしても、それ以前から黄色信号が灯っていたということが重要です。その後、2020年と2022年の感染拡大により落ち込み、翌年には反動で大きく伸びるということを繰り返してきました(MUJIの会計年度は9月始まりであることに注意)。
それが2024年になってだいぶ落ち着きました。Q3とQ4はマイナスになっていますが、前年が感染拡大で大きく伸びたことによる反動です。これが2025年になってQ1、Q2とも既存店売上が成長軌道に乗りました。前年もプラスであり、2年連続のプラス成長です。安定成長のコースに入ったといってかまわないと思います。
なぜ中国市場で苦戦?
なぜ、MUJIはブランドへの忠誠心は高いのに苦戦をしていたのでしょうか。理由はきわめてシンプルで、日本の価格と中国の価格に差があったからです。
例えば、「超音波うるおいアロマディフーザー」は当時日本で5,990円で販売されていました。これは当時の為替レートでは301元になります。ところが、中国のMUJIでの販売価格は388元だったのです。MUJIは高付加価値の一部の製品は日本で生産していますが、多くは中国で生産し、ベトナム、カンボジア、インドネシア、インドなどでも生産しています。MUJIにすれば、輸送の問題などで中国価格は高くせざるを得ない理由があったのだと思いますが、中国の消費者から不満が出るのも当然です。
これにより、MUJIは「欲しいものをブックマークしておき、セールの時にまとめて購入する店」になっていきました。
現在は、中国での価格改定をして値段を下げていき、同時に日本の方は価格改定で値段が上がっているため、日中の価格差はほぼ解消されています。このような不満が解消したため、もともとMUJIブランドに対する忠誠心は高いですから、商品が動くようになってきたということではないでしょうか。また、中国専用品を積極的に開発してきたことの効果も現れているようです。
ただし、この間に、MUJIは名創優品の台頭を許してしまうことになりました。メイソウは2013年に広州市で創業された日用雑貨チェーンです。当初は、日本のメディアで「店舗はMUJI風、商品はダイソー風、ロゴはユニクロ風」の三重パクリチェーンだとして笑いの対象にされましたが、MUJIにとっては最大限に警戒すべきチェーンでした。
MUJIは欧米などにも広く展開をしているため、グローバル売上ではMUJIの方が圧倒的に大きいのですが、中国事業だけを見ると、すでにメイソウの方が事業規模は大きくなっているのです。MUJIの方が挑戦者の立場です。
Next: “パクリ企業”と侮って日本が負ける典型例…メイソウの強みとは?
どうやってメイソウは本家を超えた?
メイソウは、創業者の葉国富氏が日本旅行をした時にMUJIの店舗を見て、衝撃を受けて中国で立ち上げた小売チェーンです。
葉国富氏は、MUJIのどこに感動したのでしょうか。それは、MUJIが今までになかった小売店だったからです。MUJIにはご存知のとおり、文房具から衣類・家電・食品・寝具までそろっています。今となっては不思議でもなんでもありませんが、1983年に東京・青山という感度の高い地域に1号店が登場した時は、多くの人が衝撃を受けたのです。それは、若者の簡素で合理的なライフスタイルという観点で多様な商品が用意されたセレクトショップになっていたからです。
それまで、日本でも中国でも、小売店というのは業界にぶら下がっているのがあたりまえでした。卸会社から仕入れをして、店頭で売るというのが小売店だったので、衣類の卸とつきあいのある店主は衣類店を開きますし、家電製品の卸とおつきあいのある店主は家電店を開きます。小売店は業界の軸で編集されているのが普通でした。例外は百貨店ぐらいしかありません。
しかし、MUJIは、簡素と合理性を好む若者という消費者の軸で編集された小売チェーンだったのです。MUJIのコンセプトに共感する若者にとっては、MUJIに行けば、欲しいものがすべてそろう店になっていました。葉国富氏はここに衝撃を受けました。余談ですが、小米(シャオミ)の創業者・雷軍氏もMUJIに衝撃を受けたひとりで、現在、小米が販売している家電はどれもMUJIのテイストが感じられます。
ところが、非常に面白いのが、同じコンセプトでスタートしながら、MUJIとメイソウでは手法が大きく異なることです。今年の春には「ちいかわ」グッズを発売し、購入者が殺到し、大きなヒットともなりました。これだけでも、MUJIとは異なる路線を進んでいることがわかります。
MUJIは、もちろん販売されている商品は時代とともに変わっていますが、コンセプトはびっくりするほど変わっていません。創業の頃からミニマリズムが軸になっていて、無駄を排除したシンプルな製品を提供し続けています。無駄を排除して、商品の本質だけを消費者に提供するというのがMUJIの真骨頂です。
私も若い頃にMUJIのファンとなり、中年となった今でもMUJIで買い物をします。感覚としては「あの頃と変わらない」安心さがあります。これだけ時代の変化が激しい中で、MUJIはブランドコンセプトをよく守り抜いていると思います。
一方、メイソウは同じコンセプトでスタートしながら、MUJIとは大きく異なる手法で成長をしています。MUJIが守りのブランド戦略であるなら、メイソウは攻めのブランド戦略です。
この違いは、MUJIとメイソウの話だけではなく、日本の企業と中国の企業との違いにも通じるものがあります。今回は、メイソウのこれまでの成長の糧となったできごとをご紹介し、そこから中国企業の発想が日本企業と異なっていることを感じ取っていただけたらと思います。
今回は、メイソウがなぜここまで成長できたのかについてご紹介します。
「ついで買い」を誘う戦略
メイソウは2013年に広州市で創業されました。そのきっかけは、先ほど触れたように、創業者の葉国富氏がMUJIの「消費者の視点で編集された小売店」というビジネスモデルに衝撃を受けたことです。
そこで、浙江省義烏市の日用品市場などから商品を仕入れ、若い世代に向けた小売店を始めます。そのため、実態は当時の中国にもたくさんあった10元均一ショップとほぼ同じでした。違いと言えば、商品のセレクトがよく、若者向けになっていただけです。
メイソウはすぐにユニクロやMUJIのオープンレイアウトを取り入れます。近年の小売業はどこでもオープンレイアウトを導入していますが、この頃の中国ではクローズドレイアウトの方が一般的でした。
Next: なぜメイソウが急成長?わずか3年で700店舗を達成した戦略とは…
現在でもクローズドレイアウトを採用している典型例はスーパーです。棚が人の背丈以上になっていて、コーナーの仕切りにもなっています。そして、調味料、麺類、菓子材料などの種類別コーナーをつくります。これは、目的の商品を探しやすいというメリットがあります。胡椒を買う必要がある時は、天井からぶら下がっているコーナー案内に従って調味料のコーナーを見つけ、そこに行き、コーナー内の棚を見ていけばだいたい見つかります。買うものがすでに決まっている時に便利なレイアウトです。
一方、オープンレイアウトは、買うものが決まっていない時にメリットのあるレイアウトです。スーパーでも、「今日の夕飯の献立は何にしようか」と考えながら、買うものを決めていないことが多い生鮮食料品コーナーはオープンレイアウトになっています。棚を目の高さよりも低くすることにより、全体を見渡すことができるため、肉と野菜の両方を目に入れながら買うものを決めていくことができます。
小売店でも昔の文房具店はクローズドレイアウトでした。高い棚があり、筆記具・紙製品・事務製品・芸術用品と分かれていました。事務職の人が領収書用紙を補充するために文房具店を訪れたときは、絵の具や筆などの芸術用品は用がないわけですから探しやすいのです。
しかし、MUJIのように、異なるジャンルの製品が特定の世代、顧客層に向けて陳列されている場合、「今日は、スリッパだけを買いにきた」と言われて、スリッパだけ買って帰られてしまうのはもったいないことになります。異なるジャンルの商品、例えばレトルトカレーや夏用ジャケットなども陳列しているのですから、そちらも見てほしい。そのため、オープンレイアウトにします。
このようなオープンレイアウトの店は、用がなくても訪れ、店内を周遊するようになります。メイソウは、この「店内を周遊する」ことをねらいました。そして、価格は非常に安いわけですから、ついで買いを発生させる。ここが、当初のメイソウのポイントとなりました。
わずか3年で700店舗を達成
創業年の2013年は27店舗でしたが、翌年には373店舗になり、その翌年には700店舗に達しています。ちなみにMUJIの現在の中国での店舗数は398店舗です。
このスタートダッシュは異常とも言える速度で、メイソウが最初から巨大小売チェーンになることをねらっていたことがうかがわれます。
そのために、メイソウは独特な加盟店モデルを考案しました。これは加盟店モデルと直営店モデルのハイブリッドのような形です。
通常、加盟モデルに参加をするには、加盟料、店舗改装費、商品仕入れ費用などを最初に支払う必要があり、その後、店舗を運営し、売上の数%をロイヤリティ(権利使用料)として本部に支払います。しかし、メイソウの場合は、加盟料が5万元から8万元(約160万円)と低く、これに初期仕入れ費用を支払えば加盟することができます。店舗をすでに持っていれば、改装もメイソウ側の負担で行います。
そして、ここが他の加盟モデルと大きく違うところですが、店舗の運営は基本的にメイソウ側が行うのです。加盟主は何もすることはありません。これでいて、利益の38%が加盟主のものとなるのです。
つまり、これはもはや加盟モデルではなく投資モデルです。店舗を提供し、多少の加盟費を払いさえすれば、後は寝ていてもお金が入ってくる。その店が失敗をしても、リスクは加盟費の8万元がパーになるだけです。このローリスクの加盟モデルは非常に注目されました。次から次へと加盟したいという人が殺到し、メイソウはその中から、店舗の立地条件を厳選して選ぶことができます。
おそらく、メイソウは加盟モデルで儲けるのではなく、商品を売って儲けようという考えだったのだと思います。あるいは、小売チェーンを素早く拡大するために、加盟ビジネスをうまく利用したということもできます。
これにより、メイソウは、立地条件のいい場所に大量に素早く店舗を出すことができました。
店舗の運営は、加盟主ではなく、本部のスタッフが行う。これもうまく作用しました。実質的には直営店と同じですから、商品の質や業務の標準化が容易になります。加盟モデルでやっかいなのは、加盟主が規約違反をしてないかどうかを見張らなければならないことです。飲食チェーンであれば、本部が供給する素材ではなく、市場で安く仕入れた代替品を使う、消費期限が切れた食材を使う、小売チェーンであれば、本部が提供していない商品を販売する、価格を勝手に変えるなど、ブランドイメージを毀損しかねないことが店舗では横行するようになります。
そのため、一般的な加盟モデルでは、本部のエリアマネージャーが店舗を回って、違反がないかどうかを厳しくチェックします。もちろん、そこで、経営状況を把握し、適切なアドバイスをしたり、時には一緒になってプロモーション施策を実行したりしますが、この違反管理だけでもかなりの手間になります。それが、実質直営店ですから、このような管理業務は必要なくなります。
Next: 最大の強み「711」システムとは?日本も参考にすべき成長戦略
毎週100種「新商品」が誕生する
メイソウの最大の強さが「711」システムでした。これは7日ごとに1万個の商品企画を立て、100個の商品を市場に投入するというものです。毎週1万個の商品提案をするというのは、恐ろしいほどの量です。
と言っても、中国では不可能な話ではありませんでした。浙江省義烏市の卸業者を見ていると、十年一日の日用品を製造して並べているだけに見えてしまうかもしれませんが、彼らの強さの秘密は提案力です。卸・中間業者・製造工場の誰もが「こんな商品は売れるのではないか」と考案をし、試作をし、企業に提案をしてまわります。
この提案力が最もうまく回っているのが玩具の世界で、現在の世の中では、ちょっと面白い玩具というのはだいたい中国の企業が考案したものになっています。例えば、日本で販売されているかどうかわかりませんが、手持ちのハンディ扇風機で、回転するとメッセージが表示されるというものがあります。羽根に一列のLEDが並べてあり、回転に合わせて点滅することで文字を表示するというものです。自分で好きなメッセージが設定できる玩具としても販売されていますし、固定メッセージを入れた銀行などの景品としても配布されています。
また、まな板で切った食材を掬いあげるキッチンスクレーパーというものがありますが、中国で販売されているものの中には、中央に折り目がついていて、軽く折り曲げることができるものがあります。食材を鍋の中に入れる時に、折り目で角度をつけて入れると、食材が鍋の外に飛び出ないというものです。
このようなアイディア商品が、関心をするものから、アイディア倒れだと笑ってしまうようなものまでたくさんあります。無数の企業が、新しいものを考案し、提案をしているのです。
このように提案をしてくれる企業がたくさんあるために、1週間に1万件の商品企画を立てるというのも、チームの人数にもよりますが、不可能ではありません。そして、ここが重要ですが、それが100個に絞られるということです。100分の1に厳選されるのです。そこまで厳選された商品が、毎週100個新たに店頭に並ぶというのはすごい話です。
MUJI中国は、今では新製品投入を増やしているようですが、2020年頃までは季節ごとの投入で、新製品数は年間数十件でした。一方、メイソウは年間にすると5,200件になります。
これにより、メイソウは、買うものがなくても毎週訪れる価値のある店になりました。新しい商品が必ず見つかるわけですから、それを見るだけでも楽しいわけです。
他店と同じような商品を徹底的に安く売る
とは言え、品質や商品の完成度という点では、MUJIと比較すること自体、MUJIに失礼なほど違いがあります。やはり、つくりは雑で、デザインレベルも低いことは間違いありません。
しかし、価格がMUJIの半分以下であり、ものによっては3分の1以下のものまであります。MUJIなどと同類の商品も多く、いわゆる平替(ピンティー、平価代替品)として機能しました。
例えば、MUJIではシンプル水筒(クリアマグボトル)が、日本では990円で販売されています。同じものが中国のMUJIでは58元(約1,150円)で販売されています。まったく同じものではないですが、似たものはメイソウでは20元程度で販売されています。
このクリアボトルは、片手で持ちながら口を開けることができるなど、いろいろ考えられていますが、その機能は水筒であるということには変わりありません。メイソウの水筒は特別な工夫はされていませんが、水を持ち歩くことができるという主要な機能の点では同じです。
この価格差により、「MUJIの水筒はおしゃれだけど、高いな。それに水筒を買っても結局使わなくなることも多いからなあ」と躊躇してしまう人が、メイソウを訪れると、20元で販売されているのを見て、「20元なら使わなくなっても痛くない」と考え、買ってしまうことになります。
2018年頃からMUJIの業績が伸びなくなったのは、MUJIのセール待ちをしている間に、メイソウで買ってしまう人がかなりいて、本来の顧客を奪われていたことが大きかったのではないかと思います。
メイソウはこの平替戦略をさらに進めます。2017年頃から、同源平替を進めていくのです。今、MUJIを含めた小売チェーンで、自社で工場を持ち製品を製造しているというところはほとんどありません。いずれかの製造メーカーに委託製造をしてもらっているのが一般的です。
メイソウは、MUJIを含め、さまざまな小売業でヒットをしている商品の委託製造先を調べました。その多くは中国企業になります。そして、その企業を訪問をし、メイソウ向けの商品も製造してもらう交渉を進めたのです。つまり、源が同じであるため、同源平替ということになります。<中略>
メイソウが、次の成長戦略として打ち出したのがIPグッズでした。有名なアニメやコミック、ゲームのキャラクターの使用権を獲得し、そのグッズを販売することで利益をあげようというものです。
Next: 「ちいかわ」が世界的キャラに?本来は日本企業がやるべき仕事だが…
2016年から研究と調査を重ね、2019年から本格的にIPグッズの販売を始めました。そして、マーベルグッズで成功し、それ以降は2021年のNBA、2022年のクロミ、2023年のバービー、2024年のちいかわと、ほぼ毎年爆発的なヒットを生み出しています。日本のサンリオ、米国のディズニーを始め、主だったIPホルダーが提携していることがわかります。
現在、IPグッズは大きな売上をあげるようになり、全体の40%を超え、2025年中に50%を超えるところまで持っていきたいとしています。
日本の中で「メイソウはユニクロとMUJIとダイソーのパクリ企業」というイメージで止まっている人には、なぜ世界中のIPホルダーがメイソウに許諾を出すのかがわからないと思います。IPホルダーは、相手先企業にも「格」のようなものを求めると考えるのが日本の発想です。例えば、「任天堂が提携をするなら、相手企業はグーグルとかトヨタとか、そういう企業じゃなくちゃ」と考え、実際、任天堂はスーパーマリオの使用許諾をメイソウに出していますが、「任天堂の格が落ちてしまう」などと考えてしまうのではないでしょうか。
しかし、IPビジネスとは使ってもらってナンボの世界なので、どんどん使ってもらわなければ話になりません。そして、使ってもらう理由は使用料を稼ぐという直接的な目的と、IP自体を露出してマインドシェアを高める/低下させないという効果をねらいます。
そのために、多くのIPホルダーが考えるのが、グローバルなチャンネルを持っている企業に使用許諾を出したいということです。メイソウは、中国国内に3,600店舗、海外には2,200店舗を展開し、ニューヨーク、パリ、マドリード、インドネシア、タイには大型の旗艦店を出店しています。
これだけの規模の店舗を展開している日用品小売はダイソー(国内3,620店+海外約2,300店=約5,920店)ぐらいです。IPホルダーは、メイソウの店舗展開の規模と広がりに魅力を感じます。これが国際的なIPがメイソウと提携をする理由です。
IP利用は、メイソウと製造企業にも恩恵をもたらします。メイソウは、IP用に新たな製品を企画するというよりは、豊富なラインナップ、企画案の中から、IPにふさわしい商品を選び出します。言い方は悪いですが、既存の商品にIPの絵を貼り付けて販売するというやり方です。これで販売価格が30%から100%はあげられるのですから、利益率は非常に高くなります。
また、商品の発注量が桁違いに大きくなるので、製造企業にとっても利益は薄くても、大きな利益をもたらすことになります。
ただし、このような国際的なIPを利用することにも欠点があります。それは、使用料がとてつもなく高いということです。IPホルダーもIPの影響力をわかっているので、強気の契約を結んでくるのです。
そこで、メイソウが力を入れているのが知名度の高くないIPの掘り起こしです。ローカルなIPであれば使用料も安く抑えられます。特に特定の国で限定的なヒットをしているIPを持ってきて、世界的なヒットに育てることができればメイソウの利益は莫大なものになりますし、IPホルダーにとっても次の展開ができるようになるというメリットが生まれます。
このローカルIPの掘り起こしをねらって、メイソウは常に各国のIP状況を調査しています。
このようにして生まれたのが、韓国発の豚のキャラクター「Loopy」と日本発のキャラクター「ちいかわ」です。
日本では、ちいかわはすでに大人気でしたから、中国でも人気だと聞いて当然だと思う方もいるかもしれませんが、グローバル市場で見れば、日本ローカルのヒットにすぎないわけです。契約の内容はわかりませんが、ディズニーなどのグローバルIPと比べて、メイソウはかなり安く獲得できたのではないかと思います。
この提携は、ちいかわにとっても大きな飛躍となりました。メイソウは、中国でヒットしたことを受けて、韓国、香港、インドネシアなどに展開、そこでもヒットします。そして、今、欧米への展開が始まっていて、人気は上々ということで、ちいかわはグローバル級のIPに育つ可能性が出てきています。
この仕事は、本来日本企業がやらなければいけなかったということを心に止めておいてください。
このようなローカルIPの発掘にメイソウが活用しているのが――
大量発注が製造企業にもたらす利益
製造メーカーとの決済システムにも工夫
メイソウの強みと弱点
IPグッズ戦略への転換と成功
日本企業と中国企業の経営思想の違い
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- vol.222:儲かるUI/UX。実例で見る、優れたUI/UXの中国アプリ(4/1)
『
知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード
知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード
』(2025年7月7日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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