ベッセント財務長官による金利水準発言を受け、9月のFOMC会合での25bp利下げ観測が急浮上している。債券市場では2年・10年金利ともに低下し、ドル円相場にも波及した。しかし、物価や雇用情勢を踏まえれば、利下げは中央銀行の目標に逆行する動きである。政権からの圧力や市場の思惑が先行するなか、実際の政策判断は依然として不透明だ。
プロフィール:脇田栄一(わきた えいいち)
FRBウォッチャー、レポートストラテジスト。1973年生、福岡県出身。個人投資家を経て東京都内の大手株式ファンドでトレードを指南。本来は企業業績を中心とした分析を行っていたが、08年のリーマンショックを経験し、マクロ経済、先進国中央銀行の金融政策の影響力を痛感。その後、FRBやECBの金融政策を先読み・分析し、マーケット情報をレポートで提供するといった業態を確立。2011年にeリサーチ&コンサルティング(現eリサーチ&インベストメント)を起業。顧客は機関、個人投資家、輸出入企業と幅広い。ブログ:ニューノーマルの理(ことわり)
9月に米利下げ?
ベッセントによる金利水準発言によって9月会合では25bpは引き下がるだろうとの観測が浮上。イールドカーブは2年・10年ともに低下、ドル円レートに波及した。
9月会合での引き下げは99.9%とのことだが、あくまで債券相場からの利下げ確率であり既定路線とは言い難い。過去にも直前になり急速に低下したことがあった。個人的にも現在の物価・雇用情勢を観て本当に利下げに動くかといえば、現時点においてもそうは思えない。
先日公表の7月コアCPIは3.06%、コアPCEに至っては7月・8月と一層上昇し3%に向かっている(ナウキャスト)。 雇用情勢における就業者数に関し、当初利下げさせるためにトランプ政権が操作したとの陰謀論が拡散されたが結果としては、そのトランプ自身が労働省の統計局長を解任し、その陰謀論も吹き飛んだ。データの収集方法が操作・改ざんされたとの論拠である。
これらを考慮すれば、雇用情勢の減速を根拠とする金利の引き下げは整合性が取れないことになる。「雇用の下方修正は操作されたものだった(トランプ)。」 ではなぜ物価上昇しているさ中に金利を引き下げるのか?ということになる。
ベッセントのいう「様々なモデルから金利水準が高すぎる」 というのも説得力に欠け、実際にインフレは沈下するどころか上昇している。現時点で長期目標の1.5倍である。 自らの政策によって不評を買っているトランプ政権が手っ取り早く金利を引き下げたいだけで、政権絡みで圧力をかけているだけ、その言葉に影響されたマーケットが9月会合での利下げ観測を高めただけだといえる。
現時点で利下げをするのは中央銀行の目標に逆行しており、事実(利下げ無し)が明るみになれば市場参加者は肩透かしを食らうことになる。 噂で動かされ事実で縮小する可能性あり。
ただ、議長が圧力に屈した場合にはこれらの理論は通じない。
(筆者追記:ベッセントもトランプも利下げの権限はないので、現時点ではあくまでただの圧力に過ぎないし、実効性もない。
唐突かつ具体的な数字圧力だったので円買いが起こり日本株は打撃を受けた形に。実効性は無いといえども、圧力の余韻は残るので今後は議長がでてくるジャクソンホールまで悶々とした展開が想定されるので、それを踏まえポジション調整は皆さま方の判断に委ねられる。
円買い進んだが、あくまで次なる議長発言が重要で、それまで円買いが進行するとは思えない。)
本記事は脇田栄一氏のブログ「ニューノーマルの理(ことわり)」からの提供記事です。
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