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三井不動産、長期経営方針「& INNOVATION 2030」を推進 「産業デベロッパー2.0」として場・コミュニティを提供

トップに聞く(日経CNBC)

守田正樹氏(以下、守田):本日は三井不動産株式会社の植田俊社長にお越しいただいています。よろしくお願いします。

植田俊氏(以下、植田):代表取締役社長の植田です。本日はよろしくお願いします。

守田:視聴者のみなさまに向けて、自己紹介をお願いします。

自己紹介

植田:私は1983年(昭和58年)に当社に入社しました。当社関連で言うと、ちょうど東京ディズニーランドがオープンした年に当たります。入社してから40年以上が経ちますが、その間、バブルの絶頂や崩壊、日本の「失われた30年」を実際に体験してきました。

バブル崩壊時には不良債権の処理を行い、その後の金融危機の際には、REIT(リート)をはじめとする不動産の証券化に携わりました。そして、2009年以降は、日本橋をはじめとする都心のミクストユースの街づくりに携わってきました。

2023年4月に社長に就任し、現在で3年目となります。投資家のみなさまとともに新しい付加価値を創造していきたいと考えています。

事業内容

守田:不動産デベロッパーという事業を巡っては、大きな変化が進んでいるかと思います。現在、三井不動産はどのような企業グループになっているのか、ご紹介いただけますか?

植田:スライドをご覧ください。当社グループは、円で示した図のとおり、あらゆる不動産領域において商品やサービスを提供しています。その意味では、普通に言えば「総合不動産デベロッパー」ということになります。

沿革・歴史

植田:当社の歴史をお話しします。当社は1941年、三井合名会社の不動産部門が分離してスタートしました。設立以来、時代時代の社会課題を「場」の提供を通じて解決してきた会社です。

高度成長期には埋立事業で、日本の工業化を後押しし、製鉄所や発電所のための土地を造成しました。スライドに掲載している東京ディズニーランドの土地も、私どもの埋め立て地です。

その右側にある白黒写真は、日本初の超高層ビルである「霞が関ビルディング」です。こちらも私どもが開発しました。この「霞が関ビルディング」を皮切りに、オフィス環境の向上に努め、企業活動をサポートしてきました。

その後、住宅、商業施設、ホテル・リゾートなど、多岐にわたる事業を展開してきました。最近では東京ドーム社をグループに迎え入れ、人々のクオリティ・オブ・ライフを高めることをビジネスとして推進しています。

このようなことから、私は、当社グループは「不動産デベロッパー」の枠を超えた、いわば「産業デベロッパー」という「プラットフォーマー」であると自負しています。

収益構造と業績推移

守田:現在の事業構成と、それに伴う業績の動向についても簡単に教えていただけますか?

植田:スライド左側のパイチャートをご覧ください。青色の部分ですが、オフィスビルや商業施設をテナントさまに貸すことによる賃貸収益で、約30パーセントを占めています。

次に赤色の部分は、住宅分譲事業や収益不動産を機関投資家さまに分譲する事業です。この2つを合わせた分譲収益が約30パーセントとなっています。

さらに緑色の部分は「マネジメント」で、プロパティマネジメント、不動産仲介などが含まれます。

そして黄色の部分は、ホテル・リゾート事業や、東京ドームをはじめとするスポーツ・エンターテインメント事業です。この緑色と黄色を合わせると、約30パーセントになります。

守田:インカムゲイン、キャピタルゲイン、マネジメントのバランスが保たれていますね。

植田:まさしく、そのとおりです。

守田:その結果、業績も順調に伸びています。

植田:おっしゃるとおりです。右側の棒グラフをご覧ください。2012年以来、利益は右肩上がりで進捗しています。コロナ禍を乗り越え、2024年度には過去最高益を達成しました。今年度はこれを更新する見込みです。

グループ長期経営方針に込めた想い

守田:2024年4月に長期経営方針を発表されましたが、この方針にはどのような想いを込めているのですか?

植田:「& INNOVATION 2030」は、2030年度前後における私どものありたい姿、当社グループが目指すべき方向性を示したものです。

この方針を公表したのが昨年4月であり、日本が「失われた30年」にピリオドを打つタイミングと重なった点は、非常に運命的なものを感じています。

これまでのデフレの時代は、「安いものが勝つ」時代でした。しかし、これからは「付加価値が正当に評価される時代」へと移り変わってきているのだと思います。

今こそ、ありたい姿を「妄想」し、戦略を「構想」し、そして「実現」へとつなげていくということです。この強い決意をもって、長期経営方針を策定しました。

守田:まさに方針のとおりですね。

グループ長期経営方針「& INNOVATION 2030」

守田:「& INNOVATION 2030」の概要を教えてください。

植田:「& INNOVATION 2030」では、成長のための事業戦略と、それを支える財務戦略の2つを定めています。

事業戦略についてですが、真ん中に3本の矢印があり、私どもはこれを「道」と呼んでいます。当社の事業戦略は、この「三本の道」で構成されており、その内容はスライド下部に記載のとおりです。

この「三本の道」を通じて、既存の不動産領域での成長をさらに高めるとともに、新事業領域を第3の道と位置づけ、その収益の柱を増やすことで「両利きの経営」を実践していきます。

「行きたくなる街」にある「行きたくなるオフィス」

守田:ただいまお話しいただいた「三本の道」について、具体的にうかがいたいと思います。まず、第1の道であるコア事業についてご説明いただけますか?

植田:こちらは「コア事業の更なる成長」とうたっていますが、「オフィス」という言葉は通常「事務所」と訳されます。しかし現在では、オフィスは事務作業や単なる作業スペースではなく、リアルなコミュニケーションを通じて付加価値を生み出す現場そのものとなっています。

企業の付加価値を向上させるには、ワーカーが自発的に「行きたくなるオフィス」であることが求められます。しかし、私はそれだけでは不十分だと考えています。日常的に「行きたくなる街」にある「行きたくなるオフィス」であることが必要です。

その代表例が日本橋です。私どもは2000年頃から「日本橋再生計画」を立ち上げ、取り組んできました。「コレド日本橋」や「コレド室町」といった商業施設とオフィスがミクストユースとなった街づくりを進めるだけでなく、それ以外の取り組みにも注力してきました。

具体的には、高度成長期にペンシルビルの上にあった平安時代からの神社、福徳神社に地上に降りてきていただいて、再興を図りました。また、裏路地の整備なども行った結果、日本橋は平日・休日、昼夜を問わず、老若男女が笑顔でにぎわう、日本を代表するウェルビーイングな街へと変貌を遂げました。このような街づくりがエリア全体の価値を高め、日本橋・八重洲エリアのオフィス賃料の大幅な上昇にもつながっていると考えています。

守田:私は約40年前に不動産担当として従事していましたが、当時から近年まで、東京駅西側の丸の内エリアがオフィス賃料の上限でした。しかも、4万円程度がその天井になっていました。

しかし今では、反対側の日本橋・八重洲エリアが、その天井とされていた水準を超えています。これは、まさに入居者が付加価値を認めているからだと思います。

植田:まさしくそのとおりです。40年前は古びたビルが並ぶだけで閑散とした街でしたが、この40年間、特にこの20年間で大きく変貌しました。

オフィス事業における付加価値の創出

守田:今後も入居者などから価値を認められる開発案件が目白押しということですね。パイプラインについて教えてください。

植田:スライド左上をご覧ください。来年には日本橋で最大の開発エリアとなる「日本橋一丁目中地区」が竣工します。こちらも相応の価格で、オフィスはすべて契約済みです。

その下にある「八重洲二丁目中地区」は、「東京ミッドタウン八重洲」の隣に位置します。現在は更地で工事が進行中のエリアですが、2029年初頭に竣工予定です。この案件も非常に高い関心をいただいており、順次契約が進んでいます。

これ以外にも、日本橋周辺ではさまざまな開発案件が進行中です。特に、地元の悲願であった首都高速道路の地下化が決定し、これに合わせ日本橋川沿いには今後複数の再開発案件が控えています。

守田:「日本橋に青空を」ですね。

植田:おっしゃるとおり、日本橋に青空を取り戻すプロジェクトです。さらに、築地市場跡地の開発事業である「築地地区まちづくり」や「神宮外苑地区まちづくり」といった日本を代表するプロジェクトも、今後の私どものパイプラインとして予定されています。

海外事業の深化と進化

守田:第1の道に含まれる海外事業について、ご説明をお願いします。

植田:アメリカは当社にとって最も重要な投資先の1つです。ニューヨーク・マンハッタンのハドソンヤード地区では、最新鋭かつ超大型のビル2棟を開発し、これらが安定した賃貸収益を生んでいます。その上で、人口増加が著しいアメリカ南部のサンベルトエリアで、賃貸住宅への投資を加速しています。スライド右上の写真は、テキサス州ダラスで当社が開発した賃貸住宅の写真です。

そのほか、経済成長が著しいオーストラリアやインドなどの地域でもオフィス開発を進めています。2030年に向け、年間1,000億円の海外事業利益を目指し、各国の力強い成長を取り込んでいきます。

スポーツ・エンタメを活かした街づくり

守田:第2の道である新たなアセットクラスへの展開について、ご説明をお願いします。

植田:2021年に東京ドーム社をグループに迎え、スポーツ・エンターテインメントの力を活用した街づくりを進めています。

昨年5月には、当社初のアリーナ事業として「LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)」をオープンしました。隣接する商業施設「ららぽーとTOKYO-BAY」との間でお客さまの回遊が始まり、イベント開催時には商業施設の売上が顕著に上がるなど、さっそくシナジーが発揮されています。

また、2028年初頭には「ららぽーと名古屋みなとアクルス」の隣接地に、第2弾として「(仮称)名古屋アリーナ」をオープンする予定です。

買い物をする商業施設とスポーツ・エンターテインメント施設が隣接していますが、この2つに共通するものは何だと思いますか?

守田:気持ちが上がりますよね。

植田:そのとおりです。いわゆる「アドレナリンが出る」ことですね。このようなリアルの体験価値を通じた感動のある街づくりを、今後も目指していきます。

更なる事業ウィングの拡大、収益源の強化

守田:第2の道にはほかに、ラボ&オフィスとデータセンターがあると思います。これについてもお話しいただけますか?

植田:これらのアセットクラスも、世の中に先駆けて積極的に取り組んでいます。試験管を振る場所としてのラボ&オフィスは、日本では賃貸アセットが存在しなかったものを当社が新たに提供し、現在は合計17施設を展開しています。

またデータセンターも、現在AIのベースとして非常に注目を集めていますが、当社ではこれを10年前から手掛けています。今後さらに事業ウィングを広げ、収益の柱を形成していきます。

プラットフォーマーとしての深化と進化

守田:第3の道「新事業領域の探索、事業機会獲得」です。御社が行っている「場」や「コミュニティ」などの提供について、ご説明をお願いします。

植田:先ほど「当社は産業デベロッパーである」とお話ししましたが、現在、この取り組みをよりポジティブに進化させています。「場」の提供に加え、「コミュニティ」の提供も行い、「産業デベロッパー2.0」に生まれ変わっています。

具体的には、新政権でも重点分野となっているライフサイエンス、宇宙、半導体といった分野でコミュニティを運営しています。現在、ライフサイエンス分野では約1,000社、宇宙分野では約350社と、多くのみなさまにコミュニティにご入会いただいています。今年7月には半導体産業を支援する「RISE-A」という組織を立ち上げ、「産業デベロッパー2.0」をさらに進化させています。

事業拡大に向けたイノベーション創出の取り組み

守田:ここからは私がご紹介します。このような状況の中、イノベーション創出のための取り組みを、スライド右下に記載の資金枠などを活用しながら進めています。

財務戦略と主な定量目標の進捗状況

守田:定量目標の進捗についても、数字で確認したいと思います。ROEは10パーセント以上、EPS成長率はCAGR(年平均成長率)8パーセント以上を目指し、さまざまな取り組みを進めている状況ですね?

植田:おっしゃるとおりです。

株主還元方針

守田:株主還元についても確認します。累進配当を掲げ、27年間、一度も減配していません。言い換えれば、株主のみなさまを非常に大事にされています。

これを踏まえ、株価について一言コメントをいただきたいと思います。御社は11月26日に1,872.5円と上場来高値を更新していますが、この評価をどのようにご覧になっていますか?

植田:当社の価値があらためて評価されたということで、本当に素直にうれしく思っています。ただし、極めて好調な今の業績や今後の成長性を踏まえると、株価にはまだ上昇余地があると感じています。今後も企業価値・株主価値を高めながら、その結果を株価というかたちでみなさまに示していきたいと考えています。

守田:「& INNOVATION 2030」で掲げた目標の達成に自信はありますか?

植田:はい。「& INNOVATION 2030」で掲げた目標の達成には、間違いなく自信があります。今期も過去最高益を更新し、「& INNOVATION 2030」で掲げたすべての目標を達成していきます。

当社のコーポレートメッセージは「さあ、街から未来をかえよう」です。今後とも当社をよろしくお願いします。

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