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日本曹達:高付加価値な化学製品と果樹・野菜向け農薬展開するグローバルニッチ企業、配当利回り3.8%前後で推移

日本曹達は、「化学」を通じて優れた製品・サービスを世の中に生み出し、健全な社会の実現に寄与する企業グループ。ケミカルマテリアルとアグリビジネスを軸に、高付加価値品へ経営資源を振り向けるグローバルニッチ企業となる。セグメントは5つとなっており、ケミカルマテリアル(前期売上高構成比23.5%・前期営業利益構成比37.8%)では工業薬品、樹脂添加剤、半導体フォトレジスト材料、医薬品添加剤などを中核に据え、アグリビジネス(同34.5%・同31.9%)では果樹・野菜向けの殺菌剤・殺虫剤に特化している。また、トレーディング&ロジスティクス(同27.6%・同15.1%)、エンジニアリング(同8.5%・同14.8%)、エコソリューション(同5.9%・同0.4%)も有しており、単なる周辺事業ではなく、原材料調達、粉体プラント建設、危険物処理まで含めて主力事業を下支えする構造になっている。トレーディング&ロジスティクスはグローバル調達機能や危険物・毒劇物の運輸倉庫事業として利益率も高く、エンジニアリングは農薬原体や医薬品添加剤の量産化に不可欠な粉体プラント設計・建設技術を持っている。

さらに細分化すると、ケミカルマテリアルの内訳では、工業薬品22.1%、化成品22.8%、機能材料15.5%、エコケア製品11.9%、医薬品・工業用殺菌剤27.6%にわかれている。また、アグリビジネスの内訳は、殺菌剤54.0%、殺虫剤・殺ダニ剤38.4%、除草剤7.6%、アグリビジネスにおける海外売上比率も日本35.4%・海外64.6%となっている。

同社の競争優位の源泉は、汎用品の数量勝負ではなく、供給者が限られる特徴的な製品群を複数束ねている点にある。医薬品添加剤のNISSO HPCは、医薬品の錠剤を成型する結合剤として使われ、水やアルコールに溶ける数少ない添加剤であること、結合力や徐放性に優れることから幅広く支持されている。NISSO HPCとNISSO SSFが機能性と安全性の高さからOD錠向けなどで評価されている。医薬品添加剤は同社含めてグローバルで2社、そのうち同社は国内シェア100%、と競争環境はかなり限定的とみられる。また、機能性化学品でも、半導体フォトレジスト材料であるVPポリマー、液状ポリブタジエンNISSO-PB、高機能ポリマー1,2-SBSなど、供給メーカーの少ない製品を並べている。VPポリマーもグローバルで数社の一角に位置し、フォトレジスト材料としてKrF向けに使われるという。総じて、単一製品の圧倒的シェア企業というより、医薬品添加剤、樹脂添加剤、フォトレジスト材料、果樹・野菜向け農薬といったニッチ高付加価値領域を束ねることで、収益性と安定性を両立している。

業績面では、2026年3月期第3四半期累計の売上高は1,062.72億円(前年同期比1.0%減)、営業利益は115.11億円(同2.8%増)で着地した。売上高は微減ながら、営業利益は増益を確保している。全社ではアグリビジネスの販売改善と持分法による投資利益増加が寄与した。ケミカルマテリアルでは医薬品添加剤「NISSO HPC」や医薬品原体、非フェノール系感熱紙用顕色剤、樹脂添加剤「NISSO-PB」の販売が増加した一方で、工業薬品・エコケア製品の販売が減少した。同時に、通期会社計画も上方修正され、修正後の2026年3月期予想は、売上高1,510億円(前期比2.7%減)、営業利益146億円(同9.1%減)に引き上げた。想定以上に円安が進んだことに加え、ケミカルマテリアルでの高付加価値製品の伸長、アグリビジネスでの欧州販売回復が背景にある。

市場環境をみると、同社は複数の成長市場に接点を持っている。農薬では、グローバルで穀物向け大手・ジェネリックとの真正面競争を避け、果樹・野菜向けの特色ある殺菌剤・殺虫剤に特化しているため、価格競争一辺倒になりにくい。ケミカルマテリアルでは、医薬品添加剤が高齢化や製剤高度化の流れを追い風に安定成長が見込める一方、機能材料ではAIサーバーや高速通信向けの電子材料需要が追い風となる。実際、会社側はNISSO-PBは電気絶縁特性を活かしたAIサーバー用銅張積層板(CCL)向けの添加剤として利用が進んでおり、1,2-SBSも次世代高速通信向け材料として期待されている。半導体フォトレジスト材料のVPポリマーも増産設備が竣工しており、減価償却負担は先行するものの、中長期の需要取り込みに向けた布石といえる。ただ、フォトレジスト材料や電子材料は景気や半導体投資サイクルの影響も受けるため、医薬品添加剤のようなディフェンシブ性とは性格が異なる点は押さえておきたい。

中長期の成長戦略では、長期ビジョン「かがくで、かがやく。2030」の後半戦に入る。高付加価値事業の拡大と不採算事業の整理を進め、2020年3月期から2025年3月期にかけてROSを5.6%から10.4%、ROAを3.8%から5.6%、ROEを4.8%から8.0%へ改善させてきた。後半5年間では、既存事業の収益性向上でキャッシュを創出し、成長投資と新規事業創出へ振り向ける方針で、棚卸資産の縮減や政策保有株式の整理も進める。2030年3月期KPIはROS10%以上、ROA7%以上、ROE10%以上を目指している。取材でも、現在はステージ2の最終年に当たり、5月の決算発表に合わせてステージ3を示す方向とのことだった。引き続き成長ドライバー製品(新規農薬3剤、医薬品添加剤 「NISSO HPC」、フォトレジスト材料 「VPポリマー」、樹脂添加剤 「NISSO-PB」)のさらなる拡大に加え、新規事業では世界初となる有機EL発光材料「TADF」の量産とアニマルヘルス事業では農薬・殺虫剤の化合物を動物薬へ展開する構想を持ち、(株)SENTAN Pharmaへの追加出資を行っている。既存のケミカルマテリアルとアグリビジネスが稼ぎ頭であることに変わりはないが、その周辺で次の柱をどう作るかが来期以降の注目点になろう。

株主還元と資本政策への意識も高い。2026年3月期から累進配当方針を導入し、安定的・継続的な配当を維持しつつ、資本構成の適正化や株価水準を踏まえた機動的な自己株取得を行い、総還元性向50%以上を継続すると明記している。足元の配当利回りは、3.8%前後で推移している。

総じて、日本曹達は医薬品添加剤、樹脂添加剤、フォトレジスト材料、果樹・野菜向け農薬といったニッチ高付加価値領域を束ね、そこにトレーディング&ロジスティクス、エンジニアリング、エコソリューションといった補完機能を組み合わせることで独自の事業ポートフォリオを築いている。足元では医薬品添加剤やNISSO-PB、欧州向け農薬販売の改善が収益を支えており、構造改革も着実に進んでいる。一方で、為替要因の寄与が大きいこと、南米でのジェネリック競争、電子材料分野の市況感応度といった論点は残る。とはいえ、次期ステージ3の中で有機EL材料やアニマルヘルス事業をどう育成し、既存の高付加価値領域をどこまで伸ばせるかが明確になれば、「高耐久型グローバルニッチ化学企業」として評価を切り上げる余地がありそうだ。

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