■スタートラインの事業概要
1. 事業内容の続き
(2) 障害者福祉事業
障害者福祉事業では、就労移行・定着・選択支援サービス「FITIME」と、就労継続支援B型のリアルジョブトレーニングステーション「GOOD THE GOOD」の2つのサービスを提供している。事業の収益モデルは、行政からの障害福祉サービス費等の基本報酬が収益の柱となる。
1) 就労移行・定着・選択支援サービスFITIME
「FITIME」は、就労移行支援事業所において行政(市区町村)により障害福祉サービス受給者証を発行された65歳未満の就職前の障害者の教育訓練を提供する就労移行・定着支援サービスである。2021年2月にサービスを開始後、2025年1月に「るりはり」から「FITIME」へリブランディングし、一般事務職等の就労を想定した総合型から、人手不足が深刻化し、変革期を迎えていると考えられるサービス業(飲食、アパレル、販売等)の専門スキル特化型へ、サービス提供内容を変更した。2026年4月1日時点での拠点数は1拠点(埼玉県)となっている。
2) 就労継続支援B型・リアルジョブトレーニングステーションGOOD THE GOOD
「GOOD THE GOOD」は、国連の2017年プロジェクトゼロ賞を受賞するなど世界中の主要な組織から評価されているイスラエルのShekulotov Group(シェクロトブ グループ)と提携し、就労継続支援B型のスキームを活用したカフェ型のリアルジョブトレーニングステーションである。カフェでのキッチン作業やバリスタ業務、接客、軽作業、レジ対応等の様々な仕事を通じて職業スキルを身に付け、就職につなげるという、就労移行支援と就労支援の垣根を取り払った形態である。一般的な就労継続支援B型における一般就労への移行比率が10%程度であるのに対して、「GOOD THE GOOD」では利用者の約30%の移行を目標としている。
2. 市場環境、同社の強み・特徴と競合、及び事業等のリスク
(1) 障害者雇用をめぐる市場環境
わが国の障害者数は、社会構造の変化、医療・診断技術の進歩、そして人々の意識の変化などの要因により増加傾向となっている。障害別に労働人口を見ると、身体障害者は減少傾向にある一方、対照的に知的障害者や精神障害者は増加している。特に精神障害者は、コロナ禍の影響などにより急増が顕著となっており、2023年における25~64歳の精神疾患外来患者数は、2011年比で128万人増加し290万人へ拡大している。このため、今後の障害者雇用において、増加傾向にある知的・精神障害者の雇用・定着をいかに進めるかが企業の重要な課題となっている。
一方、企業の障害者雇用は、国が進める雇用対策に大きく影響を受ける。障害者雇用促進法では、企業に対し、法定雇用率以上の障害者の雇用を義務付けており(1976年に身体障害者、1998年に知的障害者、2018年に精神障害者の雇用を義務化)、民間企業の障害者法定雇用率は2026年7月に現行の2.5%から2.7%へ引き上げられる。厚生労働省の「令和7年 障害者雇用状況」によると、民間企業の雇用障害者数は前年比4.0%増の70.4万人、実雇用率2.41%(前年同率)と着実に推移しており、法改正に伴い雇用人数は増加傾向にある。
法定雇用率引き上げに伴い、企業向け障害者雇用支援サービスへのニーズが増大し、農園型サービスなどを中心に参入事業者が増加、競争が激化している。しかし、厚生労働省は単なる「数合わせの雇用」からの脱却を促しており、今後は障害者が特性を生かして活躍できる職場づくりといった「雇用の質」と、義務付けられた「雇用人数」の双方がより厳しく問われる局面を迎えている。このため、業界や企業が抱えるこれらの課題に対して、同社の強みが発揮されやすい環境になっている。なお、同社では現状の市場規模を1.5兆円※と試算しているが、今後も障害者数の増加や法定雇用率の引き上げが予想されることから、一段の市場拡大が見込まれる。
※ 障害者1名当たりの同社平均12ヶ月売上高(2026年3月期実績)2,227千円×雇用障害者数70.4万人にて試算。
(2) 強み・特徴
同社は、1) 科学的根拠に基づく支援力と、2) 企業のニーズと個人の適性に応える多様なサービスラインナップの2つを強みとして、競合他社との明確な差別化を図っている。
1) 科学的根拠に基づく支援力
最大の特徴は、「CBSヒューマンサポート研究所」という専門の社内研究開発機関を有している点である。同研究所では日々支援力の研究・開発を行い、専門的な支援技術や独自の就労支援ツールを開発・運用している。これらの理論をベースとした支援力を備えた200名以上の支援員(公認心理師、精神保健福祉士、社会福祉士などの多数の有資格者を含む)が、各サービスの現場で障害者の継続的な支援を行っている。この現場支援により蓄積されたノウハウやデータは再び研究・開発にフィードバックされ、「新たな支援コンテンツの開発→ノウハウの蓄積→支援力のさらなる向上」という好循環を形成している。こうして高められた支援力が同社の競争優位性・参入障壁の原動力になっている。
2) 企業のニーズと個人の適性に応える多様なサービスラインナップ
高い支援力をベースに、独自の工夫やアイデアに加え、プロフェッショナル企業とのコラボレーションにより、顧客企業にとって新たな価値となる障害者の多様な職種や働き方を創出している。具体的には、前述の「コーヒー焙煎」「植物栽培」「オフィスワーク」など、サービスラインナップは多岐にわたる。多くの競合他社が農園型のみ、あるいはオフィス型のみといった単一のパッケージを主力とするなか、同社は「農園・ロースタリー・オフィス」を網羅したマルチラインナップ戦略を展開している。
以上のことから、同社は顧客企業に対して自社の事業シナジーやカルチャーに合った雇用形態を提案できるだけでなく、働く障害者側にとっても、自分に合った職種を選択できる環境を提供している。この選択肢の柔軟性と、科学的アプローチが生み出す定着率が相乗効果を発揮することで、他社が容易に模倣できない強固なビジネスモデルの構築に成功している。
(3) 競合
厚生労働省(2024年11月末時点)※によると、障害者雇用支援ビジネス事業者は39事業者、就業場所数186ヶ所と公表されている。このうち主なプレイヤーは、同社のほか、エスプールの子会社である(株)エスプールプラスと、JSHの3社である。エスプールプラスとJSHを中心に他社は農園型のサービスが主体となっており、「支援」と「多様な業務」を同時に提供できるのは同社のみである。
※ 第133回 労働政策審議会障害者雇用分科会「いわゆる障害者雇用ビジネスに係る実態把握の取組について」。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 森本 展正)