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開放の裏で進む統制の厳格化:中国の新たな出入国規定と人の移動の安全保障化(1)【中国問題グローバル研究所】

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。

※この論考は8月5日の<Open Doors, Tighter Controls: China’s New Exit-Entry Rules and the Securitisation of Mobility>(※2)の翻訳です。

中国が新たに施行する出入国規定により、国境を越えた人の移動は国家・産業・技術安全保障という広範な枠組みに組み込まれることになる。この新規定は外国人には将来的な入国禁止、中国国民には出国制限、台湾人渡航者には法的に特殊でリスクの高い状況をもたらすとともに、日本の企業や研究者にとっては通常の経済活動と国家安全保障の取り締まりの境界が一層曖昧になる。

発展優先の開放から安全保障重視の出入国管理へ
中国で新たに制定され、2026年9月15日から施行される出入国管理に関する国務院規定(国務院令第841号)は、中国の開放政策の大きな節目となるものだ。全19条の同規定により、入国審査、ビザ管理、国境検問と、輸出管理、技術移転ガバナンス、制裁実施、電子データ検査が明確に結び付けられることになる。これにより、国境を越えた人の移動は情報、テクノロジー、所属組織、政治的リスクを管理する広範なシステムに組み込まれる。

この新規定は、ビザなし入国、トランジットの円滑化、インバウンドの旅行と消費の増加を目的とした各種政策が展開される中で施行される。中国の移民管理局は、これらの取り組みを「高度な開放」および広範な国際交流の一環と位置付けている。2つの政策は同時進行で進められ、観光やビジネスなど許可された交流のための入国は促進する一方、機密情報や戦略技術に関わる人、政治的立場が争点となっている人、あるいは制裁リスクを伴う人の移動はより厳格な保安管理下に置かれる。中国の対外開放は従来とは異なり、安全保障を重視した交流モデルへと移行している。

こうした構造は伝統的な隔離ではなく「選択的遮断」と評するのが正確だろう。中国は一部の入国ルートの拡大を進める一方、安全保障上の懸念が生じた場合に国家が出入国を遮断できる能力を強化している。移民管理局は身元や渡航目的の確認時に書類や資料、電子データの提出を要求でき、書類や陳述に虚偽が認められれば書類や出入国の拒否につながるおそれがある。どこまでが「開放」でどこからが「安全保障上の規制」なのかを、行政当局の判断がますます左右するようになっている。

外国人を締め出し、中国国民を国内にとどめる方向へ
この新規定には外国人と中国国民で明確な非対称性がみられる。ビザ申請時または国境での入国申請時に文書や陳述に虚偽が認められた外国人は、中国への入国を1~5年間禁じられるおそれがある。国境管理の妨害、渡航書類の不正入手、不法な出入国を理由として処罰された場合も、処罰後に同様の入国禁止となるおそれがある。中国の対抗措置制度の対象となる個人は書類や入国を拒絶されるおそれもある。

企業幹部、学者、ジャーナリスト、技術専門家は、5年間の入国禁止により工場や提携先、資料、現場、クライアント、国際会議へのアクセスや、家族とのつながりが遮断されるおそれがある。企業戦略や研究課題において中国の重要性は高まっており、そうした入国禁止措置は観光以外にも甚大な影響を及ぼす。

中国国民はより即時的な管理下に置かれることになる。出入国書類の不正取得や不法出入国に対する行政拘禁は6か月~3年間の出国禁止につながるおそれがある。また、国家安全保障および国益に有害とみなされる非合法活動や犯罪に海外で従事していた中国国民は、帰国後に同様の制限を課せられるおそれがある。

もっとも重要な規定は、国家・産業・技術安全保障を危険にさらすおそれがある輸出管理および技術輸出入規定に対する違反だ。商務その他の主管部門は出国禁止の権限を有し、条文には最長期間は明記されていない。そのため、外国人は入国禁止、中国国民は出国禁止を命じられるおそれがある。そうした制限は海外での就職、留学、親族の集まり、転勤、国際ネットワークへの参加に影響を及ぼす。

技術安全保障条項は産業政策を国民管理へと拡大させる。半導体、人工知能、先進製造業、電気通信、航空宇宙、デュアルユーステクノロジー(軍民両用技術)における競争は、技術者や研究機関責任者、企業幹部、サプライチェーンスペシャリストが有する暗黙知に左右される。個人ベースの出国制限は、文書精査だけでは得られない知識を管理する手段となり得る。

また、人の移動は中国の報復制裁戦略の一部ともなっている。日本、米国、欧州連合が課す輸出管理に従う企業は中国の対抗措置の対象となりうる。その従業員は相反する法体制の下に置かれる可能性があり、個人が移動する際の地理経済学的紛争リスクは増大している。

統制の手段に潜む不確実性
この新規定がもたらす最大の影響は、正式な出入国措置が下される前に生じるかもしれない。国家安全保障、国益、産業安全保障、技術安全保障、潜在的有害性といった用語には、行政当局による解釈の余地がかなり残されている。「虚偽陳述」も同様に実務上かなり広く解釈されうる。偽造文書や虚偽の身元情報が絡む案件は明確な対象だと分かるが、勤務先、所属組織、研究活動、政府とのつながり、技術へのアクセスなどについての説明が不完全だった場合などは曖昧だ。

通常、当局は出国禁止に関する事実、理由、法的根拠、救済手段に関して書面で通知を行うが、国家安全保障上の懸念や犯罪捜査への影響が考えられる場合は事前通知を行わないことが認められている。そのため渡航者は実際に出国しようとして初めて出国禁止を知る可能性があり、そのときにはすでに利用航空便、仕事の予定、家族の計画、業務上の約束などに問題が生じているかもしれないのだ。

開放政策が機能するには予測可能でなくてはならない。法的な境界が分かりにくいと、企業や個人は予防策で対応することになる。経営幹部の渡航回数は減るかもしれない。極秘データは中国以外で管理され、スタッフはアクセス制限付きの専用端末を利用し、会議は地域拠点で行われ、中国の現地子会社はグローバル情報システムから切り離され、大学は実地調査やインタビュー、共同研究を縮小するだろう。

2025年のウェルズ・ファーゴ事件は、一社員の出国禁止が企業全体の行動を変えうることを実証している。ウェルズ・ファーゴ社のマネージングディレクター、チェンユエ・マオが中国からの出国を禁じられると、同社は従業員の中国渡航を一時停止した。中国当局がその後発表した声明によれば、マオは犯罪捜査への協力を求められていたという。この出国制限は2025年9月に解除され、マオは数か月ぶりに米国に戻ることができた。一時的な出来事だったとはいえ、本件は個人に対する出国制限が組織全体の渡航に影響を及ぼし、中国への渡航リスクに関し企業が懸念を増大させたことを示している。実際の取り締まりが限定的なままであっても、規定に潜む不確実性によって、人の移動は安定して確保されるものではなく、いつでも取り消されうる許可へと変わってしまう。

「開放の裏で進む統制の厳格化:中国の新たな出入国規定と人の移動の安全保障化(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。

天津浜海国際空港第1ターミナル、入国審査の行列(写真:新華社/アフロ)

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/7483

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