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今上天皇の切り札か?“朝敵”安倍政権を追い詰める生前退位騒動=斎藤満

改憲に邁進する安倍政権に予期せぬ歯車の狂いが生じています。天皇陛下が皇太子殿下に生前譲位したいとの意向を示されたことは、官邸を慌てさせる「まさか」の事態です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年7月15日号の抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

参院選大勝の安倍自民党を揺さぶる、まさかの「大どんでん返し」

小池百合子氏と鳥越俊太郎氏

参院選で大勝した安倍政権にも、予期せぬ歯車の狂いが生じているように見えます。

参院選後には内閣改造で「人事待ち」の人々を吸い上げ、組織の維持を図りつつ、5兆円とも言われる東京五輪の利権と絡む東京都知事選挙を政権寄りの人間に勝たせ、成長見通しを下方修正して経済立て直し、大規模補正を行い、その勢いで衆議院解散総選挙改憲と進む運びだったはず。

実際、このシナリオに沿って、着々と駒を進めてきました。都知事選では党内調査の結果、桜井総務次官、片山氏、増田元総務大臣の順で評価されていることが分かりましたが、桜井氏に固辞されたため、片山降ろしを画策、そして増田氏で行けると踏んでいました。

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そこにまさかの小池百合子氏の立候補があり、自公の予定が狂いました。背後で米国の別の勢力が推したようです。

小池氏を説得しきれず、分裂選挙を余儀なくされることになったため、野党共闘を崩す必要があり、官邸の白羽の矢が立ったのが宇都宮健児氏だったようです。

前回は社民、共産党推薦の候補ですが、今回は両党も彼を推さず、官邸が裏でささやいたと言われます。野党が共闘しても、宇都宮氏と食い合いになり、最後は組織の増田氏が勝つとの読みでした。

ところが、野党共闘の候補が鳥越俊太郎氏となり、最後の最後で宇都宮氏が降りてしまったために、都知事選が厳しくなりました。鳥越氏は安倍政権を史上最悪の政権と公言し、五輪予算もカットする意向を見せています。鳥越知事となれば、五輪での利権確保は難しくなります。

財政出動で株価押し上げ

経済対策では、ここまでは予定通りの展開です。13日の経済財政諮問会議で、今年度の成長見通しを、従来の1.7%から0.9%に引き下げ、景気テコ入れが必要との認識を得、民間議員から、財源を確保したうえで6兆円から8兆円の経済対策が必要との言葉を引き出すことに成功しました。

今後はその規模を上乗せして、「大胆な経済対策」に仕上げるはずです。

もっとも、参院選後の世界的なリスク・オンのなかで、株価が反発し、ドル円も105円近くまで戻したため、市場に緊張感が薄れた分、大規模な財政支援を出しにくくなった面もあります。

いずれにしても、経済面でテコ入れ策を出し、相場を押し上げておいて次の選挙、改憲と進むことになります。

天皇陛下の生前退位は全くの想定外

そこへもう一つ、官邸を慌てさせる「まさか」の事態が生じました。天皇陛下が数年以内に退位され、皇太子殿下に生前譲位したいとの意向を示されたことです。官邸は全く考えていなかった模様です。

歴史的には事例は多いとしても、この200年においては例がなく、皇室典範にも規定がありません。そうなると、何よりもまず皇室典範の改定、あるいはその是非について慎重に議論を進めることになります。これは憲法改正に優先します。

Next: 改憲に「待った」をかける生前退位、狂い始めた安倍政権の歯車



安倍政権の改憲に「待った」をかける生前退位騒動

有識者の意見を広く集め、粗相なく進めようとすれば、相当な時間をかける必要があり、結果として安倍政権中には憲法改正にたどり着けなくなる可能性があります。

そうなると、最終ゴールを憲法改正に置き、そのために経済対策を含め、脇固めをしてゆく段取りのはずが、はしごを外されることになります。

安倍総理にしてみれば、まさかの「大どんでん返し」となります。それでは何のための内閣改造か、何のための経済テコ入れかわからなくなり、衆議院の解散総選挙の機運も後退します。

天皇陛下はご高齢のためと仰り、実際に動ける人を天皇に据えるのが良い、としか仰いません。このため真意のほどを窺い知ることもできません。

しかし、結果として、国民の意思を超えて改憲に邁進する安倍政権に待ったをかけることになるのは間違いないと思います。

狂い始めた安倍政権の歯車

かつて17世紀に英国の王が悪政のもとに領土を失い、国民生活を圧迫する状況を見かねて、貴族たちが立ち上がり、王の暴走を止めるために制定されたのが「マグナ・カルタ」です。

これは一国のリーダーの悪政、暴走が国民の利益を害さないよう、国王(政府)の動きを制限するために作られた憲法です。

つまり、憲法は一国のリーダーの暴走から国民を守るために、リーダーの行動を縛るもので、リーダーはこれが不自由だからと言って、自ら改正を求めることはできません。国民が政府を信じて初めて「緩める」ことができるものです。

今回、国民の改憲意思が整わないうちから、これに向けて邁進する政府に、国民に代わり「英国貴族」の役割を果たし、日本のマグナ・カルタを守ろうとした神の大きな「意志」を感じます。

いよいよ安倍政権の歯車が狂い始めたような気がします。


※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2016年7月15日号の抜粋です。興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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マンさんの経済あらかると』(2016年7月15日号)より
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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