■シンバイオ製薬のBCVの開発戦略
(7) がん領域における推定患者数と治療薬の市場規模
がん領域における3つのパイプラインの日米欧の推定患者数は、膠芽腫が約3.5万人、頭頚部がんが約14.9万人、EBV関連胃がんが約1.3万人となっており、それぞれの治療薬の市場規模は順に、2,730億円、6,750億円、582億円と見られている、いずれの適応症についても、既存の標準療法では効果が不十分、あるいは副作用の問題を抱えており、BCVの開発を進めていく意義は大きい。
現在、臨床試験中の臓器移植後のAdV感染症やPMLを適応症としたパイプラインの開発が順調に進み、2030年までに上市を実現できる可能性が高まっているほか、市場規模の大きい多発性硬化症を適応症としたパイプラインも今後、臨床試験に向けた開発が進む見通しとなっている。がん領域については共同開発パートナーが決まるかどうかが成功のカギを握っており、今後の動向が注目される。これらパイプラインだけでも潜在的な市場価値は1,000億円を超えるものと見られるが、現時点の同社の企業価値(=時価総額)にはBCVのポテンシャルがほとんど織り込まれていないように思われる。
今後は、パイプラインの開発を着実に進めていくことに加えて、臓器移植後のAdV感染症を対象とした販売パートナーや、がん領域における開発・販売パートナーとの契約を締結することが企業価値向上のトリガーになると弊社では見ている。
■IVD事業について
ウイルス感染症の早期診断・治療に役立つ超高感度のポータブル型測定システムを開発
同社は2025年10月に、日鉄C&Mとの共同研究の成果として、高感度イムノアッセイ法(及びその装置)に関する共同特許を国内で取得したことを発表し、同特許を基にした超高感度(ピコレベル)のイムノクロマト検査システム※「pMエンジン」の早期事業化に取り組んでいる。
※ イムノクロマト法による抗原抗体反応を利用して、抗体の有無を迅速に判別する検査システムで、医療現場のほか、食品、環境衛生、畜産、農業、水産業など幅広い分野で利用されている。
「pMエンジン」の特徴は、既存技術の超高感度(1ピコグラム/mL(1mL 当たり1兆分の1))未満の極微量のウイルス等の抗原を検出できること、小型軽量で持ち運びが可能なこと、高温熱帯地域での操作も可能なこと、データ伝送機能を実装していること、医療現場において即時測定(POCT)が可能であることなどが挙げられる。たとえば、インフルエンザ検査では一般的に鼻腔から検体を採取して10〜20分程度をかけて感染の有無を判別するが、「pMエンジン」は約100倍の高感度で検出が可能なため、ウイルス量が少ない唾液を検体として使うことが唯一可能で、測定時間も1分前後と迅速に行うことができる。
2026年5月には、同システムの基盤となるナノコンポジット粒子の供給に関して日鉄C&Mと、超高感度検査キットの製造については(株)ニッポンジーンとの間で安定的なサプライチェーンを確立した。「pMエンジン」の実用化により、ベッドサイドを含む様々な測定場所において検査を行い、結果を即座に医療機関と共有することが可能となる。
同社では、同システムの特徴を生かして、熱帯性感染症の1つであるリーシュマニア症抗体の検出システムとしての実用化を目指している。リーシュマニア症とは、主にサシチョウバエを媒介とした寄生虫感染症で、世界保健機構が「顧みられない熱帯病(NTDs)※」として分類している疾患の1つだ。年間の感染者数は70~100万人にのぼると推計されており、特に内蔵リーシュマニア症に感染した場合は、感染後数ヶ月から数年を経過してから、発熱、肝臓や脾臓の肥大化と貧血といった症状が出て、放置すれば死に至る。このため早期に感染の有無を診断し、感染者には治療を施す意義は大きい。現在、GHITファンド(グローバルヘルス技術振興基金)に研究開発の助成を申請中で、申請が受理されれば助成金を使って実証試験を進めていくことにしている。
※ 主に熱帯の貧困地域を中心に、劣悪な衛生環境などにより昆虫などを媒介として感染する疾患のうち、重度の身体障害が生じたり、致死率が高い疾患のことで、「人類が制圧しなければならない熱帯病」として21の疾患が世界保健機構で指定されている。
また、「pMエンジン」の応用範囲は医療分野に限らず、農業における病害検査や畜産業における感染症検査、食品産業における安全性検査等、非医療分野でも幅広い展開が期待できる。こうした点も踏まえて、実績を持つ複数のグローバルIVD(体外診断用医薬品)企業と販売ライセンス契約交渉を進めており、このうち米国の大手企業では同システムの技術評価を行っている段階だ。同社は2026年内のライセンス契約締結を目指している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)