2026年10月に発表されたIMFの予想では、日本は来年、GDPでインドとイギリスに抜かれて第6位に後退するとされています。円安の影響もありますが、日本の経済力が他国に比べて急速に落ちているのも事実です。メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』では、著者で元国税調査官の大村大次郎さんが、日本のGDPが落ち込む最大の原因は30年以上上がらない賃金にあると指摘し、企業の内部留保や設備投資の実態とあわせて解説しています。
※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2026年11月1日号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:大村大次郎(おおむら おおじろう)
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に『あらゆる領収書は経費で落とせる』(中央公論新社)『悪の会計学』(双葉社)がある。
日本がGDPでイギリスに抜かれる理由
先月(2026年10月)発表されたIMFの予想では、日本は来年GDPでインド、イギリスに抜かれ第6位に後退するということです。
人口の多いインドに抜かれるのは仕方がないとしても、人口が日本の半分ちょっとしかいないイギリスに抜かれるとなると、「いよいよ日本も落ち目になった」と思う人も多いのではないでしょうか?
GDPはドルに換算されるので昨今の円安が大きく影響しています。
が、日本の経済力が他国との比較において急速に落ちていることもまた間違いないことです。
なぜ日本のGDPがこれほど落ち目になっているのか、その最大の原因は賃金なのです。
日本は30年以上、賃金が上がっていません。
これは先進国ではほぼ唯一であり、世界を見てもそういう国はほとんどありません。
このメルマガでも、何度か引用しましたが、日本経済新聞2019年3月19日の「ニッポンの賃金(上)」によると、1997年を100とした場合、2017年の先進諸国の賃金は以下のようになっています。
アメリカ 176
イギリス 187
フランス 166
ドイツ 155
日本 91
これを見ると、もっとも上がり幅が大きいイギリスと比べれば2倍近い差があります。
上がり幅が最小のドイツと比べても70%近くの差があるのです。
このように日本の賃金状況は、先進国の中では異常ともいえるような状態なのです。
日本人の生活が苦しくなるはずです。
そして賃金が下がるということは、GDPを押し下げる作用があるのです。
これは算数の計算ができる人ならば、誰でもわかることです。
まず賃金というのはGDPに加算されます。
企業が従業員に賃金を払えば、その分、企業の利益は減りますので、差し引きはゼロになります。
しかし従業員に払った賃金は、消費に回ります。
日本の消費性向は60%程度なので、賃金の60%が消費に回るのです。
消費が増えればその分だけGDPが加算されます。
だから、もし企業が従業員の賃金を100万円増やした場合、GDPは160万円加算されることになるのです。
しかも、消費が増えるということは、誰かの収入が増えるということになります。
誰かの収入が増えることで、さらに消費が増えます。
つまり、企業が従業員の賃金を増やせば、社会全体の所得や消費が乗数的に増加していくのです。
これは「乗数効果」と言って、かのケインズなども主張していた現象です。
日本では、この30年間、賃金が上がっていないのでこの「乗数効果」が得られていないのです。
一方、イギリスは賃金がこの30年で倍近く増えていますので、かなりの「乗数効果」が得られているのです。
日本がイギリスにGDPで抜かれてしまう大きな要因がここにあるのです。
日本企業には賃金を上げるだけの体力は十二分にあった
日本でこの30年間賃金が上がらなかったことについて、「企業の業績が悪いのだから仕方がない」と思っている人も多いようです。
しかし、決してそうではありません。
この30年間、日本の企業はしっかり稼いでおり、収益を激増させているのです。
下の表に見られるように、この間の日本企業の業績は決して悪かったわけではありません。
そもそも日本経済というのは、バブル崩壊後もそれほど大きなダメージを受けてはいなかったのです。
バブル崩壊で株価が急落したので日本経済は多大なダメージを受けた印象がありますが、相変わらず経常黒字は累積しており多くの企業では黒字が積みあがっていました。
不動産絡みの負債を抱えていた企業が苦しかっただけです。
また、もうすっかり忘れ去られていますが、2002年2月から2008年2月までの73カ月間、日本は史上最長の景気拡大期間(好景気)を記録しています。
この間に、史上最高収益も記録した企業もたくさんあるのです。
トヨタなども、この時期に史上最高収益を出しているのです。
平成時代というのは、「史上まれに見る好景気の時代」だったのです。
にもかかわらず、賃金が下がっているのは小泉内閣時代の政策が大きく影響しています。
このメルマガでも何度か触れましたが、竹中平蔵氏が前代未聞の「賃下げ推奨政策」を行なったからなのです。
小泉内閣の時代、最低賃金はほとんど上げられませんでした。
そのため日本企業に「景気が良くても賃金は上げなくていい」という観念が植え付けられたのです。
●企業の経常利益の推移
2000年 36兆円
2010年 44兆円
2020年 63兆円
2025年 125兆円
法人企業統計より
収益を貯めこむばかりだった日本の企業
この30年、日本企業はしっかり収益を増やしていながら、賃金を上げてこなかったわけですが、その収益をどうしていたのかというと、貯めこむばかりだったのです。
下の表は、日本企業の内部留保金の推移です。
2000年と2025年を比べれば、3倍以上の激増となっているのです。
この日本企業の内部留保金というのは、経済規模から見れば断トツの世界一なのです。
そして日本では企業の内部留保金が増えるのと反比例して、GDPの国際比較が落ちてきているわけです。
●企業の内部留保金の推移
2000年 194兆円
2010年 294兆円
2020年 484兆円
2025年 655兆円
法人企業統計より
日本企業は投資もほとんど増やしていない
「内部留保金が増えている」という話をすると、必ず「ワケ知り顔の経済評論家もどき」などが「内部留保金というのは、企業の貯金ではない。設備投資に回されるものも含まれているのだ。だから内部留保金が増えるのは、一概に悪いことではない」と反論してきます。
確かに建前の上では、内部留保金は設備投資などに充てられたものも含まれます。
しかし、日本の実情を見た場合、その理論は当てはまらないのです。
日本企業は稼いだ金を賃金には回さず、貯めこむばかりだったのですが、貯めこんだお金を新たな設備投資などに回しているのであればまだ救いようがあります。
しかし、日本企業は設備投資も増やしていないのです。
下の表は、主要先進国のこの20年間の設備投資の増減を示したものです。
これを見ればわかるように日本は、この20年間で設備投資がほとんど増えていないのです。
つまり、日本国内の工業生産力はほとんど上がっていないのです。
先進国というのは、途上国に比べると設備投資の伸びは低いものです。
先進国は設備が整っているので、どうしても増加速度は落ちるのです。
その設備投資が少ない先進国と比べても、日本はひときわ少ないのです。
イギリスは設備投資は少ないですが、先ほどご紹介したように賃金が倍増しています。
だから、社会全体の金回りはよくなり、GDPも上がっています。
しかし日本の場合は、賃金が下がっている上に、設備投資も増えていないのです。
これでは社会全体の金回りが悪くなるのは当然ですし、GDPも増えるわけはないのです。
日本の企業は一体何のために、稼いでいるのか?ということです。
●主要先進国の設備投資(2000年を100とした場合の2021年の数値)
日本 108,7
アメリカ 177,5
イギリス 116
ドイツ 124,7
フランス 151,4
(出典:内閣府令和4年度「年次経済財政報告・設備投資の国際比較」)
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「大村大次郎の本音で役に立つ税金情報」(2026年11月1日号)より一部抜粋・再構成
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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元国税調査官で著書60冊以上の大村大次郎が、ギリギリまで節税する方法を伝授。「正しい税務調査の受け方」や「最新の税金情報」なども掲載。主の著書「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)