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【展望】トランプ弾劾懸念は一時後退、予算教書第2弾に注目が集まろう=馬渕治好

今週は5/23(火)に、米国で「予算教書第2弾」が公表されます。米国市場を中心に、「一応」中身を見極めよう、という投資家が多くなるでしょう。また、気の早い市場参加者は、トランプ大統領が失職する可能性が高まれば高まるほど、米株価も米ドルも上昇する、と主張し始めていますが、この主張は怪しいと考えています。それぞれ、詳しく解説しましょう。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)

※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2017年5月21日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。市場急変時には号外の配信もあります。

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」2017/5/21より

過ぎし花~先週(5/15~5/19)の世界経済・市場を振り返って

<コミー前長官の議会証言など、今後もムカデの靴が落ち続ける可能性高いが、ひとまず市場に落ち着き>

(まとめ)
当メールマガジン号外で解説したように、米国で、コミーFBI前長官の解任を契機に、政治的な不透明感が強まり、内外市場に波乱が生じました。米議会上院は、5/30(火)以降の早いうちに、コミー氏を公聴会に招いて証言させることを決定しており、今後も「ムカデの靴が落ち続ける」可能性が高いと見込みます。

ただ、これも号外で述べたように、すぐにトランプ大統領が弾劾されるわけではなく、米国の実体経済や企業収益は堅調であるため、市場は週末にかけて、ひとまず落ち着きを取り戻しています。

(詳細)
前号の当メールマガジン定例号(5/14(日)付第307号)で、トランプ大統領がコミーFBI長官(当時)を解任したことは重大な意味を持つ、と解説しました。

その後も、5/18(木)付の号外で述べたように、トランプ大統領がツイッターで、コミー氏に対する脅しとも取れる失言を行なったこと、ロシアのラブロフ外相らにテロ組織イスラム国についての機密情報を伝えたと報じられたこと、などなどから、トランプ大統領が弾劾され失職するのではないか、との観測が広がり、5/17(水)の米国市場を中心に、米株安・米ドル安が進み、他国市場にも悪影響が及びました。

その後、5/19(金)に、米議会上院の情報特別委員会は、コミー前長官を公聴会に招き、証言してもらう、と発表しました。その証言の日程は、5/30(火)以降の早い時期、とされています。またこれに先んじて、5/17(水)には、司法省はモラー元FBI長官を、特別検察官に任命し、大統領あるいは政府高官とロシアとの関係についての疑惑を、捜査することとなっています。

5/14(日)付のメールマガジン定例号で述べたように、マケイン上院議員(共和党)は、この疑惑は、ムカデがたくさんの靴を履いており、その靴を一つずつ脱ぐたびに床にごとん、ごとん、と音を立てて落ちるように、まだまだ騒がれるだろう、と語っていますが、まさにその通りの展開となっています。

ただ、世界市場は、週末にかけて、(これも号外で見込んだように)やや落ち着きを取り戻しました。その背景は、号外の繰り返しになりますが、

(1)さすがのトランプ大統領も、これから次々と新しい「爆弾」を投げ込むとは考えにくい
(2)今後しばらくは、捜査の進展を待つ状況であり、一直線に弾劾に向かうとは見込みにくい(ただし、最終的にトランプ氏が辞任するか弾劾される可能性は高いと予想しています)
(3)米国の景気や企業収益の実態は堅調

といった点にあります。

なお、気の早い市場参加者は、トランプ大統領が失職すれば、ペンス副大統領が後継となるが、その方がよい状況なので、失職の可能性が高まれば高まるほど、米株価も米ドルも上昇する、と主張し始めました。この主張は怪しいと考えているのですが、その点はこの後の「盛りの花」で述べます。

こうした先週の内外市場の動向を、まず主要な株価指数の騰落率ランキング(現地通貨ベース)で振り返ってみましょう。

騰落率ベスト10は、ベネズエラ、オーストリア、インドネシア、ハンガリー、インド、スリランカ、ルクセンブルグ、南アフリカ、アルゼンチン、英国でした。米国発の市場波乱で、世界的に株式市場が暗かったという印象があるのですが、欧州諸国の一部や新興諸国などで、株価が堅調な国もあったという状況でした。

騰落率ワースト10は、ブラジル、パキスタン、豪州、フランス、日経平均、アイルランド、ベルギー、オランダ、ポーランド、TOPIXでした。前述のように、欧州諸国では、株価が上昇した国もありましたが、米国の影響を強く受けた国もあった、という、まちまちの状況だったと言えます。また米ドル安円高の影響や、相変わらずの自信の無さから、米国株価以上に日本株が下落した、という体たらくでした。

外貨相場(対円)の騰落率ランキングは、ベスト10は、アイルランドクローナ、ポーランドズロチ、スイスフラン、ハンガリアフォリント、チェココルナ、ノルウェークローネ、ユーロ、ブルガリアレフ、デンマーククローネ、クロアチアクーナと、欧州通貨ばかりです。これは、米国における政治不安で、欧州通貨買い・米ドル売りが嵩んだため、対円でも欧州通貨相場が押し上がったことによると推察しています。

騰落率ワースト10は、ブラジルレアル、アルゼンチンペソ、ミャンマーチャット、トルコリラ、インドルピー、チュニジアディナール、フィリピンペソ、台湾ドル、ベトナムドン、インドネシアルピアでした。米ドルはワースト11位で、やはり米ドル安の様相が強かったと言えます。

なお、株価でも通貨でも、ブラジルがワースト1位でした。これは、テメル大統領の汚職疑惑によるものです。

この汚職疑惑自体は、特に新しい話ではありません。もともとは2010年のことですが、当時の大統領はルラ氏でした。ルラ氏は労働党で、政権は労働党とブラジル民主運動党(PMDB)との連立でしたが、その時のPMDB党首がテメル現大統領です。国営の石油企業ペトロブラスと政権との癒着はずっと指摘されていますが、当時、建設大手企業のオデブレヒトから、テメル氏や下院議長だったクニャ氏がわいろを受け取り、ペトロブラスからオデブレヒトに仕事を発注させた、という疑惑がありました。この嫌疑や他の容疑で、クニャ氏は投獄されています。

今回の疑惑は、やはり別の汚職に絡んでいると言われている、食肉大手のJBS(牛肉の加工では世界最大規模)という企業が、口封じのため獄中のクニャ氏に資金を提供していたが、テメル大統領がJBSのバチスタ会長との面談時に、そうした資金提供を容認したと、ブラジルの新聞オ・グローボが5/17(水)に報じた、というものでした。

ブラジル最高裁は、5/18(木)に、テメル大統領に対する捜査を許可しており、この疑惑で種々の法案審議が遅れることが懸念されています。また、レアルが下落することで、海外からの投資が滞ったり、輸入物価の上昇でブラジル中央銀行の金融緩和の妨げになったりする、という恐れが生じています。

どうも米国だけではなく、ブラジルでも、ムカデが靴を脱ぎ続けるようです。

Next: 【展望】今週(5/22~5/26)の世界経済・市場の動きを徹底分析!



来たる花~今週(5/22~5/26)の世界経済・市場の動きについて

<予算教書第2弾に注目集まろう、現時点では特に市場を動かさないと見込む>

(まとめ)
今週は、5/23(火)に、米国で「予算教書第2弾」が発表される予定です。予算教書第1弾は、減税やインフラ投資の詳細を欠いた、前代未聞のものであり、その後4月に発表された税制改革案も、中身がスカスカでした。今回の第2弾では、インフラ投資の具体的な額が盛り込まれるそうですが、少なくとも市場が大いに好感しそうにはないと見込みます。ただし一方で、過度の期待もないため、最終的には失望が大きく生じることもないでしょう。とは言っても、発表前に、様子見気分が広がることはありえます。

(詳細)
今週は、5/23(火)に、米国で「予算教書第2弾」が公表されます。米国市場を中心に、「一応」中身を見極めよう、という投資家が多いでしょう。

これまでのトランプ政権の財政に絡む政策の動きは、期待外ればかりでした。通常、予算教書は2月上旬までに公表されるものですが、予算教書第1弾は、遅れて3/16(火)に発表されました。ここでは、減税やインフラ投資については、きちんと数字を詰めることができず。具体的な額が含まれていませんでした。税収がどうなるのか、あるいは支出項目のうち、目玉政策のインフラ投資の額がどうなのか、といった、重要な項目を欠いている予算教書は前代未聞で、失望を招く内容でした。

続いて4/26(水)には、税制改革案が発表されました。この際の配布資料はA41枚に過ぎず、レーガン大統領によるいわゆる「レーガン減税」の際は、最初に公表された第1稿でも500ページ以上あった、という余りの違いが嘆かれました。加えて、たとえば個人の所得税については、現在の税率(7段階)を3段階の税率に整理する、という方針は公表されましたが、具体的にいったいいくらの所得からどの税率になるのかは明らかにされておらず、エコノミストの間では「経済に与える効果など、分析のしようもない」と落胆の声が広がりました。

今回の予算教書第2弾では、選挙時の公約として、「10年間で1兆ドル」としていたインフラ投資について、財政では10年間で2000億ドルだけ支出する、という方針だと報じられています(5/19(金)付ロイターなど)。あとの8000億ドルは、民間に投資してもらう、とのことです。

当初からインフラ投資計画については、民間にもお金を使ってもらう、と大統領は語っていましたので、財政分が2000億ドルだけであろうと、全く公約違反ではありません。ただ、何らかの優遇策を付けるとしても、民間がインフラ投資しようと考える(インフラ投資がビジネスとして引き合う)と考えているのであれば、トランプ大統領の計画がなくても、既に勝手に投資しているでしょう。民間が現状でインフラ投資に動いていないのであれば、少々の優遇策を付けても、民間は動かない(8000億ドルも投資しない)と考えられます。

もちろん、10年で2000億ドル規模でも、財政を使わないより使う方が、景気刺激的です。ただ、与党共和党は、財政赤字の拡大を気にしています。トランプ大統領は、当面減税やインフラ投資で財政が悪化しても、それにより景気が良くなれば、税収が増えて財政が先行き改善すると言っていますが(それは正しいかもしれませんが)、議会共和党は、インフラ投資の額を2000億ドルからさらに削ってくるか、インフラ投資の分、他の支出を削ると見込まれますので、最終的には財政が大きく景気を刺激する、ということにはならないでしょう。

こうした点から、予算教書第2弾は、これまでの「失望路線」の延長にあると見込みます、とは言っても、もう失望はとっくに市場で広がってしまっていますので、大した内容でなくても、それが米国株価や米ドルを大きく押し下げるとも予想していません。
最終的には、米国株式市場や米ドル相場には、上にも下にも波乱は生じにくいと考えています。

この他の材料としては、5/25(木)に、OPEC(石油輸出国機構)総会が開催されます。既に5/15(月)に、OPECの盟主サウジアラビアと、OPEC非加盟国であるロシアの間で、現在2017年6月末まで続けると合意されている減産を、2018年3月まで延長するという方針で一致した、と報じられています。今週のOPEC総会では、サウジアラビア以外のOPEC加盟国も、減産期間延長に従うと予想されます。

こうした減産延長は、足元1バレル50ドルを超えてきた原油価格を下支えすると見込まれますが、一方では既に減産延長が見込まれているため、大きく原油価格が跳ね上がることもないでしょう。今後も、50ドル近辺での推移が続くと予想します。

日本国内では、5/22(月)発表の4月の貿易統計で輸出の状況を、種々の小売の業界統計で個人消費の状況を(5/22(月)にコンビニエンスストア売上高、5/23(火)に百貨店売上高とチェーンストア売上高、すべて4月分)、それぞれ推し測ることとなるでしょう。

Next: 世界経済・市場の注目点~「ポスト・トランプ」を巡る議論を整理する



盛りの花~世界経済・市場の注目点

<「ポスト・トランプ」を巡る議論を整理する>

市場参加者の一部では、トランプ大統領が弾劾される、あるいは自発的に辞職する、ということになれば、ペンス副大統領が大統領に就任するが、そうなったらまともな大統領になるので、米国株価や米ドルは上昇するのではないか、といったような、ポスト・トランプ(トランプ後)を論じる向きが出てきています。

そういった議論が出てきているのは、気が早過ぎるとは言い切れません。4/23(日)付の当メールマガジン304号の「盛りの花」で述べたように、既に――
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※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2017年5月21日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した「盛りの花~世界経済・市場の注目点 <日本株が「不安の問屋」に陥っている背景は?>」「理解の種~世界経済・市場の用語などの解説 <米連銀の債券再投資>」もすぐ読めます。

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馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2017年5月21日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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