私は、9.11テロで「ビルの中にいた方が安全だ」との館内放送を信じられず、脱出して助かりました。謎の多い事件で、当時アメリカという国の「怖さ」を感じたものです、そんな米国で今、気になる動きが出ています。それは「日本の核武装」をめぐるものです。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2017年9月11日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
誰がそれを決めるのか? 高まる「日本核武装論」のウラを読む
現地でテロに遭遇、九死に一生
この原稿を書いている今日は9月11日。「9.11テロ」から16年経ちました。
あの日何度か死ぬかと思った恐怖感、WTC攻撃直後の警察、消防当局の不思議なまでの素早い対応、愛国法制定の中で、あのブッシュ大統領の支持率がなんと80%以上に高まったこと、マンハンタン中が「USA!、USA!」コールで異様なまとまりを見せたこと、個人の自由より国家安全が優先されたことが、いまでも印象に残ります。
同時に、素早くアルカイダの犯行だ、ビン・ラディンが主犯だ、ということになってアフガン、イラク攻撃に出た米国の異様な動きもある意味不自然で、真っ当な議論ができない「怖さ」も感じました。
飛行機が飛ばず、なかなか日本に帰れなかっただけに、当時裏で何があったのか、気になって調べましたが、知れば知るほど不思議で、あるいは知らない方が良いことも多々ありました。
「ビルの中にいた方が安全だ」という館内放送を信じられずに、ロスカットしてビルから脱出した私は助かりましたが、同様の放送を信じてまたオフィスに戻って亡くなった知人も多く、我々が会議をしていた3WTCのマリオット・ホテルに残って南棟とともに潰され、命を落とした人も多数いました。
アメリカという国が怖くなり、一刻も早く日本に帰りたいと思ったことを思い出します。
アメリカの気になる動き
そんな折、気になる動きがありました。
10日、小野寺防衛大臣は「北朝鮮はすでに核兵器を持っている」との認識を明示しました。
これに先立ち、オバマ政権で大統領補佐官を務めたスーザン・ライス氏は、先月ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿。北朝鮮が核兵器を放棄する見込みはほとんどない、との見方を示しました。
現在のワシントンからも、同様の認識が見えます。
そうした中で、気になるのが米国の核戦略の変化です。先ごろまでは朝鮮半島の非核化を進め、これを前提とした北朝鮮対応と見られていましたが、最近では北の核保有を前提とした戦略に変わりつつあります。
北に核を放棄させる戦略ではなく、北が核を持っている前提で動き始めたように見えます。
日本を含む周辺国で高まる核武装論
その結果、韓国で核武装論が出てきています。核武装する北朝鮮に対して、韓国は単独では北に対抗できないとして、在韓米軍への依存を強めていますが、米国の核の傘の下にいるだけでは不安だとして、自ら核武装する必要が問われるようになりました。
この流れは日本でも同様です。韓国が核武装しないとしても、少なくとも朝鮮半島に核保有国があれば、これを持たない日本が劣勢になるのは否定できません。
Next: 与野党一体で核武装を目指す日本。誰がこの動きを作っている?
誰が日本に核を所有させるのか?
これまではその分、米国に依存する面が強まるだけだったのですが、にわかに日本の核保有の動きが出始めています。米国のネオコンがこれを認めているためと言われます。
そして「非核3原則」、つまり核を持たなない、作らない、持ち込まない、の3原則を見直す動きも見られます。
これもいくつか考え方が分かれていて、1つは「最初の2原則を維持し、最後の持ち込まない部分を外し、米国に核を持ち込ませる」というものです。石破茂氏などがこの考えのようです。
これに対し、「憲法を修正して日本自ら核兵器を作り、保有する」との考えが出てきています。もともと、この発想は中曽根内閣あたりにも見られ、日本が原発事業を進める1つの理由は、いつでも核兵器を作れる技術水準を維持するため、との見方もあります。
後者の、日本自ら核兵器を保有するという考え方は、米国でCFR(外交問題評議会)の影響力が強い時は封印されますが、ネオコンと右派の安倍政権が重なると表面化してくるものです。
与野党一体で核武装を目指す日本
米国のネオコン勢としても、日本にミサイル防衛システムの補強だけでなく、核武装までさせて中国や朝鮮半島に対峙する形をとらせようという意向と見られます。
そのためには、これに前向きな安倍政権の存続が必要で、安倍内閣の支持率急落に対しては、様々な形での「側面支援」があったと言われます。
さらに、核に否定的な公明党の出方が不安なだけに、維新の会を取り込み、さらに民進党もネオコンに近い前原氏を推し、与野党一体となって核武装体制をとらせようとしているように見えます。これには「山尾幹事長」は邪魔だったと言います。
Next: プーチンのロシアも「核武装」で合意か。岐路に立つ日本
プーチンも「日本の核武装」に合意か
また、CFR(外交問題評議会)の要人と思われていたキッシンジャー元国務長官が、日米とロシアの間に立って、この考えをロシアのプーチン大統領にも伝え、ロシアも合意していると言われます。
もっとも、日本はそのために経済面でロシアの要請に応え、シベリア開発や北方領土共同開発などで支援をする形になっています。
岐路に立つ被爆国・日本
安倍政権が米露とともに核武装戦略に出る場合、最大の壁は日本国内にあります。米露が了解しても、日本人のメンタリティが核保有に大きな壁となります。
今年の長崎での被爆者慰霊祭に出席した安倍総理は、「あなたはどこの国の首相ですか」と強く責められました。国連の核廃絶決議を被爆国の日本が棄権したことへの批判とも言えます。
その点では、日本国内だけでなく海外からも、唯一の被爆国である日本こそが、率先して核廃絶のリード役を果たすべきとの批判が強まっています。日本としては、米国の傘の下で守られている立場から、米国と行動を共にするしかなかったと言いますが、本音では日本も核兵器保有の準備を進めたい、という面があったことも否めません。
核の抑止力として、日本も核を持たなければならないとの考え方ですが、現実に核を落とされた体験を持つ国は日本だけです。
その悲惨さを伝える被爆者の数が次第に減っているのも確かですが、世代を超えてこれを引き継ぐ努力をし、海外にも伝える努力をしている中で、政府が核保有に舵を切り替えることに、国民は簡単には納得しないと思われます。
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『マンさんの経済あらかると』(2017年9月11日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。