マネーボイス メニュー

StockStudio / Shutterstock.com

トランプの日本叩きは続くのか?対日貿易赤字「7.7兆円」本当の意味=大前研一

米国の対日貿易赤字は689億ドルに。トランプ大統領が日本の自動車産業を批判しましたが、調べれば調べるほど、米国に大きな貢献をしてくれたと理解を得られると思います。(『グローバルマネー・ジャーナル』大前研一)

※本記事は、最新の金融情報・データを大前研一氏をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする無料メルマガ『グローバルマネー・ジャーナル』2017年2月22日号の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に定期購読をどうぞ。
※2月19日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。

プロフィール:大前研一(おおまえ けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長。マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997~98)。UCLA総長教授(1997~)。現在、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役。

本当に何もわかっていないトランプを日本はどう説き伏せるか

アメリカの対日貿易赤字、約7兆7000億円に

アメリカ商務省が7日に発表した2016年の貿易統計によりますと、物の貿易での対日赤字は、689億ドル(約7兆7000億円)と、相手国別で2位に浮上したということです。また自動車関連の対日赤字も526億ドルに増加しており、日本のメーカーは北米生産にシフトしているものの対米輸出は高級車が中心で、単価が上昇していることが要因とみられます。

安倍総理の抱える問題の1つが二国間交渉ですが、今回彼はそれを認め、麻生副総理とペンス氏との間で枠組みを作ると言っています。それに対して乗っかってきているのが、アメリカの牛肉や豚肉の業者です。これはルール作りではなく、年間何トン買え、車で言えば売れないアメリカ車を20万台買えといったように、数量で要求してくるというのが今までの例です。

これまでにもモトローラは、売れない携帯電話を20万台買えと言ってきました。モトローラ方式は日本では通用しない方式でしたが、小沢一郎氏が関西では使えるようにしてしまったというように、とんでもないことをこれまでやってきています。アメリカ恐怖症の小沢氏はそのようなことをやりましたが、同じような状況につながる可能性が高いと思います。

アメリカの貿易相手国を見ると、中国が50兆円以上の赤字がありダントツです。日本とドイツはほぼ同じ額で、年によって違いますがメキシコも同程度です。アメリカの対日輸入品を見ると、自動車が圧倒的です。2位の自動車部品は日本メーカーだけではなく、デトロイトのビックスリーも日本の部品を買っているわけです。

続いて産業機械、そして、ボーイングなどがかなり日本のものを買っており、787なども日本の貢献が非常に大きいことで、航空機部品が上位にきています。家電など昔非常に大きかったものは、今では割に小さくなってきています。

アメリカの自動車輸入額を見ると、日本からの輸入額はドイツを上回っています。アメリカはドイツ車の輸入を相当派手にやっていますが、アメリカにおいては日本の方が販売網が強く、モデルによって、特にハイエンドのものは、アメリカで作らずに日本からそのまま輸出するためです。日本とドイツの差は4、5兆円の額ですが、これが問題視されるかもしれません。

ただ、私に言わせれば、自動車の問題は調べれば調べるほど、この20年間日本は実にアメリカに対して大きな貢献をしてくれたということで、おそらく理解を得られるのではないかと思います。問題は、ピーター・ナバロ氏というおかしな人が貿易関係をやっていることです。ナバロの頭が柔らかくなるほどではないかもしれませんが、基本的には、この問題についてトランプ大統領自身が騒ぎ立てることは、ほとんどないだろうと思います。

【関連】米国で始まった「トランプ降ろし」麻生副総理はペンス副大統領に勝てるか?=斎藤満

一人になると何もわからないトランプ大統領

日米首脳会談の前夜、トランプ大統領は安倍首相にどのように話そうかと考えていたらしく、そこで、ドルが高い方が良いのか、安い方が良いのかと迷ったそうです。ドルが安くないと貿易には不利で、中国も元を安くして貿易が有利になっているので、アメリカもドルが安ければ有利になると考えました。ところがアメリカは貿易重視ではないので、専門家は皆、ドルが高い方が良いと言っています

こうして前の晩まで安倍首相に為替についてどちらかで噛み付こうと思っていたわけですが、どちらが良いのかわからなくなってしまったのです。そこで真夜中過ぎに、今ではクビになった、国家安全保障を担当するフリン大統領補佐官に電話をし、アメリカはドルが高かったほうがいいのか、安かった方がいいのかどっちだったかと尋ねたのです。するとフリン氏は、自分は軍事の専門家で国家安全保障担当なので、そのようなことはエコノミストに尋ねてはどうかと言ったというのです。フリン氏も浅はかで、その事実をまたマスコミに話してしまったのです。

このことからもわかるように、トランプ大統領は1人になると何もわかっていないのです。結局、ついにどちらか決めかねて、安倍首相が来たときには為替の話題が出なかったというのです。これほどみっともないのがトランプ大統領なのです。そのようなレベルの人と、日本は構えてやっていくのかと思うと、とてもくたびれます。トランプ大統領の経済理解、為替理解は幼稚園レベルなのです。これが一事が万事で、全てがこのレベルであり、会議などをやっていても一対一になると彼は、はちゃめちゃに弱いのです。

Next: 窮地に追い込まれたトランプ氏が辞任すると、さらに厄介なことになるワケ



米移民規制、合法滞在移民にも規制及ぶ可能性

日経新聞は8日、「移民規制でアメリカ経済が払う代償」と題する記事を掲載しました。トランプ大統領の移民規制が不法移民にとどまらず、就労ビザを持ち、合法的に滞在する移民にも及ぶ可能性があると指摘しています。海外からの優秀な人材に匹敵する能力は、アメリカ人を短期間研修しただけでは身につかないとする実業家の見方を紹介し、移民規制は国の税収減や経済的な損失に加え、企業のイノベーションにも打撃を与える可能性があるとしています。

トランプ大統領が7カ国を対象にした制限を課したところ、2つの地裁が違法として発効しなくなったわけですが、トランプ大統領はこれに代わるものを出すと言いながら、今日まで出せていないのです。考えれば考えるほど難しいということがわかってきたということでしょう。

アメリカを支えている新興企業、特にハイテク企業は、H1-Bビザというのを取得することで、頭の良い人たちの就労をアメリカで許してきています。これがなくなってしまうと、そういった会社が他国へ出なければならなくなります。また今回もそうですが、7カ国からの依存がとても高く、たまたま海外に行っていた人たちが自国であるアメリカに帰れなくなってしまったということで大混乱を起こしました。主としてこういう企業が多いのはカリフォルニア州で、もともとトランプ嫌いのカリフォルニアです。それゆえに色々と問題が起こっています。

アメリカの労働者数の推移を見ると、もともとの米国人が1億3000万人位いるとすると、一方で3千万人近い人が生まれは外国の人です。イーロン・マスクのように南アフリカで生まれた人などが入ってきているわけです。これはかなり大きな比率です。

ビジネスウィーク誌の表紙では、何でもよいので上に書いたことを認めるという大統領令にサインして、そこに適切な言葉を入れよと見せているトランプ大統領の写真が載っています。そのくらい簡単に20ほどの大統領令を出してしまったということなのです。今自分でどんな大統領令を出したか覚えていないという状況になっているのです。

カリフォルニアは、半分をヒスパニックが占める州なのです。中西部のプアホワイトを中心に色々と展開してきましたが、カリフォルニアではもうやっていられないという状況にまで来ています。カリフォルニア州知事のジェリー・ブラウン氏は、もしメキシコとの間に壁を作るのであれば、俺はアメリカとの間にカリフォルニアの壁を作ると言っているほどです。ジェリー・ブラウン氏はアメリカで最も尊敬されている知事で、彼がこのようなことを言っているのです。

その壁の費用は俺が出すと言うシリコンバレーのベンチャーキャピタルも名乗りをあげています。また、ニューズウィークの表紙も、ステイトオブレジスタンスと題し、カリフォルニアの反発を取り上げています。トランプ的な発想は中西部では成り立つ部分も一部であるかもしれないものの、ぶっちぎりの大成功をしたカリフォルニアでは、人種差別、男女差別といったトランプ大統領の言っていることにはついていけないわけなのです。

私はトランプ政権は40日もたないと言いましたが、今ちょうど28日経ちました。トランプ大統領が辞める可能性もあり、今非常に窮地に追い込まれていることは、本人も自覚しています。しかしその後に、米移民規制、合法滞在移民にも規制及ぶ可能性があるので警戒が必要です。

ペンス氏はインディアナ州の知事をやっていたので、組織を動かしたことはありますが、コチコチの保守派なのです。妊娠中絶はだめだとか、宗教原理主義に非常に近いことを主張していて、彼が大統領になるのはある意味恐怖だと考えている人が非常に多くなっています。

いずれにしても、カリフォルニアのみでなく、シアトルのあるワシントン州もレジスタンスの州として誌面で取り上げられるなど、反発のムードがそこら中で出てきているのが現状です。

【関連】トランプ大統領は米利上げからの「世界的ドル一極集中」を許容するか?=西岡純子

【関連】日本株に固執する投資家はなぜ眼前の「歴史的チャンス」に気づかないのか?=江守哲

【関連】哀しき兄・金正男はなぜ異国の地で殺害されなければならなかったのか?

グローバルマネー・ジャーナル』(2017年2月22日号)より抜粋
※記事タイトル、太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

グローバルマネー・ジャーナル

[無料 週刊]
最新の金融情報・データを、大前研一をはじめとするプロフェッショナル講師陣の解説とともにお届けする“無料で最強メルマガ”です。テーマは週替わりで株式・世界・為替・商品市場と、具体的な不動産投資や債券、投資信託、ファンドなどのニュースも斬ります。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。