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メディアが伝えなかった中国人投資家の反応とは? 暴落で黙った新華社、はしゃいだ日本=ふるまいよしこ

先の中国株急落では、阿鼻叫喚の絵がほしい日本と、徹底した報道規制を敷く中国で、対照的な報道姿勢の違いが見られました。そのどちらもが伝えなかった中国人投資家のリアルな反応とは?中国事情に詳しいフリーランスライターのふるまいよしこ氏が解説します。

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「中国人はみんな泣き叫んでいる」日本を駆け巡った誤解

今、中国の話題といえば、なんといっても株式市場の暴落ですね。

A株という中国国内投資家向けの市場(この他にH株という海外投資家向けの市場もあります)で始まったこの大暴落、どのように中国社会に影響を与え、さらには日本にどんな影響をあたえるのか。日本におられる方々の最大の関心はここにあるはずです。

中国人投資家は意外に冷静、現地SNSの反応

ですが、先日、SNSで「中国株暴落の取材で、自分の周りの中国人に話を聞いても、『損はした』と言う人はいても『まぁそんなもんさ』という返事しか返ってこない。誰か、大損して泣き言を言っている人を知りませんか?」という書き込みを、あるライターさんがしていました。

実はわたしも今回、SNSに自然に流れてくる暴落話を読んでいて、「XXX万損した!」と言っている人は多いけれど、泣き叫ぶ、自殺する、破産だ破滅だ!と騒いでいる人はみかけません(というか、それほど大変なことになってしまったらSNSへの書き込みどころではないのが実情でしょうが)。150万も損をしたと言いつつも冷静に自分たちの状況を振り返っている。

日本製の頭で考えた、日本製の中国ニュース

この辺はきちんと報道する必要があるように思います。上記のライターさんが求められているように、「泣き叫ぶ人」を見つけて記事を書けば、日本には「株が暴落して中国人は“みんな”泣き叫んでいる」というイメージしか伝わらない。

日本のメディアはそんなふうに、日本にいる編集者がその頭に想像している「図」だけを追い求めて報道する。…かつての香港の主権返還報道のように(日本メディアの香港返還報道については拙著「香港玉手箱」に書いています)。

そうした、「日本製の頭で考えた、日本製の中国ニュース」が日本を駆け巡り、「これが今の中国なのだ」というイメージができあがる…それが日本の中国報道の舞台裏です。わたしも帰国して1年間、メディアに所属して「日本製の頭」で異国を考える編集者を見てきて痛感しました。

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現代中国社会を理解するのに役立つ話題をご紹介します。中国理解という目的だけではなく、実際に現地の人たちとの会話に上がるだろうトピックや、日本で話題のニュースに対する現地の視点など、日本のメディア報道にはあまり出てこないけれど知っておくと役立つと思われる点を中心に。

言葉を失った中国経済メディア。習近平体制の問題点とは?

株式市場の暴落で揺れる中国人投資家たち。暴落の動向自体は経済専門のウォッチャーに任せるとして、その陰で中国社会において語られているトピックをピックアップしてみる。

経済メディアという“番犬”を失い暴走した株式市場

「経済評論家の呉暁波氏はこのほど、こう書いている。『(市場の)バランスが崩れたのは公共監督の調整能力の問題だ。昨年以来、主だった経済メディアが次々と濡れ衣を着せられて信頼を傷つけられ、第3者としての監督能力をほぼ失ってしまった。権力を味方につけた投機者はそれに乗じて好き勝手のし放題となり、“番犬”を失った資本市場は好き勝手に蹂躙され、多くの個人投資家がその代価を支払わされたのだ』」

「株式市場の加熱の始まりに、経済評論家の多くが投資家たちの膨らんだバブルムードを冷却させようと手を尽くした。しかし、この時まだ、プロフェッショナルな経済メディアは以前受けた報道規制から目覚めていなかった。市場が値下がりを始めたばかりのときに声を上げるべきだった経済メディアは、1枚の紙でもたらされた禁令に喉元を締め付けられた──「暴落に触れるな、情緒を煽るな」と。そのまま取材もせず、声を上げず、そうして(もともとそれらのメディアが指摘し、逆に濡れ衣を着せられてしまった)虚偽の目論見書やIPOにおけるさまざまな抜け穴はそのまま見過ごされてしまったのである」(以上、「メディアという“番犬”を失った資本市場が結局蹂躙されてしまった」より)

「中国政府系メディアが大暴落をもたらした」業界内から批判も

少なくとも胡錦濤時代には、中国メディアにおいて、特に経済メディアは自由度が高かった。彼らはやっと世界的に注目されるようになった経済市場の公平性を保つために、企業のシステム、社会体制、時には社会問題についても、一般総合メディアよりも広い権限で自由な報道姿勢を保てることができてきた。

だが、習近平体制になってからその経済メディアにもこれまで以上の禁令が発されるようになった。かつての「経済発展に寄与するためのデータを提供する」というお題目が、すっかり削減されたようだ。

その結果、市場判断するための情報が大幅に減り、またそれに乗じて市場参与者の虚偽や誇張が行われてもそれをメディアが暴露できなくなってしまった。上記の記事は、所属メディアを超えた現役記者たちが集まるサイトに掲載されていた。業界内でもそうした禁令や「濡れ衣による公的信頼性の低下」が、今回の大暴落をもたらしたことを指摘する声が出てきているのは注目に値する

ブルームバーグも今回の暴落に際して、当日のうちに「政府系メディアが世論を煽っていた」と、政府が国営通信社である新華社を利用してムードづくりをしていたことを指摘している(英語版)

中国では何かの事件が起こると、その禁令のほとんどが「新華社の原稿を統一使用すること」と命じる。つまり、政府の宣伝機関の最たるものが新華社なのである。政府が動かせるメディアはもちろん、新華社以外にもあるが、新華社が唱える論調には中国国内のメディアは反論できず、そのために絶対的な世論制御権を持っている。

「わずか数ヶ月前、新華社は人々の心を激しく揺さぶる言葉を発して中国株式市場を高値に押し上げた。それが今、市場が日増しに混迷を深めている中で、この政府系メディアはなにも語らおうとしていない。多くの人たちが、政府がこの株式市場の暴落をいかに評価し、またいかなる反応を見せるのか、好奇の目で見守っている」

だが、メディアにはやはり禁令が出ており、抑えた論調と政府のお墨付きの範囲内でしか今回の暴落事情を報道できていないのが実情だ。

§ 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな』(2015年7月11日号)より一部抜粋・再構成
※太字・見出しはMONEY VOICE編集部による

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