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名古屋発、グローバル企業の草分け!ブラザー工業<6448>の株主総会に行ってみた

公認会計士の平林亮子さんが、実際に株を持っている会社の株主総会に行き、見聞きしたことなどについて、つれづれなるままに綴っている人気メルマガ「平林亮子の晴れ時々株主総会」。今回は英国の産業用印刷機器メーカー、ドミノ社を買収したことでも話題になったブラザー工業の株主総会の様子をレポートしてくれています。

株主から愛されているという企業であることが実感できた株主総会

みなさんは「ブラザー」という企業名を聞いて、何を思い浮かべますか?

ミシン?
複合機?

・・・・・・その答えで、おおよその年齢がわかってしまうかもしれません(笑)

ブラザー工業株式会社(以下「ブラザー」)は、1908年 (明治41年)に安井兼吉が「安井ミシン商会」として創業したミシンで有名な老舗企業です。その後、事業承継等により、
1925年(大正14年)安井ミシン兄弟商会
1934年(昭和9年)日本ミシン製造株式会社
1962年(昭和37年)ブラザー工業株式会社
となりました。

2015年3月期の定時株主総会は、123回目!!
現在の社長は創業家の方ではありませんが、「ブラザー」という社名兼ブランド名こそが、「安井家の兄弟で頑張っていこう!」という意味を持ったものだそうですから、その想いは今でも脈々と受け継がれているのではないかと推測します。

ミシン屋さんからスタートした、ブラザーですが、現在の主力事業は、「プリンティング機器」です。プリンタやコピー、複合機ですね。

何を隠そう、私は、ブラザーの複合機の大ファン!
10年以上前から、ブラザーの複合機を使い続けています。SOHO向けのレーザー複合機が、高性能で、低価格なのです。A4カラーレーザー複合機(プリンタ、コピー、スキャナ、ファックス)で、両面印刷ができ、ギリギリ自宅に設置できるくらいの大きさで、10万円を切る!

10万円を切る、というのは、日本においてはとても重要なポイントで、税務上、一括で経費にできるラインなのです。特別な規定では、30万円とかいろいろなラインがあるのですが、10万円未満の備品であれば一括で経費にできます。
ベンチャーの支援をしている立場からも、本当にありがたい製品揃い。
SOHOサイズの企業には、いつもお勧めしています。
まるで、ブラザーの営業担当です(笑)が、自分で10年以上使ってみて本当に良いと思っているので、これからも周囲におすすめすると思います。

というわけで、そもそもは、製品のファンだったのですが、現在の社長である小池利和氏の講演を聞いてますますファンになり、「小池氏が社長を務めていらっしゃる間は間違いない!」と株を購入しました。

購入時、PBR1.3倍、PER13倍くらいだったと思います。ちなみに、株の購入の最後の決め手となったのは、海外とカラオケでした。

まず、海外について。ブラザーの売上は8割以上が海外!
名古屋発、グローバル企業の草分け的存在です。1947年(昭和22年)には、ミシンの輸出をはじめていましたからね。現在では、世界中に拠点があり、インクジェットプリンタのシェアは世界で5本の指に入ると言われています。

次に、カラオケについて。
この点は、第一興商のメルマガ(編集部注=平林亮子の晴れ時々株主総会【VOL.26(2015年7月20日号)】株式会社第一興商)でも触れたことがあると思います。第一興商は、DAMを扱い、ビックエコーを運営しています。DAMと並ぶカラオケ機器、JOYSOUNDを扱っているのがブラザー(の子会社)なのです。カラオケボックスJOYSOUNDも経営しています。ブラザーの持つ通信技術が、通信カラオケ事業とつながったようです。

ただ、2015年3月期、カラオケ事業は赤字。
先日、昨年できた、JOYSOUND銀座二丁目店に行ってみましたが、新しくて部屋が綺麗!飲食メニューが充実しています。場所は一等地であるのにとても静かなので、「大人のカラオケ」を楽しむにはお勧めです。

ブラザーは今でも、名古屋に本社があります。
東京に本社を移したら、情報、人材などのリソースを、もっと入手できるようになるのでは、などと感じますが、地元には地元の良さがあることを、株主総会に参加して知りました。

株主総会の会場は、名古屋の老舗ホテル、名古屋東急ホテル。名古屋の駅から、車で10分ほどでしょうか。最寄駅は「栄」です。

過去には、名古屋駅のマリオットで開催されたこともあったようです。個人的には、名古屋駅のマリオットの方が便利ですが、他の株主の方はどう思っているのでしょうか。

600名近く入る第1会場に加え、第2会場まで用意されていました。会場にはイスのみが並べられ、テーブルは無し。株主の平均年齢が高かったのは印象的でした。古くからの地元の株主に支えられているのだと感じました。

私の後ろに座った男性2名は、どうやら、どこかの企業の株主総会運営担当者らしく「第2会場ってどんな風にしているのですかね?」「うちの会社だったら何人くらい?」など、株主総会開始前にこそこそと話をしている声が聞こえてきました。
株主総会の運営について調査しているようでした。たしかに、株主総会の運営をするには、他社の株主総会を見てみるのが一番。会場の雰囲気は、本では学べませんからね。

10時になると、役員が登場。それだけで会場から拍手が起こります。
そして、社長の開会宣言、あいさつで、また拍手。社長の小池氏は、終始笑顔。株主にとても愛されている企業であることがわかります。

実際、小池氏が社長になってから、ブラザーは業績も良く、今年は株価も伸びています。ドミノ社の買収報道で、少々、株価の勢いは衰えたものの、最高値を更新しました。文句のつけようのない実績です。

Next: ブラザーは国際財務報告基準の導入を目指している


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決算短信に見え隠れするIFRSの動向

ブラザーは、2017年3月期(平成29年3月期)からのIFRSの導入を目指して検討しています。
IFRSは、国際会計基準(もしくは国際財務報告基準)。2010年より、日本においても、任意適用が認められています。実は今、IFRS適用を検討する企業が増えてきています。日本取引所グループが2015年8月10日時点で公表している情報によると、任意適用会社66社、適用予定会社25社、合わせて91社が名乗りを上げているとのこと。
その理由はいくつかあるのですが、金融庁も自民党もIFRS適用を後押ししていますから、これからますます増えるかもしれません。

日本取引所グループは、IFRS適用についてプレスリリースをした企業のみをカウントしていますが、実際には、もっと多くの企業がIFRS適用を検討していると言われています。実際、ブラザーも日本取引所グループの上記の数字には含まれていませんが、決算短信にはっきりと記載しています。

2015年3月期の決算短信から、「会計基準の選択に関する基本的な考え方」について記載することになりました。
ブラザーも決算短信の会計基準の選択に関する基本的な考え方として、「当社グループは、資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上や、グローバルな成長戦略の推進を目的とし、平成29年3月期決算からのIFRSの適用を目指し、検討を進めております。」と記載しています。

日本の会計基準は、今、転換点を迎えようとしています。2015年6月30日には、企業会計基準委員会から修正国際基準(JMIS)が公表されました。これは、かねてより日本がIFRSに対して問題提起をしていた事項について独自の規程を加えた、日本版IFRSとも言える会計基準です。IFRSをベースにしつつ、IFRSとは異なる会計処理を規定する文書2つを加える構成になっています。
その結果、日本の連結会計については、日本基準、米国基準、IFRS、JMISの4つの基準から選択できるというクワドラプルスタンダード(筆者の造語)の時代へと突入しました。加えて、各企業の考え方に関して、決算短信への記載も始まりました。

IFRSの適用が、他と比較して良い選択であるかどうかは、企業によって判断が異なるでしょう。
ただ、クワドラプルプルスタンダードの時代には、会計基準について考えることは経営について考えることと言っても過言ではありません。
決算短信に記載される「会計基準の選択に関する基本的な考え方」は、プロも意外と注目しているところ。これから先も、各企業がどのような記載をするか楽しみです。

Next: 株主は「英企業を買収したのになぜ株価が下がったの?」と質問


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英国企業は高い買い物だったのか?

「ドミノ社を買収するというのに、なぜ株価が下がったのでしょう?」株主から、こんな質問が飛び出しました。

ブラザーは、2015年6月11日、英国のDomino Printing Sciences plc(以下、ドミノ社)を買収しました。

小池社長によれば、「当社の製品はどちらかというと消費者、民生用だ。(ドミノ社は)産業用ということでまったく違う分野だ。お互いの技術で協力すれば、いろいろなことができる。当社としては史上最大規模の買収になる。新たな事業ポートフォリオとして加えたい」(日経電子版2015年3月12日)というのが狙いだそうです。

東洋経済オンライン2015年3月13日の記事によれば、ドミノ社は、「2014年10月期の売上高は約3.5億ポンド(約640億円)、営業利益が約5600万ポンド(約102億円)。」とのこと。

ドミノ社の買収額は約1890億円と言われていますから、単純な投資利回りは100億円÷1900億円=5.3%
数字上の表面利回りは、微妙ですね(笑)

ただし、買収価格は単なる営業利益を基に判断できません。たとえば、良く使われる指標の1つは、EBITDA倍率。

買収金額÷EBITDA=EBITDA倍率

と計算されるものです。
EBITDAとは企業が1年間に生み出すキャッシュフローを意味しています。
簡便的には、営業利益プラス減価償却費を用いることもあります。営業利益は減価償却費を差し引いて計算しますが、減価償却費は過去の取引の影響や国による法律の違いなどの影響を受ける数値。そのため、現時点での企業の業績を測るには、その影響を除いた金額を利用することがとても大切で、その際に用いられるのがEBITDA、というわけです。

M&Aに長けている企業では、EBITDA倍率の目安を持っていて、実際の投資判断に使っていることも多いのです。おそらく、ブラザーにも、買収額を判断するための目安があるものと思います。

ブラザーはドミノ社を完全子会社化しましたから、ドミノ社の売上や利益も、連結損益計算書に合算されることになります。
グループ企業内取引は相殺されますが、ドミノ社の分だけ、売上が増加することになりますから、それだけでも効果があると考えられるかもしれません。

しかも、そもそも、事業シナジーを期待しての買収。良い買い物だったかどうかは、これからのブラザー次第と言うことになりそうです。

なお、株価が上がらない理由について、小池社長も首をかしげていました。株価と言うのは、本当に、難しいものです。

大株主に注目!

ブラザーの大株主は、ほとんどが機関投資家。
その中で、第7位にブラザーグループ従業員持株会がいます。役員も自社株を持っているようですから、株価を上昇させようというモチベーションにつながりそうですね。
気になるのは、第9位の朝日實業株式会社。いったいどんな会社なのか。インターネットで検索するレベルでは調査できませんでした。知っている人がいたらぜひ教えてください(笑)

創業一族は、もう大株主にもいないようです。100年以上の社歴のある上場企業ともなれば、当然かもしれません。
たとえば、前回(編集部注=平林亮子の晴れ時々株主総会【VOL.27(2015年8月3日号)】株式会社マツモトキヨシホールディングス)触れた、マツモトキヨシなどが、100年を超えたらどうなるのか。そんな視点で企業を見守ってみるのもいいなと思いました。
あ、でも私にも寿命がありますから、マツモトキヨシ100周年は見られるかどうかわかりませんね(笑)

『平林亮子の晴れ時々株主総会』vol.26(2015年8月17日号)より一部抜粋
※太字はマネーボイス編集部による

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