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「ディフェンシブ銘柄」の値動きで考える、2015年これからの日本株式市場

2015年の日本株式市場は、その値動きの荒さもさることながら、本来低リスクなはずのディフェンシブ銘柄が市場をリードするという異質な相場形成が大きな特徴となっています。

そこで本記事では、リスク別ポートフォリオの運用成果分析を通して、今後の相場を考えるにあたっての注目ポイントをご紹介。日経新聞社で証券分析サービス開発に従事、各種日経株価指数を担当した日暮昭氏が解説します。

リスク別ポートフォリオが示す、2015年の異質な相場形成

2015年株式市場の特徴(1)極めて荒い値動き

下図はリーマン・ショック以降、3年あまり続いた株式市場の低迷が2012年11月の衆議院解散を機に急騰、2015年夏までほぼ一貫して上昇を続けた後、8月末から9月にかけて急落するまでの動きを概観したものです。

日経平均の推移(月次終値) ─2010年1月~2015年9月─(2015年9月は8日終値)

2010年1月から2015年9月まで日経平均の月次終値で示しています。ただし2015年9月は8日終値です。

アベノミクスのスタート期となる2012年11月末は9445円、それが昨年(2014年)末には1万7450円まで大幅に上昇しました。勢いは2015年に入っても衰えず4月に2万円を突破し7月には月末値ベースの高値2万585円をつけました。

しかし、その後相場は急変、8月末から急落し足元の9月8日は1万7427円と、昨年末とほぼ同じ水準となりました。今年の上昇分が帳消しとなり、結局 “いってこい”の状況となっています。

2015年の株式相場は全体としても、また日々の変動にしても価格が大幅に上昇、下落する荒い相場展開となりました。

2015年株式市場の特徴(2)ディフェンシブ銘柄が相場をリード

2015年の相場はこうした値動きの激しさのほかにも大きな特徴があります。

それは、いわゆる保守的銘柄、あるいはディフェンシブ銘柄と言われる銘柄が相場をリードしたことです。新聞紙面等でもこうした指摘はされていますが、ここでは実際のデータに基づいてその本質を見てみましょう。

ディフェンシブ銘柄とは、日常の生活に関わる日用品や食品、薬品、あるいは公的性格の強い交通、電力、ガスなどの業種の銘柄を指します。

これらの銘柄は景気が大きく変動してもある程度の収益は確保されるため株価の変動がおとなしく、投資のリスクは少なくなります。しかし、半面でリターンも多くは望めないところから保守的銘柄あるいはディフェンシブ銘柄と呼ばれます。

一方、電機、自動車など景気変動に影響を受けやすい業種は市場全体の変動により強く連動する傾向があり、積極型銘柄とも言えます。

こうした銘柄の特性を端的に捉える指標がベータ値です。

ベータ値は相場全体の変動に対する株価の反応度を示す指標で、1であれば市場全体と同じ変動を、1以上であれば市場の変動より大きく、1より小さければ市場の変動より少なく変動することを示します。

ベータ値はこうした銘柄特性を捉える便利な指標ですが、単一の銘柄でみると信頼性が余り高くないという弱点があります。

この弱点をカバーするために、ここでは以下のようにベータ値の大きさにしたがって3つのポートフォリオを組み、各ポートフォリオの運用成果をみることで2015年の相場の特異性を浮き彫りにしようと思います。

下表は、日本の有力30銘柄について2014年末までの5年間の投資収益率を基にベータ値を推計し、ベータ値の大きい順に10銘柄ずつ取り出してポートフォリオに組んだものです。

ベータ値を基準に構成したリスク別ポートフォリオ ─推計期間:2011.1~2014.12─

高ベータ値・ポートフォリオは証券、銀行など金融関連、自動車、電機、機械などいわゆる積極型の業種が中心で、ポートフォリオのベータ値は1.29となっています。相場が10%上昇または下落すればこのポートフォリオは13%上昇または下落する傾向がある事を示します。

中ベータ値・ポートフォリオは建設、化学、繊維、商社など幅広い業種で構成されています。ポートフォリオのベータ値は0.94で市場全体の変動とほぼ同じ変動をすることを示しています。

低ベータ値・ポートフォリオは小売、電力、ガス、薬品、日用品など内需関連の保守型銘柄が中心となっています。ポートフォリオのベータ値は0.59で市場全体の変動のほぼ60%程度の変動が想定されます。

Next: ここに注目!リスク別ポートフォリオの運用成果分析


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リスク別ポートフォリオの運用成果分析

これらのポートフォリオの2015年の実際の運用成果はどうだったでしょう。

下図は各ポートフォリオの、設定期(2014年末)から直近の2015年9月までの月次終値ベースの評価額を、基準期を100とした指数で示したものです。

各ポートフォリオの運用成果(月次終値ベース、2014年12月末=100) ─2014年12月~2015年9月─(2015年9月は8日終値)

日経平均は紺色、高ベータ・ポートフォリオは赤、中ベータ・ポートフォリオは緑、低ベータ・ポートフォリオは紫の各線で示されます。

グラフ中央の横線はスタート期の資産価値の100を示します。日経平均は直近時点でほぼスタート期と同じ水準に戻っています。

カッコ内の数字はピーク時の7月末と直近の9月8日時点の各ポートフォリオの評価額と日経平均の値を示しています。

7月のピーク時の低ベータ・ポートフォリオの評価額は126.7と高ベータ・ポートフォリオの110.4、中ベータ・ポートフォリオの108.0に比べて突出して高く、かつ、ただひとつ日経平均を上回っていることから、年初からピークまで相場を引き上げたのが低ベータ・ポートフォリオであることが分かります。

対象銘柄の内、この間の株価上昇率が高い銘柄を見ると、花王、武田、全日空、イオンなど低ベータの典型的なディフェンシブ銘柄が並びます。

一方、ピークから直近時点までの下落局面の各ポートフォリオの動きをみると、日経平均の12%の下落に対して高ベータ・ポートフォリオと低ベータ・ポートフォリオがより大きい17%の下落、中ベータ・ポートフォリオは日経平均と同じ12%となっています。

ベータ値が1程度の銘柄はほぼ本来の特性を維持し、低ベータ銘柄は上昇・下降の両局面で本来高ベータ銘柄が持つ株価の変動を見せ、高ベータ銘柄はそのあおりを食って上昇局面で低ベータ銘柄に押しだされた形で低迷した、と言えます。

「ディフェンシブの値動きがいつ落ち着くか」に注目

投資の原点はリスクが高い銘柄については高いリターンを、低いリスクの銘柄に対してはそれに見合うそこそこのリターンを期待することです。

この意味で、業態の特性から本来、リスクが低い銘柄が相場をリードして引き上げ、また引き下げた2015年の相場の姿はやはり特異な形と言えます。

波乱を抱えた2015年の不安定な相場の背景にこうした異質な相場形成があったことは否めません。

ところで、20015年の荒れ模様の相場が足元、“いってこい”の振り出しに戻ったところでこれから先の相場展開が注目されます。

今後、業績が底堅く推移する中で、リスクの低い保守的銘柄の値動きが落ち着き、リスクを負担して高いリターンを目指す銘柄が相場をリードする本来の形に進めば相場は2015年の不安定さから変わると思われますがいかがでしょう。

今後の高ベータ・ポートフォリオ、中ベータ・ポートフォリオ、低ベータ・ポートフォリオの運用成果を折に触れて見ていきたいと思います。

筆者プロフィール:日暮昭
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を用いた客観的な投資判断のための市場・銘柄分析を得意とする。

【関連】波乱局面で真価を発揮する「リスク最小ポートフォリオ」の検証

投資の視点』(2015年9月10日号)より一部抜粋、再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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