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From 首相官邸ホームページ

株価崩落をまねくか。「アベノミクス第2ステージ」の致命的欠陥

安倍首相が新たに打ち出した「アベノミクス第2ステージ」と「新3本の矢」。これに関して、40年近いエコノミスト歴を持つ「マン」さんは、「安倍総理が示した『新3本の矢』は、国民や市場を愚弄し、現内閣の無責任さを露呈するもの以外の何物でもない」としたうえで、株価と債券相場の下落に注意が必要と警告しています。

アベノミクス第2ステージは「選挙用」のお飾り。市場に失望感

実態は「果実の分配」ではなく「失策の挽回」新3本の矢

動機不純の「アベノミクス第2ステージ」は、狙いとは裏腹に、株価下落に通じるものがあり、参院選勝利をもくろむ安倍政権には逆風になる可能性があります。

すでにブログで「国民や市場を愚弄するもの、無責任政府の象徴」と書きましたが、少し市場の観点から補足しましょう。

これはかつて岸内閣が強行した安保問題への国民の怒りをそらすために、続く池田内閣が「所得倍増計画」を打ち出したのに倣ったものですが、経済計画への準備がまったく異なります。

「所得倍増計画」では、その前から多くの議論があり、賛否は分かれましたが、下村治氏(編注:池田内閣の経済ブレーンを務めたエコノミスト)の強い理論的裏付けも含めて、万全の準備がなされました。世界経済環境も良好でした。

これに対して、今回の「第2ステージ」は、表向きはアベノミクスの果実を活かし、これを国民に還元するとなっていますが、実際には第1ステージで成果が上がらなかったため、より国民受けする言葉を並べて来年の参議院選挙に臨みたいというのが本音で、実際、9月11日の経済財政諮問会議で、アベノミクスの実質破たんを認めています。

つまり、諮問会議では、金融、財政、成長戦略の「3本の矢」は的を射ることに失敗し、むしろ国民に負担をかけ、このままでは参議院選挙に臨めないとの危機感が現れていました。

政府は「もうデフレではない」と成果を主張しますが、物価高で家計を犠牲にしました。したがって、「第2ステージ」は果実の分配ではなく、失策の挽回策と言う位置づけになります

それだけに、「3本の矢」の総括、反省がなく、何の脈絡もなく「新3本の矢」の提示となりました。金融、財政、成長戦略の矢は命中したのか、外れたのか、折れてしまったのか、評価がありません。諮問会議の評価は、円安でも輸出が増えず、物価高で家計を圧迫、企業収益は増えたが、トリクルダウンはなかったとし、失敗を認めているにもかかわらずです。

では「新3本の矢」は、前の3本より強力なのか。少なくとも市場にとっては「ノー」です。新しい矢には、希望、夢、安心という「選挙のキーワード」がつけられましたが、内容は、意味のない「強い経済」と、民主党顔負けの「子育て支援」「社会保障改革」です。いわば、これまでのアベノミクスから、その前の民主党政策に逆戻りするものだからです。

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日銀に引導が渡された可能性も?株価、債券の下落に要注意

コンクリートから人へ資源配分が変わることは国民には聞こえが良いのですが、円安、企業収益増、株高をもたらした異次元緩和が外された分、株式市場にはマイナスです。

金曜日の昼に総理と黒田総裁が会談したことを、市場は追加緩和期待ととって株を買い上げましたが、実際はここで日銀に引導を渡した可能性があります

旧アベノミクスの否定でも、これまでよりも充実した政策で、GDP600兆円のパイが得られるならまだしも、子育て支援、社会保障改革と言う分配政策では潜在成長力は高まらず、そこへ財政から需要を付ければ財政赤字とボトルネックの物価高が残り、国債利回りの上昇、株価下落をもたらす懸念があります。

そもそも、市場が異次元緩和の放棄、円安期待の後退を認識すれば、それ自体が株安材料になり、成長戦略がばらまき戦略に変われば、外国人投資家も日本株を売ってくる可能性があります。

株が下がり、円高になったときに日銀が追加緩和に動いても、支離滅裂ととられ、市場に対してもこれまでの「矢」としての威力は発揮できません。

武器としての威力が期待できない3本の矢を並べて、どうやって600兆円のGDPを実現するのか、政府は説明する必要があります。

恐らく、これまでの「骨太」の財政計画で前提とした実質2%、名目3%成長が続けば、2020年度には597兆円になるので、何もしなくとも600兆円はいける、説明は不要、と考えているのでしょうが、この前提に無理があります。

アベノミクスでの2年半で、GDPは1%しか増えておらず、分配すべきパイは限られています。それも家計の取り分を削って企業に分配して失敗しました。そのつけを払うために、家計を元気にしようと言うのですが、その財源をどこから持ってくるのか。

企業利益から回収すれば株を下げ、国債増発なら財政を圧迫し、増税なら個人が元気になりません。

先の「3本の矢」は家計を圧迫して株価を上げましたが、「新3本の矢」は市場を圧迫する形で家計のご機嫌取りをすることになります。600兆円のGDPを創出する力はありません。

あとは2020年の東京オリンピックに向けて、民間が盛り上がってくれるのを期待するしかありません。しばらくは株価下落、債券相場下落に要注意です。

マンさんの経済あらかると』(2015年9月28日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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