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「悪意の売り」規制しながら幹部は売り仕掛け~中国共産党が市場に抱く懸念=田代尚機

昨年の中国市場では、いろいろな予期せぬ出来事が起きて株価が乱高下した。中国証券監督管理委員会(証監会)は悪意のある売りを厳禁する政策を打ち出したが、一方では、証監会の某副主席はじめ数名の幹部が、香港市場において本土関連商品の売りを仕掛けていたことが発覚している。そのような中で証監会のトップ交代が発表された。(『中国株投資レッスン』田代尚機)

中国証券監督管理委員会(証監会)トップ交代に透けて見える懸念

中国共産党が人事権を持つ「証監会」という組織の性格

2月20日午前、中国証券監督管理委員会(証監会)トップ人事が発表された。新華網は次のように伝えている。

中国共産党中央委員会は先日、劉士余同志を中国証券監督管理委員会の党書記に任命し、肖鋼同志の職を解いた。国務院は、劉士余同志を中国証券監督管理員会の主席に任命し、肖鋼同志の職を解いた。劉士余同志は2014年12月以来、中国農業銀行の董事長を務めていた。

まず、指摘したい点は、証監会という組織の性格についてである。

中国証券監督管理委員会は証券会社、証券市場の監督管理を行う機関であるが、そのトップ人事は、実質的に中国共産党中央委員会にある。証監会だけではない。中国人民銀行も含め、官僚組織の独立性は低い。

人事権者の意見は絶対である。中国共産党は証券市場に何を求めているのだろうか?

最も重要なことは、実体経済に資金を供給することである。

リスクの高い新規産業に対して銀行融資だけではとても対応できない。リスク資金をできるだけたくさん導入するためにはIPOが滞りなく行われなければならない。

そのためには、“株価は安定的に緩やかに上昇すること”が望ましい。そうであれば、社会保障基金や保険資金の資産運用にも株式市場を利用することができる。

株式市場は国家発展のために存在する。だから、必要があれば、株価をコントロールすべきであるといった発想が出て来る。

一方、海外の株式市場では、市場参加者が主体であり、“かれらが自由で公正な取引ができるよう政府が市場を整備すること”が重要だといった考え方が基本である。

昨年6月中旬以降の急落時には、単に違法行為を取り締まるといったレベルを大きく超えて、供給面、需要面で、考えられるあらゆる手段が採られた。中国にとっては当然なことだが、海外の市場関係者にとっては驚きだったかもしれない。

歴代トップの経歴から分かる中国金融行政の特徴

次に注目すべき点は、トップの経歴である。

肖鋼・前主席の前職は、中国銀行の董事長であった。その前は中国人民銀行の副行長を務めていた。もちろん共産党員であり、現在、約200名いる中央委員会のメンバーである。

劉士余・新主席は、農業銀行の董事長であった。その前は中国人民銀行の副行長であった。ちなみに歴代の主席は7名(劉士余・新主席は8代目)いるが、全て中国人民銀行の副行長を経験している。

この人事を見る限り、中国の金融行政の特徴がよくわかる。

金融市場において国家が重視するのは銀行であり、その銀行を監督管理する中国人民銀行の支配力は強大である。

極端な言い方をすれば、銀行のトップは中国人民銀行のポスト(出向先、あるいは天下り先)の一部であり、銀行のトップを経験した者が、証監会のトップとなる。

たとえば、中国人民銀行の周小川行長は、中国人民銀行副行長→中国建設銀行行長→証監会主席を経て現職となっている。

中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行など大手行、中堅行はほぼ上場しているが、人事や管理形態を見る限り、国家組織の一部に過ぎない。

証監会のプロパーでは副主席が最高のポストである。

証券会社では、トップに上り詰めるとその上はない。共産党の序列で見れば、証券会社の人脈は銀行と比べ大きく劣っている…

証券業務は銀行業務以上に複雑・多岐で、変化が速い。加えて、中国はオンショアとオフショアをしっかりと分離することにより、本土金融業界を保護しているものの、証券業務は銀行業務と比べ、ずっと、国際競争にさらされやすい。

Next: 中国証監会と大手証券の闇~幹部自ら売り仕掛けに走った理由とは



中国証監会と大手証券の闇~幹部たちが売り仕掛け

昨年はいろいろな予期せぬ出来事が起きて株価が乱高下した。

一部の証券会社は半ば規制を無視し、信用取引業務を急膨張させた。ノンバンク、情報提供会社などは、証券監督管理の規制を潜り抜ける形で、市場の外で投資家に資金を貸し出すことで、無茶なレバレッジ投資を横行させた。それによって、株価の小バブルを発生させてしまった。

証監会は悪意のある売りに対する規制を行い厳禁する政策を打ち出す中で、証監会の某副主席はじめ数名の幹部は、香港市場において本土関連商品の売りを仕掛けていたことが発覚した。

さらに、大手証券会社の一部の幹部たちも、海外市場において本土関連商品や自社株の売りを仕掛けていた

銀行絶対優位の業界構造が人事的に不遇の彼らを金儲け主義に走らせ、証券業界によどみをもたらせた可能性がある。

証券業界を監督管理する者は、銀行業務だけ知っていても、証券業務について素人同然であれば、適切な管理などできない。

その上、証券業界の場合、生き馬の目を抜く国際市場で生き残ってきたヘッジファンドたちが、制度の不備や未熟な監督管理の間隙をぬって、香港、本土両市場において、果敢に投機を仕掛けている。

証監会の内部では、海外の投資銀行で経験を積んだ優秀な人材を登用している。しかし、彼らが人事面で厚遇されることは少なく、定着しているとは言えない。どうしても管理側の能力が“日々、現場で起きている事件”に対応できないでいる。

トップを変えただけでは――さらなる乱高下の可能性も

今回の人事は、年初に起きたサーキットブレーカー制度導入の失敗を含め、一連の監督管理の不備が原因であろうが、トップを変えただけでは監督管理の質は高まらない。

中国経済に関しては楽観している。国家の強力なリーダーシップにより、成長期を過ぎ、生産過剰状態になった産業を整理統合する一方で、戦略的新興産業を保護し、発展をサポートすることで、中国経済はレベルアップが可能である。これまでがそうだったように、今後も、国家資本主義の強みが生かせるだろう。

ただし、証券市場については、経済よりも、ずっと監督管理が難しい。今回の一連の失敗を通して、当局の監督管理はより保守的なものとなりそうだ。

資本市場の開放や、国内機関投資家(社会保障基金、生命保険など)の市場参入といった資本の自由化・国際化はよりゆっくりとしたペースとなるだろう。

証監会は当面、株価動向により注意を払うことになり、本土株は緩やかな上昇トレンドが出ると予想するが、数年の単位で見れば、株価は昨年のように乱高下する可能性を秘めている(2月20日作成、有料メルマガから一部抜粋)。

【関連】中国と世界の株価下落は無関係 「人民元安」というスケープゴート=田代尚機

中国株投資レッスン』(2016年2月25日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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TS・チャイナ・リサーチの田代尚機がお届けします。中国経済や中国株投資に関するエッセイを中心に、タイムリーな投資情報、投資戦略などをお伝えします。中国株投資で資産を大きく増やしたいと考える方はもちろん、ただ中国が好きだという方も大歓迎です。

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