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だから日本は馬鹿にされる シャープ・鴻海騒動に見る日本的経営の問題点=真殿達

シャープを巡る一連の騒動は、日本的経営が世界標準と大きく異なっていることを印象づけた。外国企業に買われる危機感をプレイアップするばかりだったメディアの責任も大きい。(『投資の視点』真殿達)

筆者プロフィール:真殿達(まどのさとる)
国際協力銀行プロジェクトファイナンス部長、審議役等を経て麗澤大学教授。米国ベクテル社とディロン・リードのコンサルタント、東京電力顧問。国際コンサルティンググループ(株アイジック)を主催。資源開発を中心に海外プロジェクト問題への造詣深い。海外投資、国際政治、カントリーリスク問題に詳しい。

世界標準とかけ離れた日本的経営・金融システムの問題点

優良企業が破綻寸前に――国内メディアにも大きな責任

シャープは事業内容や製品構成(プロダクトミックス)、そして何よりも過去5年の経営内容から見て、もはや世界に通用しなくなっている企業であることは明らかだった。たった5年というかもしれないが、技術進歩や経営革新のスピードは過去のそれとは違う。企業評価の尺度も価値観もアナログ時代のそれではない。今の5年は、高度経済成長以前と以後の20年以上に匹敵する。

第4の産業革命が進展しているという観点に立てば、この業界の5年の変化は高度成長の前後どころの開きではない。

いまどき5年も連続して経営状況が劣化しているのに同じことをやり続けてきたのなら、どんなに実績や体力がある企業でも、企業を解体して再構築するような大手術なくして生き残れない。

5年間のシャープの損失は1兆円を大きく超えている。財務内容は優良会社から破綻会社に近いものに変わったというのに、従業員数は大きく減っていない。そんな企業を、日本のメディアは、技術力のある大切な企業として、外国企業に買われてしまう危機感をプレイアップするばかりだった。

記者クラブを通じてお上から情報を分けてもらうのが命綱になっているようなメディアだから、仕方がないのかもしれないが、そのメディアを振り付けてきた日本社会のリーダーたちのセンスも大いに問われるものだった。

日本の政官財「インサイダー」の敗北

負け組と決まった企業の先行きに口を出したのは、日本の政官財のインサイダーの群れであり、その論理は世界のM&A市場のものとは大いに異なっていた。

5年前ならわずかな額で済んだ債権放棄を避けて、問題先送りに付き合ったばかりに、さらに貸し込んで足抜けできなくなり、他のインサイダーの思惑に乗じて少しでも負担を低くしたいと考える銀行。

大手企業の破綻を先延ばしする以外に経営力を発揮できず、自らの在任中に破綻に追い込みたくないというだけの理由から税金で救済しようとする国家機関とその監督官庁。

そしてその上に君臨する政治家。

そうした思惑の中で自己保身に汲々とし決断力に欠けるサラリーマン経営者の付和雷同と右顧左眄(うこさべん)が5年も続けば、それなりに蓄積のある企業は見る影もなくなる。

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鴻海に対するゼノフォビア(外人嫌い) 日本は途上国か社会主義国か

ところが、そのシャープを飲みこもうとする外資が現れると、やれ技術力、やれ人材と、実際の企業評価とは無関係な異次元からメディアが感覚的なゼノフォビア(外人嫌い)を煽り立て、国家機関による救済に持ち込もうとする力が働いた。

シャープが上場企業である以上、声を立てるべきは直接金融市場の参加者であり、経営実態がどんどん明らかにされるべきなのに、限られたステークホールダー(インサイダー)間の不透明な駆け引きと秘密交渉でことが進んだのは、日本の金融システムが欧米と異なり、いまだに銀行中心主義にどっぷりつかっていることによった。

上場会社のM&Aなのに、株主の価値保全ではなく、途上国や社会主義国でしか見かけないステークホールダーがそれぞれの自己保身から駆け引きに狂奔した。

シャープ<6753> 月足(SBI証券提供)

世界では、企業の多産多死を通じて産業の活性化が図られている。多産多死の世界での企業の生き死を巡る決断に責任を取らない人が勝手なことを主張してもめている様は、市場のルールから外れた社会主義国や未成熟な新興国でしかないことだ。

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投資の視点』(2016年3月15日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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