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IPOしたマクアケの成長に必要なものは?選ばれるクラファンプラットフォームになれるか

マクアケ<4479>は、2019年12月11日東証マザーズに新規上場しました。同社の株価は、公募価格1,550円に対して初値は+74.84%の2,710円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化

本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月28日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。

初値は公募価格から74.84%上昇し、2,710円でスタート

マクアケをジョブ理論の視点からみる

株式会社マクアケ<4479>(以下、同社)は、2019年12月11日東証マザーズに新規上場しました。業務内容は、クラウドファンディング・プラットフォームの運営等です。

同社の株価は、公募価格1,550円に対して初値は2,710円をつけました。差異率は+74.84%と値をあげました。なお、1月27日時点の株価は4,000円です。

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。

では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社の事業は、「Makuake」サービス、「Makuake Incubation Studio」サービス、その他のサービスの3つのサービスから成ります。

「Makuake」サービスは、同社が運営するクラウドファンディング・プラットフォーム「Makuake」を介し、プロジェクト実行者とプロジェクト支援者をマッチングさせ、その対価として、同社はプロジェクト支援者が支払った支援額の一部を手数料として受け取ります。

「Makuake Incubation Studio」サービスは、企業等が有する技術を活かした新事業を創出するため支援を行い、その対価として収益を得ます。

その他のサービスは、ECサイト運営サービス、広告配信代行サービス等を行い、その対価として収益を得ます。

ビジネスモデル的にみれば、「Makuake」サービスのそれは、プロジェクト実行者とプロジェクト支援者をつなぐネットワーク促進型事業であり、他のサービスのそれは、基本的に未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品(各種サービス)へと変換する価値付加プロセス型事業です。

同社は、対処すべき課題の一つとして「『Makuake』のさらなる認知度向上とブランド力の強化」を、事業等のリスクとして「市場動向について」「インターネット環境等について」「法的規制について」等をあげています。

Next: マクアケが今後、成長するために取り組むべき課題とは?



思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。

2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。

3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。

4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。

5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社が課題とする「認知度向上とブランド力の強化」を取り上げます。同社はそれを次のように認識しています。

当社が成長を維持するためには、ユーザーに選ばれるプラットフォームであり続けることが重要であると認識しております。引き続き、魅力あるプロジェクトの継続的な発掘、ユーザーの満足度の向上を図るとともに、積極的なPR活動等による、「Makuake」のさらなる認知度向上とブランド力の強化に取り組んでまいります。さらに、これらの取り組みにより1次流通市場に潜んでいる新製品・新サービスのマーケットデビュー市場「0次流通市場」を創出、拡大してまいります。また、小売業者や大手流通業者との連携も進め、マーケットデビューを行った製品の販路拡大についても提供していくことを想定しております。

着目したいのは、「マーケットデビューを行った製品の販路拡大」であり、それとつなげるのは「アウトドア豆炭こたつ」です。エスオーナインのHPによれば、それは次のような特徴があります。

・熱源は電源不要の「豆炭こたつ」
・アウトドアに最適化された設計
 ー アウトドアで映える八角形の天板
 ー 片手で持ち運べる10kg*の軽量設計
 ー 折畳み時の厚さ6cm
・天然木素材のみを使用
・ウレタン塗装済み(天板表面は厚塗り仕様)

アウトドア豆炭こたつを雇うとする顧客がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「体を温める」ということ。感情的側面として「魅力」「癒し」、社会的側面として「つながりの提供」「製作者への共感」といったことを重視するでしょう。

なお、同社は競合を次のように認識しています。

当社が事業対象とする領域においては、多数のクラウドファンディング事業者が参入及び事業展開しており競合関係にあるほか、一部の既存Eコマース事業者との間でも事業サービスにおける競合等が生じております。

当社は、事業開始以降においてプロジェクト実績を積み上げることにより、コンサルティング及びマーケティング等にかかるノウハウ等を蓄積するほか、当社サービスの認知度及び信頼性向上を推進しており、今後も各種施策による競合事業者との差別化を図っていく方針であります。

しかしながら、今後における競合事業者の業容拡大や国内外の新たな事業者参入等により競争が激化した場合、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

Next: マクアケがすべきは、誰も知らない商品を広める手段を増やすこと



体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

アウトドア豆炭こたつを雇うとする顧客にとって障害となり得るのは、一つにはその存在を知らないことです。確かに、アウトドア豆炭こたつは、公式オンラインショップで購入することはできますが、販路は限られています。

いずれにしても、こうした障害が取り除かれれば、顧客は「野外に持って行ったアウトドア豆炭こたつのなかに入って温まることで、自然との一体感を味わう」「一緒に行った家族や仲間とのつながりを再確認する」といった、いずれもすぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

このアウトドア豆炭こたつは、明らかにこれまでにないこたつであり、クリステンセン教授たちが「新市場の顧客に到達するには、破壊的チャネルが必要なことが多い」と指摘するように、このこたつの販路拡大には破壊的チャネルが必要になってくるでしょう。では、どのような破壊的チャネルが考えられるでしょうか。

日経の記事にあるように「お湯を入れて15分で食べることのできる乾燥備蓄米(アルファ米)」は、アウトドア用の食料品としての需要が期待できます。そうであるのなら、そういった食料品を売っているに店にこの豆炭こたつのパンフレット類──場合によっては実物──を置いてもらうことができれば、新市場の顧客に到達することが期待できます。したがって、社内プロセスの統合という意味で同社の課題となるのは、そういった店を開拓することです。

では、同社がアウトドア豆炭こたつの販路拡大に取り組もうとするのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社はリトル・ハイア──燃料としての豆炭が売れ
た数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・クレイトン・クリステンセン/マイケル・レイナー著 玉田俊平太/櫻井裕子訳『イノベーションへの解』(翔泳社)
高知でアウトドア用品を手掛ける29歳。東京出身の彼が移住を決断したワケ:鈴木助
アウトドア豆炭こたつ 発売
尾西食品 乾燥備蓄米、海外で販売
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2020年1月28日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

image by:Michael Courtney / Shutterstock.com

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2020年1月28日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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