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【号外】ドル安・円高進行も市場の動揺は一時的と見る/為替介入について=馬渕治好

馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』は、めまぐるしく変化する世界の経済や市場の動きなどについて、ブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏が分かりやすく解説するメルマガです。今回は急速な米ドル安・円高をうけて配信された号外(2016/4/8)をご紹介します。

※『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』次号定期号は4/10配信予定です。いまのうちに初月無料のお試し購読をどうぞ。

市場の動揺は一時的、中期的な株高・円安の見通しに変化なし

1ドル108円前後、急速な円高が進む

足元、一段の米ドル安・円高が加速し、1ドル108円前後の推移となっています。他通貨の対円相場や世界の株式市場などをも巻き込む、全面的な市場の混乱を引き起こしており、シカゴ日経平均先物相場も、しばしば15300円台に落ち込んでいます。
※本稿は、日本時間4/8(金)午前2時ころに執筆しています

年初来の世界の市場動向を振り返ってみますと、1月には、中国経済の悪化懸念や原油価格下落が産油国経済に与える悪影響の心配などから、新興諸国中心の株価・通貨の下落となりました。ところがそこで新興国に対する市場の懸念は一巡し、ロシアやブラジルの為替込みの株価の推移は、1月以降大きく回復しています。

2月には、米国経済に対する行き過ぎた懸念やドイツ銀行の経営に対する過度の心配など、先進国中心の不安が広がり、日米欧主要国の株価は、1月を下回る安値を付けました。しかしその後は、米国を中心に欧米株が底入れ反転に向かいました。

こうした世界の明るい流れに、最後まで取り残されていたのが、米ドルと日本株でした。4/3(日)付の記事で解説したように、米ドル以外の通貨は、先週は既に外貨高・円安に向かっており、米ドルだけが対円で下落しているような状況でした。世界の株価のなかでは、その米ドル安・円高を受けて、日本株がダントツの不振だったからです。

この世界の明るい流れに逆行している米ドル相場と日本株が、まず米国の景況感の改善や米株価の上昇という基調に米ドルがとうとう従って上昇に転じることで、日本株も反転上昇するだろう、と見込んでいたわけです。

意外な底堅さを見せた日本株。ところが…

今週に入って、そうした予想と違って、米ドルは対円で軟化を続けましたが、日本株が想定外の堅調さを見せました。特に4/7(木)は、米ドル安円高にもかかわらず、日経平均やTOPIXは前日比で上昇し、とうとう世界の明るい流れに逆らっているのは米ドルの対円相場だけ、というところまで来たように思われました。

ところが米ドルが底が抜けたような下落の加速を演じはじめ、それが米ドル以外の通貨をも巻き込んで、対円でそろって下落し始めました。さらに4/7(木)の欧米市場では、欧米株価も巻き込まれて比較的大幅な下げとなっています。

この欧米株の下げは、円高が欧米株にとって何らかの悪材料だ、ということではなく、通貨相場が大荒れのため、何が起こっているのかわからない、といった投資家の不安を招いているのだと推察されます。

このように、世界の明るい流れに一人逆行していた米ドルが、世界全体の大きな潮流に飲み込まれ上昇に転じると予想していたところ、逆に米ドルの下落という実態に沿っていない理不尽な相場動向が、世界の明るい流れを巻き込んで暗転させてしまった、という事態になっています。

ドル安・円高、2つの理由は投機の口実に過ぎず

米ドル安円高の背景としては、(1)4/6(水)付のウォールストリートジャーナルのインタビューで、安倍首相が「世界各国が通貨安競争を回避しなければならない」と述べたため、日本が円高を阻止するための介入を行なわない、あるいは日本は円高を容認している、と解釈された、(2)米国の利上げペースが緩やかだとの観測が広がっている、といったものが挙げられています。

しかし、まず(1)については、「そもそも実態に沿った為替市場の流れが米ドル安・円高に向かうべきであり、それを日本が介入等で阻止しようとしていたものが、介入できそうもない」という展開であれば、それを材料に円高が進むことは理解できます。

しかし、最近の米国経済の堅調さ(4/5(火)発表の米国の3月ISM非製造業指数も、2月の53.4から54.5への上昇と、予想の54.2を上回る改善でした)や米国株価の堅調さを踏まえれば、日本が介入しようとすまいと、自然な流れは米ドル高・円安です。このため、介入の有無が米ドル安を押し進める要因とは考えられません。短期的な円買いの口実にされているだけと考えられます。

また(2)についても、今後米国で利上げが行なわれる、という観測自体は不変で、多少そのペースが当初想定より遅くなるかもしれない、という程度に過ぎません。それによって、米ドルの上昇のスピードが遅くなる、ということが生じても不思議ではありませんが、米ドルが下落すべきだ、というのは腑に落ちません。やはり投機の口実になっているだけと言えましょう。

Next: 日本による為替介入の可能性は?/外国人が13週間ぶり買い越し



日本による為替介入の可能性は?

なお、焦点となっている日本による為替介入についてですが、介入があるのかないのか、あるとしていつどのような形で入るのかは、全く不透明です。ただ、2月のG20で、過度な通貨安政策を避ける、という旨が共同声明に盛り込まれたため、日本が介入できない、という説がささやかれています。しかし、G20で各国が想定していたのは、中国元の過度な切り下げをけん制することでした。

もちろん、米国の輸出製造業が相対的に不振であるため、米国が米ドル高を好ましく思っていないことは事実でしょう。米財務省の半期為替報告書でも、日欧の金融緩和(並びにそれによる間接的な通貨安政策)に対して不満が述べられています。ただし、同報告書で最初にそうした主張が表れたのは昨年4月であり、いまさら米国のそうしたスタンスを、足元の米ドル安・円高の急落の理由だとするのは、とってつけたように感じられます。

加えて、先進主要国の各国とも、通貨水準を自国通貨安に押し込んでいくような介入には反対です。しかし一般論として、どの国も、過度な為替相場の変動は好ましくない、という見解も共有しています。

現在のような、毎日1円以上も円高に向かい続けるような市況は、誰がどう考えても「過度な変動」です。くわえて4/7(木)の欧米株価の波乱は、こうした急速な為替市場の動きは、欧米諸国にとっても好ましくないことだ、との認識を広げる可能性があります。

とすれば、あくまでも過度の変動をけん制するため、との理由で、日本政府が何らかの形で為替市場に手を入れることは、各国から激しく攻撃されるようなものではないでしょう。

こうしたことから、今すぐでないとしても、米ドル円相場が早晩底入れ反転するものと予想しますが、それは日本株にとって安心材料となるでしょう。

外国人投資家が国内株を13週間ぶり買い越し

ここで日本株については、外国人が本格的に売っている、という説が横行しています。確かに短期筋は、今の相場の急変に乗じて、日本株を売っている向きも多いでしょうが、長期筋(年金等)は、短期波乱から日本株に対して様子見姿勢は強いものの、日本株が基調として下落を続けると考えているとか、本格的な売り姿勢に転じた、といったことはないと推察しています。

財務省統計では、3/27~4/2の週は、外国人投資家は国内株を13週間ぶりに金額でみて買い越した、と4/7(木)に発表されました。一方的に外国人が日本株を売りまくっている、といった主張は、実態と違うのではないかと考えています。

以上より、国内株式市況並びに米ドル円相場については、目先は心理的な動揺(内外の経済実態の急変などでは全くありません)により、まだ少しの間は価格水準の落ち着きどころが定まりにくいでしょうが、その後は中期的に(たとえば年央に向けて)株高・円安方向に進む、という見通しは、依然として変更することを全く考えていません。

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馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2016年3月8日号外)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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