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米国旅行のお土産で困る「アメリカにあって日本にはないもの」

旅行や出張で米国を訪れた人たちを困らせるのが「お土産」。米国にあるものはほとんど日本にもあるし、そもそも日本のほうが質がいいという始末。シアトル在住歴10年の粥川由美子さんが『道産子絵描き粥川由美子の絵にも描けないシアトル・デイズ』でその苦悩を語っています。

アメリカン・フィーリング

日本の文化やアニメーションが世界で大人気といわれて久しいですね。アメリカ、ヨーロッパでコンサートやツアーに成功している日本のバンドや歌手もたくさんいるよう。「ジャパニメーション」、「クールジャパン」などと呼ばれ、世界では今、日本の文化が注目されているそうな。

でもそれは、たとえばアメリカでは、アメリカの「そういう人」に人気なのであって、アメリカ全体が日本に夢中、ということではないのであります。「全米で大人気」という売り文句のついた商品も、怪しい。この巨大な国のすべての人が、ひとつのものに夢中になるということ自体考えられず、日本のように、みのもんたが番組で痩せると紹介したら、スーパーのトマトが売り切れた、などということはまずありません。「今これがアメリカで流行ってるんでしょ?買って来て!」と何やら化粧品などを友達に頼まれても、キョトーンです。何ソレ?

例えばその商品は、テレビのトークショーでアイドルが愛用品として紹介していたという、香水。アメリカのブランドだから、「本場のヤツ」を買って来てほしいと送ってきた商品のリンク。なにやらかわいい、イチゴのイラストのついた超ガーリーな形の小ビンに入っていますが、聞いたこともないブランドなのです。

もちろんブランドと商品名をグーグルで検索。ひっかかったのは、お手頃な価格のドラッグストアブランドの商品でした。でも、どうも友達が送って来た商品とは見た目が違うので、近所にある、ド・庶民(ダイソー的にいうと、ザ・庶民)ドラッグストアへ足を運んでみました。あった…庶民の店の庶民の棚に、庶民の形をしたその商品が。あの超ガーリーな外装とはほど遠い、何これ、昔のシャンプー? みたいなガサツなプラスチックのボトルに入って売られていました。

友よ、夢を壊して申し訳ないが、その商品は日本の女の子に買ってもらえるよう、日本向けKAWAII仕様に衣替えした、アメリカのKAWAIKUNAIであることをここに報告せねばならない。許せ!

日本に帰るとき、または、日本にこちらから何か贈るとき、何を買えばよいのやら、本当に悩みます。アメリカにあって日本にはないものアメリカにあって日本にはないもの…と呪文のように唱えてしまいますが、そんなものなど、今時あるのかな?そりゃいわゆるおみやげやさんに売っている、スペースニードルの置物なんかは、ここでしか買えないかもしれませんよ。でも服やコスメ、お菓子となると、あっというまに日本に入ってきちゃって、そして日本仕様に質よく作られちゃって「本場」の価値がまるでなくなってしまうのです。日本め~、ちょっとは外国に行かなきゃ手に入らないものを残しておいてよ!

こちらに住んでみると、いかに日本で売られているアメリカブランドのもの、例えばコカ・コーラやキット・カットのような商品ひとつとっても、日本仕様の質のよさに目が覚めます。でもやはり現場の事情を知らなければ、実は本場に勝っているという感覚は生まれないでしょう。

海外に旅行やホームステイをしたり、または外国から日本へ来た人を通して、外国の文化を伝えるテレビ番組がたくさんありますよね。そこに登場する人の行動から、視聴者はその人の国の文化を覗くわけですが、その国のことをまるで知らなければ、その人をその国の代表と思ってしまいます。うわ、ソレかなり変な人だよ! とヒヤヒヤしながら番組を見ています。つまり番組を作る人、取材する人にその感覚がないからそんなことになるわけですが、私にもかつて、その感覚はありませんでした。

「変な人慣れ」してしまっていた自分

シアトルは、アメリカ人が住みたい街ランキングのトップグループに入る、住みよい街といわれます。治安がよく、日本やアジアの国からの留学生もたくさん来ます。私もここに住んで10年、実際に危険な目に遭ったという経験はありません。それなのに、生まれて初めてここを訪れたときは、常にビクビクしていました。治安がいいとはいえ、日本よりは犯罪率も高いし、人とのコミュニケーションの形も違います。知らない人がしょっちゅう話しかけてくるし、人目を気にせず、ヘンテコな行動をする人もたくさんいて、果たしてこの国の基準で、どこまでが正常で、どこからがおかしいのか、日本からポッとやってきたときの感覚では掴めなかったのです。

でもやはり長くいるうち、その感覚が養われてくる。親切な人、おもしろい人、かっこいい人、かっこわるい人。自分が外国から来たからそう思うのではなく、現地の人にとっても変な人、きもちわるい人を見極められるようになってきます。

そして、「変な人」への対応のしかたも身に付きます。変なだけだから、構えることはないというような感覚。たとえば、ホームレスとひとことでいっても、人に迷惑をかけない人もいれば、イチャモンをつけて迷惑をかける人もいる。どう見てもおかしな行動をしている人もいるけれど、危害を加えてくるわけじゃないので、無視すればよいだけの人たちです。変なことを言われそうなムードを感じたら、道の反対側に渡って回避すればいいし、迷惑をかけない人とはアイコンタクトで挨拶をしたり、会話をすることもあります。

先日、キットと近所を歩いていたら、向こうからショッピングカートを押して歩いて来る男性がいました。ショッピングカートはホームレスの人がよく生活用品を運ぶのに押しているので特に気にもとめず、すれ違う時に男性の顔を見上げてアイコンタクトを試みました。

すると彼は私の目をギロリと見据えて、脅しの言葉を吐いて通り過ぎたのです。うわ、変な人だった! と思い、コノーと思ったけれど、変な人とは関わるべきではないので、黙って立ち去りました。と、2ブロックほど先に2台のパトカーが止まっていて、警察が路上に止めてある車と、持ち主を囲んで話しています。何かあったのかなと思いながら通り過ぎる時に、その近所の人が、事件を起こしたらしき人物の特徴を、警察に告げているのが耳に入りました。その特徴は、まさに今私がすれ違った「変な人」のことだったのです。

駆け寄って、今その人とすれ違いました、あっちに向かって歩いていきましたよ! と告げ、彼が何をしたのか訪ねると、ハンマーで車の窓をガツン! と叩いて逃げ去ったと…

つまり、あのショッピングカートの中に、ハンマーが積まれていたのです。銃社会のアメリカといえど、実際に銃を持ち歩いている人など見たことのないシアトルですが、ハンマーなどという道具を武器として持ち歩いている狂人もいる。ゾーッとして、ヨロヨロしました。動揺しながら混んだ通りに出て、これはアイスクリームでも食べて落ちつかねば! とアイスクリーム店でキットを膝に抱いてアイスクリームを食べながら、しばし考えにふけりました…

自分がすっかり、「変な人慣れ」してしまったことが怖くなりました。こちらに来て間もない頃は、日没後はたとえ近所でも出かけるのが怖かったし、変な人を見れば、変な人だ、と思っていました。この国を知らなかった頃に持っていた、銃社会だから危険だろうといったような、ステレオタイプの感覚が、「アメリカ本場ファンタジー」と一緒に消えてしまっていました。

ここへ来て10年、ついに初めて、ペッパースプレーを買いました。しかしいざというときに早撃ちガンマンのようにこれを使えるかどうかは、ナゾであります。そしてそのペッパースプレーのケースのデザインがあまりにもKAWAIKUNAIので、KAWAII仕様にカスタムしようとしている次第です。

image by: Shutterstock

 

道産子絵描き粥川由美子の絵にも描けないシアトル・デイズ
狼に育てられた画家・粥川由美子が、絵、街、犬との暮らし、そして今まで話せなかったけどいっそ話してしまいたいこと(など!)を、もうイチローのいない街からお届けします。

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