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排ガス不正か、クルマの未来か…新聞各紙は東京モーターショーをどう見たか?

2年に1度開かれる「東京モーターショー」が29日に開幕しました。独VolksWagen社による排ガス不正問題後のイベントということで、社会的にも注目を集めています。VW問題後、新聞各紙は「東京モーターショーとクルマの未来」をどう伝えたのか、有料メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』が大手新聞社の紙面を徹底比較しています。

【基本的な報道内容】

東京ビッグサイトで29日から開幕する第44回東京モーターショーが、前日の28日、報道陣に公開された。環境に配慮したエコカーや個性的なスポーツカー、自動運転車など、未来のクルマが競演した。

モーターショーには、世界11カ国から約160の企業・団体が参加し、約400台が展示される。11月8日まで。

【朝日】結局、商売になるのはハイブリッド車

【朝日】は2面の解説記事「時時刻刻」の見出しを「クルマ 進化と回帰」とした。今回のモーターショーの目玉を「自動運転車」とし、他方、従来通りハンドルを握ることで楽しむスポーツ車の展示も増えたとする。

今回、初の試みとして、自動運転車の体験試乗が会場の屋上で開かれる。各社の目標は、2020年東京五輪までに高速道路での自動運転を実現すること。事故や渋滞を減らす効果が期待されている。

若者の車離れが進む中で、「楽しさ」を知ってもらうための提案が強められている。国内大手8社のスポーツ車展示は、前回の6台から11台に増えている。

輸入車のブースではVWの幹部がまず謝罪するところからクルマのお披露目会見を始めた。来年日本で売り出す予定だったクリーンディーゼル車の出展を見送り、発売時期も遅らせるという。排ガス規制逃れ発覚の影響で、他社も含め、ディーゼル車の出展は低調。

エコカー分野は、燃料電池車、ハイブリッド車、電気自動車、プラグインハイブリッド車の展示が目立ったが、「安定した販売が見込め、利益が出やすい」ハイブリッドの次期型が一番目立つところに置かれていた。記者は「うちが一番アピールしたいのはプリウス」というトヨタ幹部のつぶやきを拾っている。

uttiiの眼

自動運転車スポーツカーという、分かりやすい対比構造が出来上がっているので、そこのところは各社似たような記事になっているが、一番強調しているのは《朝日》。

しかし、自動運転車というものに対して、私の中には決定的な不審がある。事故が起きた場合に、誰の責任になるのだろう。色々なケースを想定しなければならないし、技術の内容を正確に見なければ、ケースの想定もできないくらい複雑なことだ。仮に完璧なシステムが出来上がったとしても、それは超管理社会のディストピアそのものではないだろうか。戦争は無人機で行い、普段の移動は自動運転のクルマ、荷物を届けるのは自動宅配システム…みたいなことになりそうだ。ああ気持ちが悪い。

エコカーの主戦場では、結局はハイブリッドが本命という《朝日》記者の見立ては正しいと思う。水素ステーションが必要な燃料電池車は言うに及ばず、電気自動車でもインフラ整備が追いつかないうえ、そもそも排ガスの問題だけでエコと言えるのかどうかということもある。

記事の最後に「国内市場縮小■中国へ出展重視」との中見出し。初開催の1954年から「還暦」が過ぎた今年、日本市場の地盤沈下傾向もあり、出展数も昨年に比べて減っている。米大手のビッグ3も不参加。今年から出展をやめた欧州のメーカー関係者は、「経営資源を考えると「1大陸・1ショー」の出展が限界。アジアなら市場が大きい中国のショーに集中したい」と話したという。身も蓋もない、実にリアルな話。

【読売】業界の盛衰しか興味がない?

【読売】は1面に基本的な記事と写真が4台分。トヨタのレクサスが出展した自動運転の燃料電池車がひときわ大きく取り上げられている。「高い技術力を詰め込み、環境に配慮したエコカーや個性的なスポーツカー、自動運転車など未来の車が競演した」と。

10面の経済面にも記事がある。リードは「国内各社が日本の技術力をアピールする」としている。想定されている「日本の技術力」とは、マツダのロータリーエンジンの復活、ターボエンジンと三つのモーターを組み合わせてハイブリッド車になったホンダの新型「NSX」。さらに、設定された目的地まで自動運転で走るニッサンの「IDSコンセプト」。ホンダは先行発売したトヨタの「ミライ」に対抗して、性能を走行距離で上回る燃料電池車を来年3月からリースし始める、など。

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《読売》、脳天気の極みと言ってよい。だだ、最後に短く記者が意見を述べている部分がある。小見出しは「まず国内市場車離れ克服を」とあり、各社にとっての「足元の国内販売低迷」と「若者の自動車離れ」を指摘した後、国内市場の活性化を訴え、「『車がなくても不自由しない』。そう思っている人たちをも揺さぶるような車の出現を期待したい」とする。

経済部の記者としてはそれ以上のことはないのかもしれないが、自動車産業全体、あるいは日本経済といった次元に論点が回収されてしまっているので、ハッキリ言って詰まらない。残念なことだが、これでは、この記事を読んだ若者も、クルマを買いたいとは思わないだろう。

【毎日】VWの方が大事でしょ!

【毎日】は、「東京モーターショー」に関しては、各紙の中で一番小さな扱い。7面に800字ほどの記事とトヨタのレクサスから出展された自動運転の燃料電池車写真のみ

記事中には、トヨタの出展した自動運転車が高速道路を想定した自動運転が可能であること、2020年前後に発売を検討することなど。ホンダはトヨタ車の性能を上回る航続距離の燃料電池車。その他、日産自動車、三菱自動車、富士重工業、マツダなど。

1面と6面にはVWの経営に関する記事。1面は「VW2220円赤字転落」との見出し。7~9月期の決算発表で、前年同期に4000億円近い黒字だった同社が、大幅な赤字に陥ったことを伝えている。リコール費用など、67億ユーロの引当金を損失計上したことが響いたかたち。ミュラー会長は、規模拡大を追求してきたこれまでの路線を改め、「質的な成長を目指す」と語っている。

6面の記事は、その経営方針の転換についての記事。見出しは「VW、拡大路線を転換」「不正の影響 今後本格化」。決算の結果は、排ガス不正に伴う損失の大きさを示すとともに、中国市場の原則によって急成長にブレーキが掛かりつつあることを浮き彫りにしたという。

排ガス不正の損失がなかったとしても、VWの業績は0.7%減の前年割れ。そして不正の影響本格化はこれから。全世界で1100万台もある不正車への対応をしながら経営改革を進めるのは容易ではないこと、研究開発費を年間10億ユーロ削減するが、各メーカーが環境技術や自動運転の技術で鎬(しのぎ)を削っているときに長期的な競争力低下を招きかねないことなど、経営再建の苦しい条件が次々と摘示されている。

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《毎日》の感覚はある意味で正常だ。VWの経営危機という大問題があるときに、東京モーターショーを大きく取り上げて先進技術を誇っている場合ではないと思ったのかもしれない。あるいは、自動運転は比較的新しいかもしれないが、それ以外の「新技術」には少々手垢がついており、あまりにも燃費が悪いことで有名だったロータリーエンジンの復活などに至っては、わざわざ大きく報道する価値はないということかもしれない。地盤沈下気味で、旧技術の焼き直し的な展示会に過ぎないと。

実際、あれこれの技術が実用化されるかどうかの問題よりも、VW1社の経営がどうなるかという問題の方が遙かに大きな問題となる可能性がある。販売台数でトヨタと世界一の座を競っていた会社が経営破綻すれば、世界中で市場の争奪戦が起こる。中国とヨーロッパの環境対応車の趨勢が変わる可能性がある。これは身震いがするほど大きな出来事になるだろう。その意味で、「東京モーターショー」につき、今朝の各紙で一番冷静かつユニークな取り上げ方をしたのが、《毎日》だったのかもしれない。誉めすぎか…。

【東京】トヨタだって、他人事じゃないよ!

【東京】は2面の解説記事「核心」で、見出しを「エコカー 日高欧低」とした。リードは、日本の各メーカーが燃料電池車などの次世代エコカーを披露するのに対して、欧州勢が得意なディーゼル車はVWの不正問題の余波で存在感が低下。事件は日本勢への追い風になったが、「VWの深刻な不正は自動車業界そのものへの不審を招きかねない怖さもある」と警告を発している。

記事の中では、日本の各メーカーが出展する車についての記述の後、VWの乗用車部門を統括するディース氏が謝罪したこと、日本で予定していたディーゼル車の販売を後ズレさせることなどを書いている。記者に囲まれている様子の、ちょっと悲しげなディース氏の顔を写した写真も掲載されている。

さらに、エコカーの開発競争で日本勢が優位にたつとの想定をした上で、「電動化技術を軸に、自動車業界で提携が進む可能性がある」と専門家は言う。だが、VWの不正によって、「メーカーがズルをしているようなイメージがなんとなくできてしまわないか」との懸念があるとも。最後に「燃費性能などは、より実態に即したかたちで明示していく必要がある」と専門家の提案で締めている。

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《毎日》が示したVWの排ガス不正事件の大きさを、《東京》はさらに、日本のメーカーにも跳ね返ってくる問題として大きく捉えた記事になっている。この観点は《朝日》、《読売》には全くない。

トヨタが次期プリウスで誇らしく主張する「リッター40キロ」は、なかなかオーナーが実感できる数字ではないだろう。そのことを、《東京》が取材した専門家はやんわりと指摘しているわけだ。きつい言い方をするなら、消費者を騙しているのはVWだけではない、ということになるだろうか。

image by: bankerwin / Shutterstock.com

 

uttiiの電子版ウォッチ』2015/10/28号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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