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なぜ日本政府は「子どもの貧困」対策として「寄付」を選んだのか?

子供の貧困が深刻化している我が国ですが、政府はその対策として民間からの寄付を募る政策を打ち出しました。「税金ではなく寄付」という是非について『冷泉彰彦のプリンストン通信』では、米国の寄付文化を紹介しつつ論じています。

貧困対策と寄付カルチャー

日本政府は、近年深刻な問題となっている「子供の貧困」対策として、「子供の未来応援基金」というものを設置しました。この「基金」が設置されたのは10月1日で、安倍政権としては、10月19日に「子供の未来応援国民運動会議」というイベントを開催して寄付を呼びかけたようですが、このイベントにしても、寄付活動にしても、それほど大きくは報道されていません。

この「子供の貧困」という問題に関しては、特に日本の場合は非常に深刻になっているようです。子供の貧困率は90年代から上昇傾向にあり、厚労省の資料によれば2013年は16.3%ひとり親世帯にいたっては同じ年の数字で、貧困率54.6%に達しているのです。また、2009年のOECDの統計では日本の子供の貧困率は調査対象の34カ国の中でワースト10で、ひとり親世帯の貧困率は最下位だったそうです(下記の安藤編集長のまとめによる)。

これに対して、安倍政権は2013年に「子どもの貧困対策法」を制定しており、これに基いて対策が講じられています。具体的な政策としては、

  1. 学校へのスクールソーシャルワーカーの配置
  2. 地域の無料学習支援塾を設置する事業
  3. 児童相談所の相談態勢の強化
  4. 児童養護施設の学習支援

といった対策が既に実施されています。私個人としては、1. 3. 4. は、それぞれ学校、児相、養護施設として必要な「本業の問題」であって、わざわざ「特別な対策法がないと予算措置ができないというのが根本的に間違っているように思われますし、2. に関しては、公教育が「標準以上の学力の子」も「学習困難の子」も教えられず、塾という非公式な機関への社会的ニーズ高めているということにも根本的な違和感を感じます。ですが、それはともかく、必要な対策であるに違いありません。

どう考えても「憲法上の権利」あるいは「教育を受けさせる義務」といったものを達成するために必要な措置なのですが、では、今回この「基金」というのが出てきたのはどうしてなのでしょうか? どうして国の施策としてできないのでしょう? なぜ寄付なのでしょうか?

ネットメディア「THE EAST TIMES」の安藤歩美編集長が、この問題について書いた記事が「ヤフーJAPAN」に掲載されています。

子供の貧困対策、なぜ政府は「寄付」を呼びかけるのか?

安藤編集長は、「なぜ寄付なのか?」という問題については、まず内閣府の担当官からは「国は国として大綱に基づいて政策を推し進めるが、それと並行して、政府だけでなく社会全体で子供を支えていくような運動が必要だと考えた」という説明があったとしています。

担当官の説明は「子供の貧困問題は深刻であるにもかかわらず広く認識されておらず、『自助努力の範疇ではないか』と言われることもある。しかし、子供は社会全体の財産。貧困を社会全体の問題と捉え、国民ひとりひとりが誰でも活動に参加できる事業の1つとして、まずは『基金』という象徴的な方法を選んだ」というのです。

要するに「社会に広く認識させるために」は、100%税金ではなく、基金にして民間の自発的寄付を募った方が「盛り上がる」ということです。

また安藤編集長によれば、その担当官は、別の利点として「国の予算で行う事業の場合はどうしても画一的な支援方法になり、特定の地域や分野に偏った支援はできない。その点民間の基金であれば、NPOなどが特定の地域や分野に特化して行う事業でも自由に使うことができる。子供の貧困対策には、地域に密着して子供に寄り添う草の根活動こそが必要で、柔軟に用いることができる民間の基金が適している部分もある」という観点が示されたとしています。

同じような声は、支援現場にもあり「民間の資金には、困窮している子供を一定の支援条件に当てはまらないからといって差別することなく、柔軟に運用できるメリットがある」という指摘がNGOからもあったというのです。

安藤編集長の記事は、基本的に寄付を否定するものではありませんが、この2つの声を紹介しながらも、まず政府の事業として税金の投入が本筋だろうという問題提起として書かれていると見ることができます。

この「寄付か税金か」という問題ですが、似たような論争はアメリカにもあります。と言いますか、それこそ「子供の貧困」だけでなく、あらゆる社会問題、格差問題に関して「個人の自発的な寄付」がいいのか、それとも「税金による政府の施策としてやる」のがいいのかというのは、常に「対立軸」として論争の材料となっているのです。

後者は典型的な「大きな政府論」で、民主党とその支持層の間に広く共有されている考え方です。今回の大統領選では、自称社会主義者のバーニー・サンダース候補が「格差の是正」を強く主張しているわけですが、とにかく「より福祉を拡充」するために、「より富裕層の課税を強化」する、要するに「再分配を強める」という考え方です。

一方の共和党は前者の考え方に近いわけです。共和党というと保守であって、「アンチ・リベラル」だから福祉など興味ないだろうというと、全くそうではありません。共和党の支持者であるアメリカ保守の考え方は、「困っている人は助けたい」が、「それを政府を肥大化して行うのは絶対に反対」というだけなのです。ではどうするかというと、それは個人の自発的な寄付によるということになります。

実際は個人が教会組織や慈善団体に寄付をして、そうした団体が福祉活動を行うわけですが、そのような活動を後押しするために、企業にも個人にも非課税枠設定されています。ですから、共和党的な考え方をする人は、「税金で取られて既得権益にカネが流れるぐらいなら、困っている人や団体を自分で選びたい」ということで、寄付金の小切手を切るわけです。

image by: Shutterstock

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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