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元旅行誌編集長を唸らせた、伊豆の「ファーストクラス民宿」

秋も一段と深まり温泉が恋しい今日このごろ、ちょっと一泊湯を楽しみに、という方必読。『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』の新コーナー「ファーストクラス民宿を探して」で、西伊豆の超A級民宿が紹介されています。

大人のためのファーストクラス民宿を探して温泉民宿 高見家(静岡県雲見温泉)

今号から「ファーストクラス民宿を探して」という不定期の新連載を始めたい。で、前号で少し説明した大和丸に行っても探していることにならないので、別の民宿に泊まってみることにした。

泊まったのは西伊豆、松崎町雲見にある「温泉民宿 高見家」である。

この雲見温泉というのは、おすすめの民宿が多いことで知られるエリア。ほかにも候補はたくさんあったが、「温泉へのこだわり」に注目し、この民宿をチョイスしたわけである。というのもこの宿、温泉は源泉かけ流しにこだわり、「日本源泉湯宿を守る会」の会員宿でもあるのだ。

実はこの会は、いわゆる「蒸気造成温泉」を温泉として認めていない。箱根大涌谷の温泉などは温泉ではないという立場である。こういうタイプの会は珍しい。 「蒸気造成温泉」とはどんなものかは、ここではひとまず置いておいて、また次号以降に解説したいと思う。

さて、まず予約。今回は当然ただの旅人なので、普通に電話をかけて、「あの~、1人の宿泊は受けていますか?」と聞いてみた。日にちを聞かれ、たまたま月曜日だったその宿泊希望日を答えると、「6畳間になってしまいますが…」とのこと。了解です、と予約成立。

当日は「スポーツ報知」の月1連載の取材で渓流釣りをしていて、しかも朝から全然魚が釣れず、昼飯抜きでどうにか3尾キャッチして仕事を終え、おなかを減らして宿にたどり着いた。到着は15時半である。

宿の外観はこんな感じ。民宿としてはこぎれいと言っていい

上の写真はわかりやすく全体を撮っているが、左右のゴチャッとしたあたりはまあ、ご愛嬌。この部分をカットして撮影すると、普通の旅館のようだ。

雲見は西伊豆エリアでももっとも南あたりに位置していて、国道から1本入った港の周辺に宿(大半が民宿だ)が集まっている。

チェックイン時に玄関口で、1階にある男女別浴場のことと、玄関を出てすぐのところにある貸切露天風呂のこと、その貸切露天は石鹸やシャンプーが使えないことなどの説明を受けてから客室に入った。

今回泊まった部屋。トイレなしの6畳だが、廊下に出てすぐトイレがある

客室に灰皿があったのでひとまずタバコを一服して一息入れる。ロビーにも灰皿があって、特に喫煙かどうか予約時に聞かれなかったので、おそらくどの部屋も喫煙は可能なのだろう。

アメニティはタオル、歯ブラシ、浴衣、カミソリ。 バスタオルはないので、自分で持っていく必要がある。 布団敷きもセルフである。

この段階で「ファーストクラス」からはチトはずれるな、と思いつつ、一服を終えたらさっそく風呂だ。まずは釣りでべとべとの体を洗いたいので、1階の男女別浴場に行く。 お風呂の写真は以下のような感じである。

男性用のお風呂。3人くらいでいっぱいのこぢんまりとした湯船である

カランは3人分あり、シャンプーやボディーソープは用意されている。

脱衣所に温泉に関するこだわりが色々と書いてあり、まあ、好きな人はきちんと読むと楽しいはずだ。ここで書いているとものすごく長くなるので割愛するが、要するに、源泉かけ流しにこだわったのでこの大きさの湯船になった、源泉かけ流しとはどんなものか、ということが書いてある。

湯船の右奥のところから源泉がちょろちょろと出ていて、それを飲んでみると大変しょっぱい、舌に苦味が残る味だ。毎日完全換水(水抜き)清掃を行っており、泉質はカルシウム・ナトリウム-塩化物温泉で源泉50.6度。

「強塩味、苦味、無色透明、ほぼ無臭」と観察した(郡司さん風。笑)。

源泉は集中管理の混合泉で、湧出量は毎分1,539リットルと豊富。そのうちの毎分15リットルをこの宿で利用している。前述の通りの源泉100%かけ流しで、加水も加温もなし(冬季と夏季には熱交換で湯温調節あり)。見事なものである。 温泉好きとしてはワクワクせざるを得ない。

15リットルと聞くと少なく感じるかもしれないが、毎分1リットルに対して利用者が1~2人であれば、かけ流しでも清潔感を維持できるとされている。この宿は毎分15リットルが浴槽に注がれていて、男女あわせて15人も入れない浴槽だから、これで十分というわけである。

さっそくかけ湯をして湯船に入ると、これがかなり熱い。浴槽で44度強ある。あとから入って来たおじさんたちは「熱くて入っていられない」と言っていたが、僕は草津の48度にも慣れちゃっているので、全然、平気である。むしろ湯上がりがスカっとしていて気持ちがいい。塩分が濃い湯なので非常によく温まり、湯上がりにも汗が止まらなくて再入浴したくらい。想像よりも食塩泉系のベタベタ感がなく、湯もフレッシュ感が高い。さすがは源泉100%かけ流しの湯である。

高温の湯に入ると、いわゆる交感神経が刺激されて元気が出る。お風呂から部屋へ戻る途中で、瓶ビールを1本もらっていき、部屋でグラスに注いでぐびぐびと飲む。ぷはー!! 最高ですわ。ちなみに生ビールは置いていません。僕は全然気にしないけども。

ビール1本飲んでもまだ夕食まで時間があったので、少し休憩をしてから、貸切の露天風呂へ行ってみた。 これが大変雰囲気のあるいい風呂なのである。

無料で利用できる貸切露天風呂。むろん源泉100%かけ流しである

内側から鍵がかかる仕組みになっていて、入り口にサンダルがなければ、そのまま予約無しで利用できる。僕は一番風呂だったようで、湯がなみなみと浴槽に満ちていて、入浴するとザバーっと大量にあふれた。いやぁ、最高。

ロケーション的に周囲はオープンタイプではないものの、天井部分は抜けており、浴槽脇のいすに腰掛けると秋の風が吹き抜けて心地よい。

3回も出たり入ったりと湯を楽しんで、部屋に戻ろうとすると、受付で「夕食が少し早めでもいいですか?」と聞かれる。「ぜんぜん、むしろうれしいですよ。昼飯抜いてますので」と答え、さらにビールを1本もらって部屋に戻る。 ああ、なんたるぜいたく。

そのビールを半分くらい飲んだところで、夕食が少しずつ登場した。すぐに食べたい気持ちを我慢して、数品そろってから撮った写真がこれ。

1人泊なのにいきなり刺し身の大皿盛りが登場。これぞ民宿の醍醐味だ

昼飯抜きで渓流を歩きまくった刺し身大好き人間にとって、最高のごほうび。ちなみに夕食は部屋食、翌朝食は広間で、とのことだった。

まず刺し身はイサギ(イサキのこと。伊豆では濁ります)の姿造り、バチマグロ、カンパチ(たぶん天然)、ボタンエビ(これは解凍かな)、そしてなんと生ワサビがおろし金とともに付いている。

左に見えているのは地物のもずく酢、もりそば(別につゆが付いていた)、茹でガニ(これはさすがに冷凍か)、サザエのつぼ焼き、金目鯛の唐揚げ銀あんかけ。香の物はニンジン、セロリ、生姜たまり漬け、沢庵。

しばらくすると揚げたての天ぷらが登場。 ししとう、ニンジン、茄子、カボチャ、真鯛。これを天つゆで味わう。締めには白飯と、とろろ昆布の吸い物が一緒にもってこられて、テーブルに用意されていった。

さらに「お飲物どうします?」と聞かれて日本酒を追加注文すると、日高見の純米、くどき上手吟醸、そして静岡の地酒(吟醸)があるという。悩んだ末に秋田の銘酒、日高見の純米酒を2合注文。すると、氷が入るタイプのガラスのお銚子で登場し、一緒に出て来たのが先の写真の一番奥に見えていた1品。これが自家製のカラスミなのである。「いまは、お酒をご注文された方にサービスで出してます」という。なんとタダなのだ。しかも塩分控えめで実にうまい。これは酒が進む。

伊豆で茹でガニはいかんな、と思っていたのだが、案外に甘味があり、身もしっかりしていてうまかった。むろん刺し身は申し分なく、しかも、おろしたてのわさびの香りが抜群にいい。結局、日高見をさらに2合追加。

ビール2本と日本酒4合飲んで、食器を片付けてお盆に載せて部屋の外に出す。これが民宿流である。そうして、ふらつきながら布団を敷く。シーツがぱりっとしていて、清潔感があって気持ちいい。うおー、気持ちいいいい! と横になったら、あっという間に眠りに落ちた。

翌朝は7時には目覚めた。朝食は7時45分頃、と聞いていたが、8時前に部屋の電話が鳴って、1階へどうぞと呼ばれた。

1人旅で困るのが、この広間での食事である。他のテーブルはみな2人以上で、1人で飯を食べるのは案外わびしい。なんとなく、ほかのグループが「あやつは何ものか?」と話題にしているような気もする(自意識過剰だろうけども)。もう慣れたけど、ね。

今はすでにいい歳になったのでそれほどでもないが、まだ20代のころ、1人で温泉宿に取材に行くと、本当に「ナニしに来たんでしょうねえ?」という目で見られたものである。僕は男だからまだいいけど、女性の記者は「恋に破れた女が1人」ではないか、と思われることも多かったと聞いた。

まあ、朝が部屋食となると、朝飯前に布団を上げないといけないので痛し痒し、というところである。

閑話休題。 朝食のメニューをご紹介しよう。 まず写真は以下の通り。

カニのみそ汁がものすごい存在感である

まず、でかい椀に入ったカニ汁が目を惹くのだが、他のテーブルを見ると、皆さんは伊勢エビのみそ汁のようである。2人組でもそうだったので、おそらくは2人1室だと夕食時の刺し身に伊勢エビが付くのかもしれない。雲見の民宿では、それがデフォルトだということも十分にあり得るのだ。

ほかに地物のひじき煮物、沖ボラの湯引きの酢みそ掛け、青菜のおひたし、アジの干物、温泉卵、焼き海苔、香の物、白飯、水菓子の柿である。朝起きてひと風呂浴びていたので、胃も活性化していて、朝から3杯飯。しかし、なんで旅先の朝飯というのはこんなにうまいのかねえ。

それにしても、驚くべきは沖ボラのうまさである。ボラと言うと、首都圏の人間などはあのドブに泳いでいる魚でしょう? などと馬鹿にするのだが、沖の水のきれいな海でとれたものは、刺し身にしても抜群に旨い。養殖真鯛なんぞはまったく目ではないのだ。

このボラは、50センチ以上ある大きなサイズで、本当にうまい。大きなボラだからといって、僕が「大ボラ」を吹いているわけではない。しかも、あまり一般流通しない。民宿などでしかなかなか味わえないものだ。

しかも帰りには「お土産です」と地物ひじきを、またもやタダでもらった。

温泉は源泉かけ流しで、しかも貸切露天風呂付き。夕食も朝食もおいしくてサービスもいい。建物も館内も清潔で居心地もよい。惜しむらくは、布団敷きがセルフなのと、バスタオルが付かないこと。この2つをクリアすれば立派な「ファーストクラス民宿」である。とはいえ、超A級民宿であることは間違いない。

最後に宿泊料である。今回は平日、月曜日に1人1室で泊まり、前述の酒を飲んだ。瓶ビールは1本650円であった。日高見は4合で3000円。宿泊料は1泊9,720円。これに入湯税150円を入れて、全部で1万4,170円。酒を飲まない人だったら1万円以下だ。非常に安い

ここ、間違いなくおすすめです。

image by: 温泉民宿 高見家

 

『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋

著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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