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米国が「中国打倒」を決意した2015年。これから世界はどう変わるか?

AIIB、IS、南シナ海、パリ同時多発テロ…2015年も歴史を塗り替える大きな出来事が世界中で起きました。これらの事象が世界にもたらした影響とは? 無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者である北野幸伯さんは、歴史的視点と世界的視点、2つの視点と去年までの出来事を使って、今年一年の総括をしてくれています。

歴史的視点で見ると、今年はどんな年だった?

少々はやいですが、「今年1年」のまとめをしようと思います。「まとめ」といっても、起こった事件を列挙するだけではありません。RPEは、2つの視点で世界をみます。

1つは、「歴史的」視点です。必ず、「過去からのつながり」をみます。

もう1つは、「世界的」視点です。たとえば「シリア内戦」にしても、「アサド」「反アサド」だけを見ません。アサドの後ろにいる、ロシアとイラン。反アサドの後ろにいる、欧米とスンニ派諸国、というように、必ず「世界的」にみます。

この2つの視点から2015年を見ると、「今年はどんな年」だったのでしょうか?

08~14年を振り返る

まず、簡単に今年までを振り返っておきましょう。

08年。

皆さんご存知のように、アメリカ発「100年に1度の大不況」が起こりました。ロシアでは、「これでアメリカ一極時代が終わった」といわれています。そして、今のアメリカの衰退ぶりを見れば、「そのとおり」と思えます。

09年。

世界の大国群が沈む中で、中国だけは9%を超える成長をはたしました。

沈むアメリカ、昇る中国

この事実が、日本の政界にも大きな影響を与えます。「親アメリカ」の自民党が沈み、「親中国」の民主党が浮上した。09年9月、親中・鳩山政権が誕生しました。

10年。

この年も中国は、9%を超える成長をつづけました。

沈むアメリカ、昇る中国

「わが国は、アメリカにとってかわり、覇権国家になれる!」と確信した中国は、凶暴化していきます。10年9月、「尖閣中国漁船衝突事件」が起こりました。中国漁船が、むこうからぶつかってきた。にもかかわらず、中国は日本に「レアアースの禁輸」など過酷な制裁を課し、世界を驚かせました。

そして、この事件をきっかけに中国のリーダーたちは、世界中で、「尖閣は、わが国固有の領土であり、核心的利益である!」と宣言するようになっていきます(中国が領土要求をはじめたのは1970年代はじめですが、大騒ぎしはじめたのは2010年から)。

11年。

東日本大震災、福島原発事故。さすがに中韓も、日本バッシングを控えめにしました。

12年。

9月、日本政府は尖閣を「国有化」。日中関係は、「戦後最悪」になってしまいました。同年11月、中国はモスクワで、「反日統一共同戦線」構築を提案。

(詳細は「反日統一共同戦線を呼びかける中国」)

同12月、民主党政権は倒れ、自民党安倍政権が誕生しました。

13年。

この年は、「アベノミクス」で、超久しぶりに景気がよくなりました(消費税をあげなければ、「好景気は持続したのに」と、とても残念です)。

一方で、中国は、「反日統一共同戦線」戦略に沿って、「反日プロパガンダ」を強力に進めていきました。

・安倍は右翼である
・安倍は軍国主義者である
・安倍は歴史修正主義者である

世界は、中国の主張を徐々に信じるようになっていきます。

13年12月26日、安倍総理、靖国を参拝。多くの国民が、これを支持しました。しかし、世界では大規模な「安倍バッシング」が起こっていきます。

14年。

この年は、年初から大変でした。日本は、世界からバッシングされていたからです。総理の靖国参拝を批判したのは、中韓にとどまらなかった。アメリカイギリスEUロシアオーストラリア台湾シンガポールなどなどが、中韓に同調し、日本を非難しました。とくにアメリカの怒りはひどく、「安倍総理を首にする陰謀がある」と、私は複数の情報筋から聞いていました。

しかし、安倍さんは救われます。その理由は、ロシアが3月、クリミアを併合したこと。アメリカは、欧州とともに日本を「対ロシア制裁網」に加える必要があった。それで、日米は和解したのです。こうして、アメリカの敵ナンバーワンは、ロシアになった。

しかし、この年は、もう1つ大きな存在が出てきました。「イスラム国」(IS)です。「反アサド派」から離脱したアルカイダ系のISは6月、「カリフ宣言」をします。彼らは、首切り処刑を動画で配信するという、ありえない残虐集団。アメリカは8月から、「IS空爆」を開始しました。

14年、世界では「ロシアーウクライナ問題」と「IS問題」が最重要だったといえるでしょう。そして…。

2015年を振り返る

いよいよ「今年」に入ります。

まず、2月、ウクライナで「停戦合意」が実現しました。署名したのは、ロシア:プーチン、ウクライナ:ポロシェンコ、ドイツ:メルケル、フランス:オランドです。

アメリカは、この合意を「ぶち壊したかった」ようなのですが、大事件(後述)が起こり、考えをかえました。この停戦合意は、今も継続中。「ウクライナ問題」は、事実上消滅しています。アメリカを信じたウクライナは、「梯子を外されたのです。「クリミアは、事実上ロシアのもの」ということで、欧米は黙認。ウクライナのGDPは14年、マイナス6.8%。15年はマイナス9%の予測。実質「国家破産状態」にあります。

さて、アメリカが「ウクライナ停戦合意」を受け入れることにしたのは、3月に「AIIB事件」が起こったからです。皆さん、もうご存知ですね。イギリスドイツフランスイタリアオーストラリアイスラエル韓国などなどが、アメリカの制止を無視し、中国が主導する「AIIBへの参加を決めた。「AIIB参加国」は、57か国まで増えました。

「親米国家群は、アメリカのいうことより、中国のいうことを聞くのか?!!!」

このことはアメリカの支配層に、巨大な衝撃を与えました。

しかし、大国の中で唯一「AIIBに参加しなかった国があります。それが、わが国・日本。4月29日、安倍総理は米議会で「希望の同盟」演説を行います。これで日米関係は、劇的に改善されたのです。

5月、アメリカは、本格的に中国バッシングを開始。「ネタ」になったのは、「南シナ海埋め立て問題」でした。米中関係急速に悪化し、両国の軍事衝突を懸念する声まできかれるようになってきます。

さらに、中国の景気急速に悪化していきました。6月から9月にかけて、株価が大暴落したのは、記憶に新しいですね。

一方で、アメリカはロシアとの和解に動きはじめます。5月12日、ケリー国務長官が訪ロし、プーチンと会談。「ウクライナの停戦合意がつづけば、制裁解除もあり得る」と発言し、世界を驚かせました。

希望の同盟」演説で日米関係を好転させた安倍総理。8月14日には、「安倍談話」を発表。曰く

私たちは、国際秩序への挑戦者となってしまった過去を、この胸に刻み続けます。だからこそ、我が国は、自由、民主主義、人権といった基本的価値を揺るぎないものとして堅持し、その価値を共有する国々と手を携えて、「積極的平和主義」の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります。

暗に、「中国ではなく、アメリカにつきます」と宣言した。アメリカは、喜びました。

9月19日、「安保関連法」成立。日本とアメリカの接近はつづきます。

9月末、国連総会があり、世界のリーダーたちがこぞってアメリカを訪問しました。一番目立ったのは、アメリカ(特に政界)が、習近平に冷たかったことです。

一方、目立ったのは、米国内の習氏への冷ややかな反応だ。米テレビは、22日から米国を訪問しているローマ法王フランシスコの話題で持ちきりとなっており、習氏のニュースはかすんでいる。

中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「習氏にとって一番の期待外れは、全く歓迎されなかったことだろう」といい、続けた。

「ローマ法王はもちろん、米国を訪問中のインドのモディ首相に対する熱烈歓迎はすごい。習主席は23日にIT企業と会談したが、モディ首相もシリコンバレーを訪れ、7万人規模の集会を行う。米国に冷たくあしらわれた習氏の失望感は強いだろう。中国の国際社会での四面楚歌(そか)ぶりが顕著になった」(夕刊フジ 9月28日)

米中関係は10月、アメリカの「航行の自由」作戦で、さらに悪化しました。

<南沙>米中の緊張高まる 衝突回避策が焦点…米軍艦派遣 毎日新聞 10月27日、(火)12時34分配信

【ワシントン和田浩明】中国が主権を主張する南シナ海・南沙(英語名スプラトリー)諸島の人工島から12カイリ(約22キロ)以内の海域に米海軍がイージス駆逐艦を進入させたことで、南シナ海全域の軍事的緊張が一気に高まった。

米国は中国の対抗措置を見越して作戦行動に踏み切ったとみられるが、軍艦船の偶発的な接触など双方が予期しない形での危機に突入する可能性がある。

オバマ米大統領は9月下旬の米中首脳会談で、習近平・中国国家主席に直接、南シナ海の軍事拠点化を中止するよう要求したが、習氏は「主権の範囲内」と拒否していた。今回の「航行の自由」作戦はいわば米国による「実力行使」であり、当然、現場海域に展開する中国海軍の対抗措置を予想したものだ。

さて、9月末、中東では新たな動きがでてきました。ロシアが、シリアのIS(とアサド派)空爆を開始したのです。

11月13日、パリでISによる同時多発テロ」が起こります。この事件をきっかけに、オランド大統領は、「欧米ロ」による「反IS大同盟」形成に動きはじめました。彼はアメリカに飛び、11月24日、オバマに「大同盟」の形成をよびかけるつもりでいた。しかし、まさにその11月24日、会談の直前に、トルコがロシア軍機を撃墜したのです。

(その裏事情、詳細はこちら。「プーチン激怒~ロシア軍機撃墜事件の『深い闇』」)

これで「大同盟」構想は、いったん挫折しました。しかし、「完全に葬り去られた」わけでもないようです。というのも、12月15日、ケリーがモスクワに来てプーチンと4時間会談した。話し合ったのは、やはり「シリアIS問題」です。「AIIB事件」ではじまった米ロ和解の流れはつづいているのです。

次ページ>>歴史的視点でみる二極時代の「アメリカのこれまでと2015年」

歴史的視点で2015年を見ると

ここまで、ほぼ時系列で今年の動きを見てきました。今度は、「歴史的視点」で「解釈」してみましょう。

08年、アメリカの一極時代は終わりました。その後は、アメリカと中国、二極時代になっています。そしてその他の国々は、「どっちにつくのがお得かな?」と考えている。

アメリカ・オバマ政権は、ここ数年間、その資源を非常に「非効率的」に使っていました。

2013年、アメリカはシリア・アサド政権を敵視し、戦争一歩手前までいった。

2013年末~14年初、中国のプロパガンダに乗せられ、安倍総理の「靖国参拝」に過剰反応バッシングしていた。

2014年3月から、「クリミア問題」でロシアをバッシングしていた。

2014年8月から、IS空爆をつづけている。

シリア、日本、ロシア、ISバッシング。

これは、アメリカの国益とほとんど関係がなく、「パワーの無駄使い」といえます。シリアにアサド政権があると、アメリカは何か困るのでしょうか(実際に困っているのは、たとえばイスラエル)? 安倍総理が靖国に参拝したら、アメリカは困るのでしょうか? クリミアがウクライナ領か、ロシア領かで、アメリカに何か影響があるのでしょうか? ISは、確かにテロを起こすので問題ですが、空爆するより国内を固めた方が効率的なのではないでしょうか?

しかし、「AIIB事件」で、ようやくオバマさんも「真の脅威の存在」に気がついたのでしょう。アメリカは、ようやく本来のリアリズムにもとづいた外交に戻りつつあります。

アメリカには、「3つの問題地域」がある。すなわち、

1.欧州、具体的にはウクライナーロシア問題。

2.中東、具体的には、シリア、IS問題。

3.アジア、具体的には中国、南シナ海問題。

しかし、2015年、1.のウクライナ問題は、事実上消滅しました。2.のシリア、IS国問題、アメリカは関与を減らしています。そもそも、シェール革命で世界一の産油産ガス国になったアメリカ。中東に対する興味を失いつつあるのです。

そして、すべての資源を、3.の中国問題に集中させつつあります。アメリカは今年、「資源を正しく使い始めた」のです。

一方、ライバル中国は今年、2回大きな勝利をしました。1つは、「AIIB」。もう1つは、IMFが人民元を「SDR構成通貨に採用したこと。

この2つは、文句なしで「中国の勝利」です。しかし、同時に中国経済はボロボロになってきている。中国に関しては、パワーの増大と喪失が、パラレルで起こっています。これは、しょっちゅう書いていますが、「成長期後期の典型的特徴なのです。

まとめてみましょう。

2015年、

1.ウクライナ問題は事実上消滅した

2.アメリカはロシアと和解しはじめた

3.アメリカは中東への関与を減らし始めた

4.アメリカは中国打倒を目指し始めた

こんな感じでしょうか。

一言で、「2015年は、歴史的視点でみるとどんな年ですか?」と聞かれれば、私は、「アメリカが、中国打倒を決意した年である」と答えるでしょう。

こういう状況で日本は?

長くなりましたので、次号で考えてみましょう。

image by: Orlok / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル

著者/北野幸伯
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