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生活苦で子供なんて…貧困化する地方には、まず高級官僚を移住させよ

安倍政権の公約の1つである「地方創生」。その達成のために1兆円近い税金が使われようとしていますが、「ホンマでっか!? TV」でもおなじみの池田清彦先生はメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で、政権の掲げる「お題目」では到底実現不可能と一刀両断した上で、先生流のユニークで大胆なアイディアを提示しています。

「地方創生」は先ず高級官僚の地方移住から始めよう

去年から安倍政権の肝いりで始まった「地方創生」について、思うところを述べてみたい。内閣府「地方創生推進室」と内閣官房「まち・ひと・しごと創生本部」の2つの組織を作って「地方創生」を進めるということだが、中身を見る限り、安倍政権の目指すグローバル・キャピタリズム(大企業に権力と富を集中させる)と根本理念が真逆で、どう考えても、選挙目当ての、地方に対する税金のばら撒きとしか思えない。安倍政権の言うことを聞いて、貰った以上の金を注ぎ込んで、様々な取り組みをした自治体が、挙句の果てに「地方創生」ならぬ「地方早世」にならないことを祈る。

2015年に公表された「まち・ひと・しごと創生」長期ビジョンは、

  1. 人口減少問題の克服(人口減少の歯止め、東京一極集中の是正)
  2. 成長力の確保

ということで、そのために達成すべき具体的な目標が定めてあり(2020年までの5年間で地方の若者雇用創出数を30万人にする。現状で東京圏に転入してくる年間10万人の人の流れを変えて、2020年に地方から東京圏へ転入してくる人を6万人減らし、東京から地方へ転出する人を4万人増やして、地方・東京圏の転出入を均衡させる。夫婦一組当たりの子どもの希望数を2020年に2.12人にする。2050年代に実質GDP成長率を1.5~2%程度に維持する)、これらの目標を達成するための政策として、農林水産業の成長産業化、観光業の強化、地域の中核企業支援、地方移住の推進、地方大学活性化、若い世代の経済的安定、子育て支援等々、総花的に沢山のお題目が並べてあり、これらを実現するために1兆円近い税金をばら撒くということらしい。

それで、実際に地方自治体から出てきたアイデアはどんなものかというと、商品券の配布、結婚を取り持った仲人に5万円の報奨金、若い移住者にポイントカードを配布、といった具体的ではあるが場当たり的なものばかりで、これではとても「地方創生」は覚束ないと思う。かといって国の政策は理念だけだ。たとえば、一口に子育て支援といっても、地方と大都市圏では事情が違う。保育園に預けられない待機児童の数が全国で4万人以上いて、これが子育てを阻害しているというのは、ウソではないが、これは地方の話ではなくて大都市圏の話なのだ。地方では、保育園も幼稚園も定数に満たないところが沢山ある。これが、何を意味するのかと言えば、地方では、子どもを育てる環境はあるのだけれども、若い人は収入が低くて子どもを作ったら食っていけないということなのだ。収入が低ければ結婚もできないので、晩婚化が進む。大都市ならば、若い人が子どもを作っても共稼ぎならば何とか暮らせる。だから、待機児童問題は大都市圏においてのみ発生するのである。 「若い世代の経済的安定」を謳っているけれども、地方に住んでどのように収入を増やすかについての具体的な提言はない。「地方移住の推進」で移住してくるのは、年金生活のお年寄りばかりとなりかねない。これでは「地方創生」ではなく「痴呆創生」になってしまう。

若者が地方に来ないのは、収入の目処がつかないばかりでなく、魅力がある場所がないからでもある。その意味では、「地方大学活性化」はいいアイデアではある。ただ、文科省が主導するような大学ではダメだ。日本の大学は文科省の統制が強く、地方大学は中央の大学のコピーになっていることが多く、志の高い若者には魅力がない。財務省は現在53万円の国立大学の授業料を16年後に93万円に大幅値上げする方針を打ち出しているが、これでは「地方大学活性化」どころか、地方大学は潰れろと言っているに等しい。地元の大学に行って、地元に就職しろといっても、収入の低い地方の家庭が、年間100万円近い授業料を負担することがそもそも難しい。

「地方大学活性化」を推進するつもりなら、授業料を大都市圏の大学より大幅に値下げして、交付金を増やし、文科省が口を挟まないで大学の好き勝手にさせることだ。若者に魅力がある大学が出現して、元気で面白い若者が闊歩する街が出現するだろう。「地方創生」とは、それぞれの地方の多様性をいかに担保するかということであって、安倍政権の考えている国民を統制して、グローバリズムの奴隷にしようという考えとはそもそもなじまないのである。「地方創生」が選挙目当てのインチキ話だとまともな人が思うのは当たり前なのだ。

本当に「地方創生」を考えるなら、もっと抜本的な政策を考える必要がある。企業を地方に誘致しようとしても、本社は大都市にあったほうが便利なので、簡単には移転してこないだろう。以前は大都市より安い労賃を当てにして地方に工場を建てる企業も多かったが、グローバリゼーションが進んだ結果、大企業はさらに安い労働力を求めて、最初はタイ、中国、べトナム、次いでラオス、ミャンマーへと移転していった。ラオスやミャンマーと同じくらいの労賃ならば、地方に工場を移転したいと思う企業は沢山あるだろうが、それでは「若い世代の経済的安定」は夢のまた夢である。安倍政権の今のやり方で、グローバル・キャピタリズムを推進する限り、「地方創生」は絵に描いた餅に過ぎない。グローバリゼーションから離脱して、日本の人口が6,000万人くらいに下がるのを甘受して、なるべく鎖国に近い体制で物と金を国内だけで循環させれば「地方創生」は瞬く間に実現するが、ネックはエネルギーである。 現時点でエネルギー自給率4%の国が、国民に不満を抱かせずに、グローバリゼーションから離脱するのは不可能に近い。

あれやこれらを考えると、「地方創生」は八方塞がりだが、何とかいい手立てはないものだろうか。私は、とりあえず、霞ヶ関の高級官僚の参勤交代」はいいアイデアではないかと思っている。現代における「参勤交代」論の元祖は養老孟司だが、私がここで提唱するのはちょっとニュアンスが異なる。養老さんの「参勤交代」は都市と田舎の「二地域居住」論で、都市と田舎に半分ずつ住もうというものだ。養老さんが挙げているメリットは、

  1. 来るべき大地震に備えて災害時の避難場所を作っておく
  2. 田舎で体を動かして農耕に従事すれば精神が健全になり、鬱にならない
  3. エネルギーが枯渇して流通がストップした時、食糧自給が可能だ
  4. 田舎に木の家を作ることで、林業を後押しできる
  5. 現在39%の食糧自給率を大幅に上げることができる(ちなみに1960年の日本の食糧自給率は82%であった)

等々であるが、私の考えは、田舎を都市とは異なる魅力的な場所として称揚するというよりも、田舎にいても都市にいるのと同じように働けるよという話だ。

現在、高級官僚や大企業のホワイトカラーの仕事は、パソコンを前にしての作業がほとんどである。どうしても必要な会議もあるが、パソコンを使っての持ち回り会議でOKの場合も多いだろう。ということは、オフィスに勤務していなくても仕事ができるわけで、田舎に住んでも休職する必要はないのだ。現場勤務でない官僚の半分は、1年あるいは2年交代で地方居住を義務付けて、月に1度か2度霞ヶ関に会議のために出向いて来ればどうかしら。

地方にとっての大きなメリットはまず住民税が増える。消費が多少活発になる。高級官僚が家族と共に移住してくれば、地方の人との人的交流が盛んになって、地方が面白くなる。官僚が地方に住むことによって、地方の実情を身をもって感じることができる。そして一番のメリットは、これが首尾よく行けば、大企業も真似をして、パソコンさえあれば仕事ができる人は、地方に住んでもかまわないということになることだ。こういった企業を後押しする政策を国や自治体が行うことで、「地方創生」は絵に描いた餅ではなくなるだろう。大企業に勤めて収入も少なくなく、地方に住んでも良いということになれば、アウトドア志向の若者は言うに及ばず、田舎で子育てをしたいという若い夫婦にとって、この就業形態は凄い人気になると思う。グローバリゼーションに矛盾することなく「地方創生」を進めるためには、ITを活用して、情報は集中的に管理ができるが、人はどこに住んでいてもかまわないという勤務形態を作るのが一番いいのだ。高級官僚は嫌がるだろうが、先ず隗より始めなければ、話は始まらないのである。尤(もっと)も、高級官僚は自分たちは隗(何の取り柄もない人)ではないと思っているだろうけれどね。

image by: 首相官邸

 

池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋

著者/池田清彦(早稲田大学教授・生物学者)
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