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「人民元」という蝶の羽ばたきが、世界に嵐を巻き起こす

今や多くのメディアが中国経済はすでにどん底の状態にあり、日本のバブルと同じ末路をたどるだろうと伝えています。しかしメルマガ『グローバル時代、こんな見方も…』の著者・スティーブ・オーさんは、むしろ危機的状況にあるのはアメリカと、米国債を多く保有する先進国の方ではないか、と分析。そして、昨夏の「人民元切り下げ」がバタフライ効果となって、世界経済を大きく揺るがしかねないと警告します。

株価依存のG7経済は危険な賭けをしている

約1年前のEUの量的緩和で、G7は名実ともに「株価中心」の経済政策となった。

各国は、緩和マネーが実経済の「必要なところへ向かう」との大義とは別に、数十パーセント単位の通貨下落を期待し、株価を始めとする金融市場を下支えるすることで、必ずしも実態を反映するわけではないマネーゲームに経済の牽引役を与えてしまった。

好調な実態経済、またはその将来性を見越しての株価上昇ではなく、株価そのものが上がることによって経済が良くなると言う「仮説」に基づいている。

米国では2008年、日本は90年代に続いて2013年に再開、欧州も2015年、金融市場に頼った出口の見えない「迷宮入り」を迎えた。

これを通貨安戦争? などと呼ぶかどうかは別にして、問題はG7各国がみな、数年単位でしかないその場しのぎの金融経済にうつつを抜かしていることにある。

ひとたび金融市場が混乱し、それが危機に発展すれば、経済への先行き不安が瞬時に襲ってくる。個人資産は激減し、年金給付すら不安視され、自宅を始めとする不動産価値も下落する。

G7+先進諸国民は、そんな脅威と隣り合わせに日々の生活を送っているのである。

中国や途上国は米債を売っている

交易を営む国はもとより、世界のほとんどの国が米国債を保有している。日本も相当な額の米債、すなわち米国が発行するIOU=「借用証」を大量保有している。政府資産としてである。

昨年夏、中国の景気減速懸念を反映して人民元が切り下げられ、それに呼応する形で新興国通貨が売られた。

これらの国々は「通貨防衛」と称する自国通貨買戻し(=米ドル売り)を行っている。当然、各国はドルを米国債で保有しているので、ドル売り=米債を売っている。

焦点は、これがトレンド化することはないのかということである。

ある人は90年代末のアジア通貨危機に似てると言い、ある人は当時との違いを各国の外貨準備量で語っている。しかし現状では中国との関係、とりわけ人民元との関係のほうがより重要な意味を持っている。

仮に、途上国通貨の下落が既定路線と見なされれば、例によってG7の金融プレーヤー、ヘッジファンド等が売り仕掛けに出るだろうか。

しかしそうなれば、これらの通貨は「危機を乗り切る」という大義の下、ペッグもとを人民元へと切替えるかも知れない。

小さな「通貨切下げ」と、そこから広がる大きな衝撃

昨年夏の人民元の切下げは、これまでの日米のそれとは全く異なる次元の効果をもたらすことが予想される。その小さな数値以上に、中国当局は後に世界に広がる大きな「波及効果」を狙った可能性がある。

中国は、既に世界最大の通商国および、貿易相手国の地位を取り戻している。ゆえに、人民元が下落すれば、他国通貨も呼応し下落することを当局は知っているはずである。

BRICSや途上国通貨へと波及することで、G7通貨には上昇圧力がかかる。既に「最終兵器」とされる中銀カードを切っているG7には次に打つ手がない

さらに途上国通貨の下落は、「通貨防衛」の名目で米国債売りを伴う。ここに今回の、中国の真の狙いがあるのではないか。

昨年6月、中国株の下落から始まった世界の金融市場の一連の動きは、G7が切った中銀カードが「期限を迎えていることを市場が悟り始めていると言える。

中国の米国債保有量の減少を、G7経済は警鐘と捉えるべきである。資本流出といった本質を隠す「標語」に惑わされるべきでない。

「開かれたG7」を待つ中国

米国経済、そして国家そのものの最大の支えは、準備通貨の特権、「無限の借金」に他ならない。ひとたび、世界がこれをやめようとなれば全てが逆回転する。

中国が号令をかけるわけではないが、最大保有国がその保有量を減らすことで世界が呼応し、米国債売りが加速する可能性も否めない。

日米財政の根幹となる米国債の価値が下がり続ければ、日本においては外貨準備が急速に目減りし、国力そのものが根底から揺らぐ

しかし一方で、中国も米国景気の健全性を支持する環境にある。

米国が大きく揺らぐことは、今も発展途上にある中国経済の重要な「喚起役」が勢いを失うことにつながる。中国が世界秩序の急激な変化を望む理由はなく、ましてや米中戦争など到底あり得ない

実情は、金融市場、株価維持に振り回されるG7の国家運営が、中国にまたとない機会を与えているということである。

これまでG7が阻んできた中国の世界秩序への進出、「責任」ある形での金融秩序へ参加が、その粘り強い交渉を経てようやく実りを得ていることを見れば、多くのことが中国本位に動いていることが伺える。

昨年、世界が支持したAIIB、完全な自由化がないままの人民元のSDR入りなどはまさにその象徴である。中国はこの機を捉え、今後とも世界秩序への責任ある参加を「必要な分だけ」順次拡大させていく狙いでいる。

脱ドルペッグと通貨バスケットへの連動

昨年、中国人民銀行は脱ドルペッグの意向を公にし、その後、明確な表明なしに通貨バスケットへの連動に切り替えたようである。

金融危機以降も、人民元は、対通貨バスケットでは一貫して上昇している。「通貨安戦争」には目もくれず、より多くの通貨に連動させることでの「信頼獲得」を目指していることが伺える。

この先もし、米ドルが世界準備通貨という特権を失えば、史上最大の借金大国という現実に直面し、ドルと米債は非常に高いレベルの投機的水準にあることが取り沙汰される。

投機的水準にある米ドルと米債から人民元を切り離すことで(ペッグを大幅に緩和することで)、それへの準備を今から進めていると捉えることもできる。

米ドル、米債を売って金保有を積み上げ、SWIFTに代わる(または補完する)システムの構築を目指していることなどはその表れだろうか。

当然、これを見越したマーケットは先回りする。昨年、年央からの金融市場の不安定な動きに対し、日米メディアは中国景気の減速資本流出を強調しているが、これは批判と言うよりはむしろ、悲鳴に聞こえはしないか。

グローバル時代、誰かが勝者となることはない。一国の身勝手な政策が周囲を疲弊させ、結局はそれが自らに跳ね返るという現実がある。それをみなで繰り返しも出口は見つからない。

我々が進む道は、「協調以外にないのである。

関連ページ:世界は今、「人民元」をドル円に並ぶ主要通貨にしようとしている

image by: image by: Wikimedia Commons

 

グローバル時代、こんな見方も…
グローバル時代、必要なのは広く正しい世界観。そんな視点に立って私なりに見た今の日本の問題点を、日本らしさの復活を願い、滞在先の豪州より発していきたいと思います。
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