簿記の二大トップ資格、公認会計士と税理士。それぞれの存在は知っているけど、具体的にどう違うの?試験の難易度は?お給料は?独立のしやすさは?そんな疑問、今日で解消しましょう。『六本木の公認会計士いきぬき(生き抜き)』では、そのあたりをやさしく詳しく解説していますよ。
今こそ簿記の上位資格「税理士vs公認会計士」にきちんと答えよう
ライフワークでインターンシップ大学生の指導もすることがあります。
都内を中心に、こうした大学生をベンチャー企業やNPOに派遣する人たちがいて、ちょっと協力してみたいと思ったことから、真面目で気持ちのいい大学生に少しの給金ではたらいていただきました。
今どきの学生は真面目で、自発的に簿記2級までの勉強をしているようで、これを活かした仕事に就きたいと考えているようでした。
例により、簿記講座を受けている学校からは、上位資格にチャレンジすることを勧められているようで、僕に聞いてきました。
彼「太郎さん、会計士や税理士の資格を取るために勉強をする選択肢ってどう思いますか。就職も含めて進路に迷います」
会計士と税理士の難易度はどうか。僕から見て彼は会計士と税理士のどちらに向いているのか。そんなことを次々に聞いてきます。
今回は、親身になり彼に話した内容を書きました(読者の多くは既に会計士の勉強をしていたり、合格していたりするのだろうけれど、もしも身近に彼と同じように情報を欲しがっている人がいたら、今回のメールを転送してあげてくださいね)。
「質と量」で言われる資格試験の難易度の実際
試験でいえば公認会計士は複数科目の同時勉強が必要な上、主な受験生が大学生と受験に専念している無職の20代となります。
一方で、税理士試験は会計事務所や中小企業に勤務している職員社員が中心で、数科目ずつ合格していき簿記・財務諸表論と法人税・所得税の選択必須科目を含む5科目を集めてゴールとなります。
このことから、受験予備校では「公認会計士は短距離走、税理士はマラソン」と説明されます。
公認会計士は効率的な勉強法や自己管理能力それにセンスでしょうが、税理士は近道はないので地道な努力の試験なんだと思います。
ここ数年、公認会計士試験の難易度は変動しました。一方で、税理士試験は粛々と実施されており、このことから一部では「もはや税理士試験の難易度は公認会計士試験よりも高い」ということも言われました。
なお、一部とは税理士会(税理士試験合格者)の一部です。対して、JICPAの内部では「税理士は公認会計士の下位資格」という意識を誰しもが抱いている雰囲気です。
タイトル出ししといてなんだけど、実際のところ、どちらが難易度が高いのかを論じるのは不毛なことだと僕は思っています。
既に合格して資格をもって仕事をしている人にとっては、自身のプライドを満足させるだけのポジショントークに過ぎないのかと。
実はここだけの話、独立直前に僕は大原で相続税法のテキストを購入して勉強して受験してみました。…歯が立たずに落ちました 笑
計算問題はともかく、税法や通達の暗記は常にショートカットしてしまう時間がない実務家には難しく、「こんなの一言一句覚えても国税庁のHPに載ってんし…」という邪心が心層から抜けずに勉強にならなかったんですね。
質の難易度は公認会計士が上、量の難易度は税理士が上。
僕には税理士試験よりも公認会計士試験の方が簡単だった。ただ、それは僕が経済学のようなセンスで差が付きやすい科目を短時間に高得点がとれる人間だったから。
これが結論でいいんじゃないかな。
>>次ページ 公認会計士と税理士はお互いの業務を舐めている!?
「公認会計士は税理士よりも格上」が通じる世界と通じない世界
監査法人や、公認会計士が転職していくコンサル・金融・上場企業、それからMARCH以上の大卒が多数就職する大企業では、公認会計士の知名度は高くて、税理士との違いを質問してくる人は少ないでしょう。
ところが地方経済圏や中小企業の世界、それから有名大卒があまり入社してこないようなサービス業や職人が中心の職場では、両者の違いは一般的に分からない。
そのため、独立したり、人脈を広げようとして地域コミュニティーに入っていくと「公認会計士さんって何をしている人なんですか」と何度も聞かれることになる。
監査の仕事内容や派生するアドバイザリー業務の内容なんて、彼らにはちんぷんかんぷんで理解してもらえない。
特に地方や中小企業では、会計事務所の職員を「経理士」や「会計士」という呼称で呼んでいることがあり、単に「会計士」と紹介すると、税理士に雇われていると思い込むおばちゃんや親父さんに出くわして面倒くさいもんだ。
そのため、多くの公認会計士が地域コミュニティーにおりていくと、説明するのが面倒臭くなり自分のことを「税理士」と言っておくようになってきます。
これが実態です。
公認会計士は税務を舐めているし税理士は会計を舐めている
会計士試験や修了考査で学ぶ税法は計算構造の理解に配点が偏っており、これは監査の税金科目を見る際の申告書の計算調べも同じです。
中小企業の税務は簡単で、申告書作成ソフトの力を借りれば、監査法人で3年程度の実務経験がある公認会計士は1年で実務が出来るようになるし、その水準で報酬も貰えます。
しかし、顧問をいくつか抱えてくると、細かい税務について、通達はおろか判例にまで当たらなければならない事例も出てくるので、会計事務所の実務経験が少ない公認会計士は対応が遅くなる。
計算の仕組みが分かっている程度の理解で、税務は語れず、奥深く面白い分野です。そのうえ、税務は間違いが会社の現金支出にダイレクトに結びつくような緊張感の高い業務であることを忘れてはならないのです。
監査法人でたくさんの基準を実際に議論して身に付けてきたであろうけど、同じ数だけ通達や判例があると思っていい。税務をやるなら一からまた謙虚に勉強を始めなければなりません。
一方で、連結やファイナンスの理解を必要とするような今日びの会計について、税理士一般は、付け焼刃の勉強で自分でもできると思っている傾向があります。特に試験組の若手さん。
確かに試験に出題があるなしは関係なく、連結やファイナンスの勉強はできる。しかし、大手監査法人や上場経理で経験していない。これが大きいのです。
中小や零細企業の経理指導や会計ソフトの入力などを会計業務としてきてその延長線上に「会計・監査」を位置付ける税理士は仕訳や表示を議論する現場を知りません。
そこで多くの地場の公認会計士がそうした仕事を持っていても、普通は税理士をアサインしたいとは思わないのです。
監査六法や基準書のことを理解していないし、それによる監査への説明責任、なによりも重要性の概念感が共有できない。
公認会計士も税理士もプロになれば試験で出題される内容はもちろん、経験できる環境があり道が開けているかどうかが一番の問題で、お互いに経験がない分野については慎重な態度をもった方がいいのです。
勤務編:年収水準や勤務形態の違いを整理
なるべく冗長にならないように、僕が彼に説明してあげたことを書いてみましょう。
10年後:税理士500万、公認会計士1000万がひとつの目安
彼「太郎さんネットで収入みると公認会計士と税理士が一緒になってることがありますけど、やっぱり公認会計士の方が高収入ですか?」
太郎「独立したりすると幅があるけど、独立しないで勤務しないなら公認会計士の方が収入はあるよ。」
彼「はい」
太郎「税理士をとる場合は長期間の受験になるから、受験を応援してくれるうちみたいな会計事務所で勤務で、合格して転職するにしても中小の事務所だね。」
彼「税理士法人ですよね。会計士は合格後に監査法人に入りますよね」
太郎「そう、ただ大切なのは就職してから10年後の30代半ばくらいの働き盛りの年収だろうね。会計士は多分1000万円前後で、税理士は500万円からだと思う」
彼「え!? 税理士ってそんなに低いんですか?」
太郎「中小零細会計事務所の所長は押しなべてケチだし事務員給与の予算水準は顧問料から逆算して決まっているからね。特殊な税理士法人やコンサル会社はもうちょっとよくて儲かっていればマネージャーで800万円くらいじゃない。」
彼「それに対して会計士は高給取りなんですね」
太郎「会計士を採る大手監査法人も転職先も『一流企業』の給与水準がベースだから。扱う数字の桁も全然違ってて、作る表も大抵はミリオン単位で、ビッグクライアントの連結だとビリオン単位も良くあるよ。」
彼「責任が重い資格なんですね。憧れちゃいます。」
資格よりも給与の依拠する経済圏がローカルなのかグローバルなのかが違う
太郎「税理士でも大手監査法人系の税理士法人の偉い人(パートナー)は監査法人のそれより高くて年収2000万円超のプレーヤーも多い。それに、英語が不自由なく使える税理士の中には、外資をクライアントにする事務所や外資系企業に勤務してで1000万円以上の年収も普通だよ」
彼「へー、どんな仕事なんですか。やっぱ英語は必須っすか?」
太郎「大手税理士法人は全部監査法人系列で、大企業の税務やM&A税務や国際税務などの特殊分野、それに外資企業・外国人富裕層の申告なんかをしているんだ。
報酬が高い理由の一つに、プロフェッショナルの報酬相場が海外の方が高いことがある。
比較対象が欧米やヨーロピアンじゃなくて、アジアや発展途上国であっても、経験10年くらいのマネージャークラスの相場は日本が一番安い。」
彼「ということは、会計士の方が年収が高いのもそういうことですか」
太郎「今は会計士の方が英語ができる人が多いし、そういう要素もある。お前も英語はちゃんと勉強しとけよ」
彼「てゆーか、太郎さんもTOEICのテキストが棚にあるじゃないですか。まだ勉強してんすか 笑」
太郎「まーな。ただ、公認会計士の給与のグローバル比較でいえば、入社数年のジュニアスタッフ職の年収は日本の監査法人が高すぎると言われているんだ。」
>>次ページ 公認会計士で監査法人出身だけどこんなにイケてない人も
下層の底が抜けて国際的な重力に堕ちていっているのは公認会計士も一緒
古巣の監査法人の卒業生の中で「イケてない面々」の情報も提供します。
中小税理士法人のマネージャー、会計事務所のスタッフ、中小監査法人の非常勤パート、ベンチャー企業の経理マネージャー、証券会社子会社の経理職という名刺。
すべて僕の先輩で、元監査法人シニアですが一同に共通しているのは英語やファイナンスといった国境を超えるスキルを持っておらず、ローカル経済圏を基盤にするドメ職だということ。
多分年収もかつてより大分低いでしょう。公認会計士と雖も資格に給与が付いてくるわけではないのです。
単に、グローバルなプロフェッショナルのマネージャーになりやすいのが、相対的に税理士より公認会計士というだけのことかもしれませんね。
会計事務所と監査法人の違い
彼「ただ、大企業って上下関係が厳しいし年功序列ってイメージです。監査法人もそうなんですよね? ネットで見ました。」
太郎「そう。逆に、うちらの会計事務所って友達っぽい感じでいろんな人とおしゃべりしてやってるでしょ。」
彼「たしかに経営者的な視点も早くから身に付けられそうで、そういった意味でも税理士は独立に向いているってことなんでしょうね。」
太郎「年収も福利厚生も大企業ベースの監査法人がいいのは当たり前。その代償として大企業病に付き合うことになる。」
彼「上司をヨイショしたり、官僚的になってリスクを避けるようになる」
太郎「そうそう。あと監査法人では仕事が楽しいという人はほとんど居ないけど、会計事務所ではたらく税理士は仕事が楽しいという人が沢山いるよ。」
彼「なるほど」
太郎「だけど給料に満足している人は皆無。そういう訳で、ほとんどの試験に合格して勤めている税理士も、いつかは独立か、そうでなくても所長から事務所を引き継ぐ気概で仕事をしているんだ」
『六本木の公認会計士いきぬき(生き抜き)』 182号より一部抜粋
【182号の目次】
1.今こそ簿記の上位資格「税理士Vs公認会計士」にきちんと答えよう
■「質と量」で言われる資格試験の難易度の実際
■「公認会計士は税理士よりも格上」が通じる世界と通じない世界
■公認会計士は税務を舐めているし税理士は会計を舐めている
2.勤務編:年収水準や勤務形態の違いを整理
■10年後:税理士500万、公認会計士1000万がひとつの目安
■資格よりも給与の依拠する経済圏がローカルなのかグローバルなのかが違う
■会計事務所と監査法人の違い
3.独立編:「独立するなら税理士」は今でもそうなの?
■公認会計士は独立したらほとんど税理士である
■資格よりも報酬の依拠する経済圏が大都市圏なのか地方かで違う
■「フリーランス」や「ノマド」という独立形態の誕生
4.将来編:業際争いやテクノロジーと税理士・会計士
■「公認会計士は将来税務ができなくなる」可能性はゼロ
■クラウド会計とイーオーディット
著者/JoJoの奇妙な公認会計士
事業会社、ベンチャー企業を経て大手監査法人へ。採用担当やIPO担当、大企業の主査業務を経験後にアドバイザリーチームに移籍。さまざまな業界とつながりを持つ著者のメルマガは具体的ですぐに使えるビジネスヒントに満ち溢れている。
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