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売れない訳だ。大手旅行誌の元編集長が暴露する出版不況「負の連鎖」

スマホやネットが普及した現在、紙の雑誌は軒並み発行部数が落ち込んでいます。「雑誌が売れなくなった」と言われて久しいですが、全国の宿や温泉の情報を網羅した旅行雑誌も例外ではありません。なぜ旅行雑誌は売れなくなってしまったのか、かつて全国誌「旅行読売」の編集長をつとめた、メルマガ『『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』の著者である飯塚さんが、その原因と裏事情を暴露しています。

旅行雑誌のウラ読み術

これは『温泉批評』の創刊号に書いたネタなのだが、誌面の関係でカットした部分もあるので、最初に書いたオリジナル原稿に加筆してご紹介しよう。

第1回目は「旅行雑誌の取材の現状」について書きたいと思う。

まず、出版業界の現状を考えてみたい。

現在、ネット情報の発達などもあって、情報誌は軒並み販売部数を落としている。 これは情報誌に限らず、出版物のすべてが売れないという状況が、もうずいぶん長い間続いている。 実はこのことが、紹介記事の質を落とす要因の一つになっているのは間違いない。

出版社としては、雑誌が売れなければ、制作予算を削って利益を確保しようと考える。 人件費も削らないといけないから、編集や取材に携わる人数も減る。予算がなければ現地取材に行くことが難しくなるし、社内の記者が少なければ外部スタッフに撮影から執筆までの一切を外注することが多くなる。

僕も外部スタッフの一員だから、仕事が増えることはうれしいことではある。問題はそれによって版元編集部員の能力=「外注スタッフの原稿をチェックする能力」が、低下している傾向がある、ということだ。 それはなぜなのか。

雑誌の編集にかける予算が減って編集部員が減れば、外注の原稿まとめ作業に時間をとられて、部員本人が現地へ行くことができなくなってくる。

自分で行ったこともない温泉地の原稿を、外部スタッフが書いてきたとして、現地を知らないから、仮に原稿に間違いがあっても編集者は気が付かない。

結果として、間違った原稿が雑誌に載る。 記事に間違いが増えれば、雑誌の信頼性は揺らぎ、その雑誌は売れなくなる。

編集者は自分でチェックできないから、先方校正をして間違いのリスクを減らす。 時と場合、そしてライターによっては、自分の取材したことから少々はずれていても、先方(宿など)の言われた通りに直す。

取材したことと違う情報が載るということは、これまた間違った記事を掲載することにもつながる。そしてまた雑誌は売れなくなる

売れなければ制作費が減って、きちんとした取材ができなくなる。

ヒヨコか卵か、という気がしないでもないが、まったくの悪循環である。

業界全体が前述のような状況におかれているから、外部スタッフを有効に使わないと雑誌自体を作ることすらできなくなってきている、というのが現在の状況である。

その外部スタッフには、いわゆる旅行ライターや温泉ライター、カメラマン、編集プロダクションなどがあるわけだが、最近では編集部が企画したテーマに沿って、温泉施設などの情報を調査し、施設をピックアップすることを専門に任されるスタッフも存在する。

たとえば旅行雑誌などで、編集部が「ニューオープン&リニューアルオープンの宿」という特集企画を考えたとしよう。

すると、雑誌発行の2~3か月前くらいにピックアップ専門スタッフに依頼して、全国の温泉宿を洗い出してリストアップするわけである。

もちろん選ぶのは温泉宿や施設だけではない。 味の店や、見どころ、史跡、特別公開情報、イベントなどがあり、スタッフそれぞれに得意分野がある。そして、こうしたスタッフがピックアップしたリストをもとに、編集部内で会議がおこなわれて、最終的に紹介する施設を決める、というのが、昨今では多くなってきているようだ。

ここ数年来の経済状況で、宿も店も倒産や閉鎖、新規オープンが相次ぎ、めまぐるしく温泉地の様相も変わっている。 人員削減で人数が減った編集部員だけでは、すべてを把握することは確かに難しいとは思う。

だが旅行雑誌の生命線は、第一にこの“紹介施設探し”にあるといっていい。大きく紹介するに足る魅力的な施設さえ決まれば、あとは実際に訪ねて、ルポ記事を書けばいいだけだ。

原稿の上手下手はあるだろうが、宿や施設に真の魅力があれば、事実だけを積み重ねても興味深い記事になるものである。

こう考えていくと、紹介施設のピックアップ能力が高い編集部員、あるいはそうした能力のある外部スタッフを抱えている編集部というのが、魅力的な雑誌を創り出せる、ということになる。

時代が違うといえばそれまでだが、僕が旅行雑誌の編集部にいるときには、この施設ピックアップ作業を、編集部の全員で手分けして行っていた。

温泉宿特集の場合は、北海道&東北、関東&甲信越などのエリア別に担当を決める場合もあるし、料理自慢の宿、露天風呂自慢の宿などのテーマごとに担当をわける場合もあった。

僕が勤めていたのは全国誌の編集部だったから、当然ながら、全国の施設を網羅しなければならない。 これには、想像を絶する手間がかかった。 会議前の数日は、朝から終電までずっと電話にかじりついているという感じだった。

当時はネットもさほど普及しておらず(速度が遅くて使えないのだ)、全国の温泉旅館を網羅したガイドブック(一覧表程度の情報しか載っていなかった)を元に、片っ端から電話をして、なんとかテーマに沿った宿を見つけようと喉をからして調査をしていたものだ。

こうして施設セレクトを編集部がおこなうメリットは、調査を繰り返すに従って、編集部員の知識が蓄積されていくというところにある。

大きく紹介しようと考えた施設には、微に入り細に穿った電話取材をして、取材に行かなくても記事が書けるくらいまで調べあげたものだった。

そうした知識の蓄積がある上で、現地取材で宿を訪ねたときに、電話取材で得ていた知識と、自分の目で見た実態との“微妙な差”に気付くようになる。気が付けば、その情報を記事に書くことを考える。

結果として“行った人間にしかわからない情報が記事になるわけである。

この“生の情報”がふんだんに盛り込まれているものが良い記事であり、読者の共感を呼び、旅をした気分に誘ってくれる記事であると思っている。

そう考えていくと、よい雑誌、よい情報が載った雑誌を作るには、編集部員自らが紹介施設を調査し、実際に取材に行き、記事を書くということが重要なのだ。

だが、先に書いた通り、そういった理想的な誌面作りをおこなっている編集部というのは、少なくとも僕が版元に在籍していたころより確実に減っている

そこで次号では、温泉の紹介記事を読むときに、どんなことに注意すればいいのか、どういった表現には気を付けなければならないのか、ということを僕自身の体験などを織り交ぜて紹介してみたいと思う。

もったいぶるようで恐縮だが、あんまり長いとキツイので、今回はこれまで。

image by:Shutterstock

 

『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋

著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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