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香港で中国の言論弾圧が本格化。次のターゲット・台湾はどうなる?

香港で中国の発禁書を扱う書店関係者が相次いで失踪している件に関して、中国当局が大きく関与している可能性を示す文書の存在が明らかになりました。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では「中国が香港直接支配のための実力行使に出たのでは」と分析、さらに中国は台湾での言論統制をも企んでおり、蔡英文新総統の対応が試されていると指摘しています。

【中国】中国が主張する台湾への「1国2制度」は完全に破綻

禁書「根絶」指示か 香港への当局者越境容認…英紙

中国本土で発禁となっている書籍を扱った香港の書店関係者が相次いで失踪していることは、日本のニュースなどでも大きく報じられています。まず間違いなく、中国当局者に連行されて拘束されているのでしょうが、イギリスの新聞「サンデー・タイムズ」は、中国共産党が香港と台湾を標的にしてこれらの「禁書」を根絶させることを指示していた内部文書の内容を報じました。

同紙によれば、中国共産党は「広東行動計画」という命令文書で広東省の当局に対して、隣接する香港の14の出版社と21の出版物を特定して、禁書とその出版社の取り締まり強化を命じたそうです。

「1国2制度」の香港では、香港独自の司法権が保証されていて、中国本土の公安当局者は活動できないわけですが、それを中国当局は破って介入してきたというわけです。もっとも、2014年に香港では「雨傘革命」という中国に対する大規模デモが起こりましたが、そのきっかけも、2017年の香港行政長官選挙に対して、中国政府が民主活動家の立候補を事実上不可能にしたことに反発したものであり、このときから中国が「1国2制度を破ることは明らかだったわけです。

当時のデモは香港当局によって鎮圧されましたが、今回の書店関係者の失踪が中国当局によるものだとすれば、いよいよ中国は香港直接支配のための実力行使に出たということになるのでしょう。

1997年にイギリスから香港が変換される際に、中国は「1国2制度」を50年間は維持することを確約しました。しかし、返還からわずか19年にして、習近平政権はこの約束を破ろうとしています。もっとも、中国といくら約束をしても、いつも反故にされるというのは、これまでの歴史が物語っています。日本が踏み倒された西原借款しかり、日中戦争の停戦合意しかり、です。中国側が一方的に相手国との条約や協定を破ることは、「革命外交」として、中国では正当化されているのです。

加えて、中国が「1つ」になって以降、禁書焚書は国家生存に欠かせない条件となっています。具体的には、秦の始皇帝の統一以降、「焚書坑儒」「儒家独尊」「文字獄」が歴代王朝の風物詩となり、生存条件のひとつとなってきました。

2,000年以上前から、王朝や政府認可の書籍、論文、詩、文字については使用禁止とされており、また、言論弾圧である「文字獄」では、たった1文字から数文字を書いたことで牢屋に入れられるケースが多かったのです。それがいわゆる中華の文化伝統でした。

現在、取り締まりの対象であり、中国本土で禁書となっている本に、「中国教父 習近平」という香港のベストセラーがあります。これは余傑という著者が書いたもので、毛沢東主義に走る習近平をヒトラーになぞらえて、「いずれ破滅の道をたどる」と記述しているそうです。

発禁のヒット本 ヒトラーら独裁者と習近平の同じ末路を予言

著者の余傑氏はすでにアメリカへ亡命していますが、この本の版権を獲得した香港の出版社の社長は深センで失踪しました。そして、その後、中国当局からの発表があり、密輸罪によって懲役10年になっています。

<中国は今!>香港で発禁本扱う書店幹部4人が行方不明、中国共産党が圧力?

このように香港では大陸の取り締まりの手が伸びてきており、自由な言論活動が規制され始めています。昨年12月には、中国のアリババグループが香港の「サウスチャイナ・モーニングポスト」を買収しましたが、その裏には中国政府の意向があり、報道内容が中国寄りに操作される懸念も囁かれています。

中国アリババ、香港英字紙を買収 報道内容の影響懸念も

一方で、香港の言論界を代替する役割としての台湾の存在が大きくなってきています。台湾では、中国の「禁書」の売り上げが5倍に伸びており、買い手の多くが中国人観光客だということです。

中国人観光客に意外な売れ筋アイテム、「禁書」の売り上げが5倍に―台湾

冒頭に述べたように、中国は台湾での言論統制にも乗り出すことを企んでいます。馬英九政権時代には、旺旺(ワンワン)グループのような親中派の台湾企業による台湾メディアの買収が相次ぎました。また、東森テレビをはじめ、台湾メディアを買収しようとする中国企業の動きも活発でした。これらに対して、台湾国内では大きな懸念と反発を招いてきました。

そもそも台湾でも戦後、長きにわたり言論弾圧が行われてきました。いちばん有名なのは、柏楊(ポーヤン)氏が漢訳したマンガ「ポパイ」の1コマで、蒋介石を風刺したとして逮捕、国家元首侮辱罪として死刑を求刑されたこともありました。

こうしたことは、中国共産党や国民党だからではなく、中国人である以上、「世の中はすべて1つしか許されない」という文化伝統なのです。禁書、禁演、禁唱は中国人の人生そのものなのです。中国のネットでも「独立」をはじめ、検索が禁じられているキーワードは山ほどあります。

台湾では李登輝総統時代の1996年から総統選挙が国民投票によって行われるようになり、それにともない国民の「台湾人意識」が強まっていきました。今年1月16日の国政選挙で民進党が大勝したのは、これまで不正選挙や賄賂汚職などあらゆる悪事に手を染めてきた国民党を民衆が見放したからです。

そして、総統選挙に勝利した蔡英文は、台湾の自由と民主主義を訴える選挙戦を行い、当選後には「台湾すなわち民主主義であり、民主主義すなわち台湾である」と述べました。中国が言論弾圧を強めるなかで、彼女の総統就任は、非常に大きな意味を持ちます。

香港の「雨傘革命」は台湾の「ひまわり学生運動」に触発されたものでしたが、台湾の蔡英文総統誕生は、中国による香港の支配強化を見た台湾人の危機意識によるものだったとも言えます。

馬英九路線を継続していれば、早晩、台湾も香港と同じ状況に陥っていたことでしょう。しかし、これに対して台湾人はNOを突きつけたのであり、中国による台湾の言論支配は失敗に終わるでしょうし、そうさせなければなりません。

重要なのは、このことは台湾一国のことだけに留まらないことです。香港での言論規制が強まるなかで、台湾は中国語圏で唯一、民主主義と言論の自由を守り、勝ち取ったということでもあるからです。だからこそ中国人が台湾で「禁書」を買い求めるわけです。

つまり台湾は、中国語圏で残された唯一の希望だとも言えるのです。加えて、蔡英文が今後の台湾をどのように作りなおすのかということは、対中国や対アジアのみならず、独裁国家に対して民主主義国がどのように対峙していくのかという、世界的・普遍的な問題でもあり、そのモデルケースでもあるのです。

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黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』より一部抜粋

著者/黄文雄
台湾出身の評論家・黄文雄が、歪められた日本の歴史を正し、中国・韓国・台湾などアジアの最新情報を解説。歴史を見る目が変われば、いま日本周辺で何が起きているかがわかる!
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