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狙いは中国「孤立化」か。米国が、宿敵・キューバと和解した意味

先日、現職の米国大統領として88年ぶりにキューバを訪問し、両国の関係改善を呼びかけたオバマ大統領。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、アメリカがこのタイミングでキューバとの和解を申し出たのは、現在一番の敵国である中国を孤立させるためであると分析しています。

オバマのキューバ訪問とアメリカの大戦略

オバマ大統領は20日、キューバを訪問しました。アメリカ大統領(現職)のキューバ訪問は、なんと88年ぶりだそうです。

<米キューバ首脳会談>共同声明で関係正常化継続を確認へ

毎日新聞 3月22日(火)0時57分配信

 

【ハバナ和田浩明】オバマ米大統領は20日、現職の米大統領として88年ぶりにキューバを訪問した。

 

半世紀以上断交状態にあった両国が、2014年12月に関係正常化方針を発表してから約15カ月。

 

オバマ氏は、社会主義国として米国と対立したかつての「敵国」への歴史的訪問によって、両国関係の発展にかける強い意欲を内外に示した。

この訪問について、「任期が終わりに近づいたオバマが、外交で実績を残すためにやっている。戦略的意味はない」といった話を聞きます。私は、「そうではなく、きちんとした大戦略に沿ってやっている。アメリカは、ようやくまともなリアリズム外交になってきた」と思っています。なぜでしょうか?

キューバとは?

まず、キューバについて、基本的なことをおさえておきましょう。キューバは、アメリカのすぐ南西にある、カリブ海の島国。アメリカ・フロリダ州からわずか145キロしか離れておらず、地政学的にとても重要な位置にあります。

1511年、スペインに征服され植民地になりました。日本で明治維新が起こった1868年、第1次キューバ独立戦争が起こっています。1895年、第2次キューバ独立戦争が勃発。当初は、スペイン対キューバの戦いだった。しかし、アメリカがこれに介入しスペイン軍を打倒。キューバは1902年、独立を達成。とはいえ、それは名ばかりで、実態は「アメリカの保護国」でした。

1959年、キューバ革命。キューバは、真の独立を達成しました。「アメリカ支配からの独立」を達成したのですから、当然、新政権は「反米」でした。革命を主導したカストロは、共産主義的改革を次々を実施していきます。そして、共産主義のボス・ソ連との関係を強化していきました。

1961年、アメリカ政府はキューバとの国交を断絶。1962年、キューバ危機。これは、ソ連がキューバにミサイル基地を建設し、ミサイルを運びこもうとしたのがバレた事件。既述のように、キューバとアメリカは145キロしか離れていません。そんな場所に、ミサイル(特に核ミサイル)が運び込まれた日にゃあ。この危機で、「米ソは核戦争一歩手前までいった」といわれています。

危機後、キューバは、ソ連の支援を得て、体制を存続させてきました。しかし、1991年末、ソ連が崩壊した。これでキューバ経済は大きな打撃を受け、ジリ貧状態になってしまいます。

革命を主導したフィデル・カストロは08年、国家評議会議長を引退。弟のラウル・カストロが後を継ぎます。フィデルは引退後も、「反米のシンボル」として、人気を保っています。

というわけで、建国後「反米国家」をアイデンティティーにしてきた共産国家キューバ。そんなキューバと宿敵アメリカが和解に動いている。これは何なのでしょうか?

世界の反米諸国と和解するアメリカ

08年9月、「リーマン・ショック」から「100年に1度の大不況」がはじまりました。これで、「アメリカ一極時代」は終わり、「米中二極時代」がはじまります。「二極」といいますが、アメリカは沈み、中国は昇っていきました。

オバマは2011年11月、「戦略の重点をアジアに移す!」と宣言します。理由は中国の台頭です。「シェール革命」で資源たっぷり「中東」の重要度が下がったことは、「アジアシフト」を可能にする大きな要因でした。

とはいえ、この大戦略変更は、スムーズに実現したわけではありません。2011年、中東の反米国家シリアで内戦が勃発した。アメリカは、反米アサド政権を打倒するために、「反アサド派を支援した。

2014年3月、ロシアがクリミアを併合。ウクライナは内戦状態になり、アメリカは親米反ロ新政権を支援。ロシアは、東部親ロシア派を支援し、ウクライナは「米ロ代理戦争状態」になりました。

しかし、オバマは、徐々にですが「大戦略」と「実際の言動」を一致させるようになってきました。

2015年2月、ロシア、ウクライナ、ドイツ、フランス首脳は、「ウクライナ内戦」の「停戦」で合意。この停戦は、今にいたるまでつづいています。2015年3月、「AIIB事件」。日本以外の親米諸国を含む57か国が、中国主導「AIIB」への参加を決めた。このことは、アメリカを「本気」にさせます。2015年7月、アメリカ(+5か国)は、イランと「核問題」で「最終合意」に達したと宣言。2016年1月、イラン制裁は解除されました。2016年2月、アメリカとロシアは、「シリア停戦で合意。永遠につづくかと思われたシリア内戦に、脆いながらも平和が訪れています。

そして、アメリカとロシア。2015年3月の「AIIB事件」以降、米ロ関係は、非常にゆっくりですが改善されつつあります。実際、両国は協力して、イラン問題、シリア問題を解決した。そして、ケリー国務長官とロシアのラブロフ外相は、つきあいはじめた彼氏、彼女ぐらいの頻度で会い、電話し、世界情勢に関する意見を交換しています。

そして、中南米反米の砦キューバ。2014年12月、アメリカとキューバは、「国交正常化交渉開始」を宣言。2015年4月、59年ぶりのアメリカ、キューバ首脳会談。2015年7月、アメリカとキューバ、国交回復。そして2016年3月20日、オバマ、キューバを訪問。

アメリカの大戦略は、「中国孤立化」

こう見ると、アメリカ外交の変化と流れがはっきり見えてきます。東欧を見ると、ウクライナ問題を解決し、ロシアと和解した。中東を見ると、イラン問題、シリア問題を解決した。中南米を見ると、キューバと和解した。これは、一体なんなのでしょうか?

米中覇権争奪戦」が起こっているということです。アメリカは、「世界中の反米国家」と和解していますが、覇権に挑戦している中国とだけは和解していないのです(中国の支援をうけて存続している北朝鮮とも和解していない)。なぜ、中国以外の反米国家と和解するのでしょうか?

1つは、ロシア、シリア(アサド)、イラン、中国と同時に戦うと、力が分散するからです。戦うなら、敵国を一国にしパワーを集中させて取り組んだほうがいい。

もう1つは、戦争(戦闘)の前に、「孤立化戦争」が行われるということです。日本の歴史を振り返ってみましょう。1933年、日本は、満州国問題でもめ、国際連盟を脱退。この時点で、世界的に孤立していました。1937年、日中戦争がはじまった。中国は、アメリカ、イギリス、ソ連から支援を受けていた。こんなもん、勝てるはずがありません。

日本はなぜ負けたのでしょうか? 人によって答えはいろいろだと思いますが、私は「孤立したから負けた」あるいは、「孤立させられたから負けた」と答えます。そう、「孤立したら負ける」のです。それで米中は、「孤立化戦争」をしています。

2015年3月に「AIIB事件」が起こった時点で、明らかに中国が優勢でした。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国など親米国家群がアメリカを裏切ったのをみれば、誰も否定できません。中国は、「チャイナマネー」をもって、世界の国々を懐柔していた。

それでアメリカは、「経済情報戦を開始し1年間で中国経済をボロボロにしました。「AIIB事件」が起こった頃、世界では、「中国経済の成長は鈍化しているが、まだまだけん引役」という論調が圧倒的に多かった。ところが「AIIB事件」後は、毎日毎日「中国経済、もうだめだ!」「ハードランディングは避けられない」など、ネガティブな報道一色になっています。情報は、事実であることが多い。しかし、情報が事実をつくることもあるのです(例、日経が「A社はヤバい!」と書けば、必ず株は下がる)。

アメリカは、こうして中国の武器「チャイナマネー」を奪った。そして、「反米の砦」キューバを懐柔し、中南米取り込みに動いていく。アメリカがキューバとの和解に動いているのは、「中国に対抗するため」なのです。

日本は、「米中覇権争奪戦が行われている」ことを1日も忘れることなく、用心深く動いていく必要があります。

日本は、世界から「孤立」して負けました。ですから、「孤立する行動」は、慎重に避けていく必要があります。どうすれば「孤立」を避けることができるのでしょうか? これは簡単で、「これをやると孤立するだろうか?」と自問してみればいい。個人でもそうですが、我欲に支配されると孤立することになります。

 

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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