安倍政権は倒れるのか。共産党の英断で自公過半数割れの悪夢

 

市民的エネルギーの持続性とその意味を示す最近の出来事の1つは「保育所落ちた、日本死ね!」事件である。一女性の匿名ブログがネット上で共感を呼び、すぐさま民主党の山尾志櫻里議員が質問で取り上げて安倍が素っ気ない対応を見せ、自民党議員が汚いヤジを浴びせかけると、たちまち国会デモが起きて「保育所落ちた。私もだ」の声を上げ、それから数日にして2万7,000人の署名が集まって塩崎泰久厚労相に届けられた。するとさすがの安倍もこの問題に真剣に取り組む姿勢を示さざるを得なくなった。このように、切実な訴えにネットでまず共感が広がり、それを背に国会で話題になると直ぐにデモが起きて政府が対応せざるを得なくなるというのは、15年安保闘争以前には考えられなかったことで、市民と政治との間に新しいダイナミックな回路が開かれつつあることの証左である。市民たちはその回路を用いて、15年夏の恨みを16年夏に晴らそうとしている。

オール沖縄に続いて、本土では初めてオール野党の統一候補を実現した「熊本方式」については、本誌No.825で触れたが、地元の連合と野党各党で統一候補の擁立を模索して候補者選びに入りつつあった段階で、熊本で昨年来、安保闘争を闘ってきたシールズ系の学生団体はじめ何と40もの市民団体代表が押しかけてきて統一候補擁立を要求し、それで一気に事が進んだ。そこへすかさず中央から、シールズやママの会や学者の会が結成した「市民連合」が乗り込んで、統一候補の「推薦」を発表し、激励した。

この熊本の市民たちは、今までのように投票を依頼される側ではなく依頼する側に立って、既存の政党では思いつかないような創意工夫を凝らした選挙運動を展開するだろう。それを、組織力を持つ政党や労組が裏で支えて行くという形になった場合に、一体どんなことになるのか、たぶん未体験ゾーンに突入することになる。

安倍は昨年9月の国会終了直前、「法案を(強引に)成立させても、来年夏の参院選には『もう忘れちゃいましょう』『そんなこともあったねとすることが大事だ」と側近に漏らした(15年9月9日付朝日)が、市民はそれを許さない。永田町での政党の合従連衡にかかずらうばかりの大幹部の皆さんに全く見えていないのはその未知の市民的エネルギーである。

 

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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