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安倍政権は倒れるのか。共産党の英断で自公過半数割れの悪夢

現実味を帯びてきたこの夏の衆参ダブル選挙。安倍政権は必勝を期すために消費増税を先延ばしにしたのではとも囁かれますが、その動きに対抗すべく、野党内にも共闘の機運が高まっています。メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では共産党の「大英断」が自公の過半数割れを招く可能性を、自らがまとめた資料を元に詳細に分析しています。

安倍政権に迫る「過半数割れ?」の悪夢

消費税の10%への増税を再延期してそれを口実に衆参ダブル選挙という国民攪乱戦術に打って出られないかと模索する安倍晋三首相だが、共産党の全1人区で出馬見送りも辞さずという大英断」に促されて野党の統一候補擁立の動きは予想以上の広がりを見せており、4月24日投票の北海道5区と京都3区の衆院補選でこの方式で野党が勝利するようなことになれば、一気に政局は雪崩を打ち、ダブル選挙などとんでもない、参院選で自公過半数割れを起こさないためにどうしたらいいかというてんやわんやに追い込まれていきかねない。

民維合流による「民進党」の誕生など政治的にも政局的にもほとんど何のインパクトもないのは自明で、恐らく今週行われるであろう世論調査では、これまでの民主・維新両党の支持率合計を少し上回る程度の期待感しか集められないのではないか。本誌が何度も述べてきたように、こういう切羽詰まった局面では、毛沢東『矛盾論』風に言えば、どこに「主要矛盾」があって、まず誰に主要打撃を集中して敵の包囲網を突破して、とって返して「副次矛盾」を解決するのかという戦略的な大局観とそれに基づく緻密な戦術や手順の設定が求められるが、岡田克也代表は残念ながら将の器でなく、戦略も戦術もフラフラで、とうてい野党第一党として指導性を発揮するのは無理である。

北海道5区が最初の「環」

この局面で決定的に重要なのは、まず4月の2つの衆院補選で勝って見せて、良心的な保守層まで含めて安倍政治を怒り、不快に思っている多くの国民に「おっ、野党がまとまれば安倍政権を倒すことができるんだ」という「希望」を与えることである。

とりわけ北海道5区は、今から参院選へ向かう政治の流れにとって戦術的な環の第1で、ここで民新・共産・生活・社民各党および地元の「戦争をさせない市民の会」、シールズら中央の「市民連合」が推す無所属の統一候補=池田真紀で勝つのか負けるのかによって、その先の展開は天と地ほども違ってくる。

2月には、故・町村信孝の女婿である元商社マンの自民党候補=和田義明に10ポイントほども差を付けられていたのに、3月に入って5ポイント差に縮まり、さらに最近は2~3ポイント差の「接戦」状態になってきたと言われている。特に無党派層では28:41で池田が圧倒しているという調査もあって、勝てない戦いではない

自民党は、北海道で民主と連携してきた鈴木宗男を野党陣営から引き剥がすという荒技で大地が同区で持つ数万票を取り込んだつもりでいたものの、鈴木が娘の貴子を民主党から離党させたばかりか(後に除名処分)、「日本共産党と『破壊活動防止』に関する質問主意書」を提出して政府の「警察庁としては『暴力革命の方針』に変化はないと認識している」との答弁書を引き出すという時代錯誤の猿芝居」まで演じさせたことはかえって逆効果で、「裏切り者!」といった罵声がネットで飛び交っている。

北海道5区を勝つためには、同日に行われる京都3区での勝利も確実にしなければならない。安倍チルドレン議員が不倫露見でだらしなく辞職した後の補選では、さすがに自民党は候補を立てられず、別働隊であるおおさか維新の森夏枝に、民主の比例現職=泉健太の叩き落としを託している。民主が勝つためには、ここでも不出馬を決めた共産党に積極的に働きかけて推薦・共闘を実現するのが誰が考えても筋だが、同党京都府連を握る前原誠司は幼稚な反共イデオロギー故にそれを拒んでいる

安倍が「自公VS民共の戦いだ」と言い、それを自民党幹部が「民主党は革命勢力と手を組むのか」などと解説して、古典的な反共キャンペーンに出ている中で、鈴木親子はさらに踏み込んで「共産党=暴力革命」という、マッカーシズムではあるまいし、1950年代のような反共キャンペーンのお先棒担ぎをして、北海道と京都で民進党の足を止める役目を果たしているのである。

岡田にもし戦略観があれば、前原など叩き切って京都でも民共共闘を実現して勝利を確実にし、それをテコにして北海道での接戦を有利に運び、さらに全国の野党選挙協力に弾みをつけることに全力を傾注しただろう。前原に遠慮してそうは踏み切れないのが岡田で、結果、共産党は「京都レベルでも本部レベルでも民主党から協議の申し出がなかったので、自主投票とした」と、半身の姿勢に後退してしまった。京都で組めば北海道での共産党の動きにも力が入って、両方がいい結果になる可能性があるというのに、馬鹿げたことである。

11プラス17の1人区が鍵

民主=岡田がそんな有様でも、野党選挙協力の戦略的重要性を理解している枝野幸男幹事長、辻元清美役員室長ら党内リベラル勢力の奮闘と、昨夏の「15年安保闘争」でめざましく成長した立憲民主主義の確立と安保法制廃止を熱望する市民勢力の下からの圧力とによって、各地での野党選挙協力は思いの外進展しつつある

参院選の全選挙区の立候補状況は、添付の資料を見て頂きたい。その中で、32ある1人区でどのように選挙協力が進んでいるかは、マスコミは部分的・散発的にしか報道していないし、各党に問い合わせても、日々流動している各区の情勢についてまとまった正確な情報が出て来るわけでもない。そこで本誌が専門家の協力を得て、今の時点での状況をまとめたのがこの資料である。

それによると、すでに野党各党や地元の市民団体との間で政策協定が結ばれるかまもなく結ばれるところまで到達した1人区(資料では●印)は11で、北から順に、青森、宮城、福井、山梨、長野、鳥取・島根、徳島・高知、長崎、熊本、宮崎、沖縄である。

また、大筋合意に達しているか、かなり協議が煮詰まっているところ(◎)、協議が始まっているところ(○)は17で、岩手、秋田、山形、福島、栃木、新潟、富山、石川、岐阜、三重、滋賀、奈良、和歌山、岡山、山口、大分、鹿児島である。

合わせて28で、残りの4つの1人区からもこれから動きが出て来るかもしれないが、例えば群馬のように自民党の中曽根弘文が圧倒的に強くて民主党は候補者も出せないでいたようなところが多いので、あまり可能性はない。

そこで、この●の11選挙区で野党が確実に勝てそうで、さらに◎や○の17でも少なくとも半分くらいは勝てる見込みがないわけでないという状態で7月を迎えられるかどうかである。

周知のように、自民党は今回改選数50、公明党は9で、非改選数は65、11なので、仮に前々回参院選で29の1人区のうち自民党が獲った21のなかから8~10程度を野党が獲り、それに応じて比例や複数区でも数議席減らさせて計14議席を奪ったとして、その時に公明党も複数区と比例で現状維持に止まっていたとすると、非改選と会わせた自公合計は過半数を割る。安倍政権を崩壊させるのは、それほど難しいことではないのである。

野党と市民の統一候補である

32の1人区で、野党はどのくらい勝てる可能性があるのか

第1に、基礎的な分析として、前回、前々回の各党の得票数をベースにして選挙区割りの変化その他の条件を勘案して補正するシミュレーションの方法がある。東京新聞が行った試算では、13年参院選のデータを元にした場合、共産を含む非自民勢力が一本化すると、岩手、宮城、山形、栃木、新潟、山梨、長野、三重、沖縄の9区で勝利し、また10年参院選のデータを元にすると、以上に加えて、青森、福島、岐阜、三重、滋賀、奈良、岡山、徳島・高知、大分、熊本が加わって計19区で野党が勝利する。

第2に、これが単にそのような足し算では計りきれないのは、長年唯我独尊を貫いてきた共産党が初めて他の野党と全面的な協力を行う選挙だということである。民主党の右派が心配するように、確かに共産党アレルギーは根強いものがあって、健全なる保守層が逃げていくというデメリットはあるだろうが、その保守層の大半は安倍右翼暴走路線を憂えていて、「これで流れが変わるのなら野党統一候補に入れようか」と考えるかもしれないし、また無党派層には前々から「他の野党はだらしないから、仕方ない、主張がはっきりしている共産党に入れるか」という人が少なからずいたので、むしろ安心して統一候補に入れるのではないか。

またこれは、単に共産党が「落選覚悟で候補者を立てるのはもう止めた」という消極的協力ではなくて、政策協定を結んで候補者を推薦し、陣営に加わって選挙活動の一端を担おうとする積極的協力なので、共産党持ち前の組織力が発揮される可能性がある。もちろんこれは、双方にとって「初体験」なので、やってみなければ分からないが、選挙活動をとりまとめる参謀長の手腕次第では大いなるメリットとなるのではないか。

第3に、最も重要なのは、これが野党同士の政党間駆け引きだけから生まれた共闘ではなく、安保闘争を闘った市民運動の人々が法案通過後も引き続きそのエネルギーを維持し、地元の野党に圧力をかけて統一候補の樹立を促したばかりでなく、各党と並ぶ当事者として政策協定に加わるなど、市民団体が自らの問題として選挙に取り組み始めていることである。

もちろんこれまでも、特に地元の身近な問題に取り組む環境団体や反原発運動の人たちが、町長をリコールして自分たちの主張に沿った候補者を押し立てて選挙を戦うといった例はいくらでもあるが、国政選挙において、しかも全国同時多発で、自分らが当事者となって主体的に選挙を戦うといった事態は、たぶん歴史上初めてだろう。過大評価は戒めなければならないけれども、これは、従来の「選挙予測」の手法では捉えられない大きなうねりを呼び起こす可能性を秘めているように思う。

市民的エネルギーの持続性とその意味を示す最近の出来事の1つは「保育所落ちた、日本死ね!」事件である。一女性の匿名ブログがネット上で共感を呼び、すぐさま民主党の山尾志櫻里議員が質問で取り上げて安倍が素っ気ない対応を見せ、自民党議員が汚いヤジを浴びせかけると、たちまち国会デモが起きて「保育所落ちた。私もだ」の声を上げ、それから数日にして2万7,000人の署名が集まって塩崎泰久厚労相に届けられた。するとさすがの安倍もこの問題に真剣に取り組む姿勢を示さざるを得なくなった。このように、切実な訴えにネットでまず共感が広がり、それを背に国会で話題になると直ぐにデモが起きて政府が対応せざるを得なくなるというのは、15年安保闘争以前には考えられなかったことで、市民と政治との間に新しいダイナミックな回路が開かれつつあることの証左である。市民たちはその回路を用いて、15年夏の恨みを16年夏に晴らそうとしている。

オール沖縄に続いて、本土では初めてオール野党の統一候補を実現した「熊本方式」については、本誌No.825で触れたが、地元の連合と野党各党で統一候補の擁立を模索して候補者選びに入りつつあった段階で、熊本で昨年来、安保闘争を闘ってきたシールズ系の学生団体はじめ何と40もの市民団体代表が押しかけてきて統一候補擁立を要求し、それで一気に事が進んだ。そこへすかさず中央から、シールズやママの会や学者の会が結成した「市民連合」が乗り込んで、統一候補の「推薦」を発表し、激励した。

この熊本の市民たちは、今までのように投票を依頼される側ではなく依頼する側に立って、既存の政党では思いつかないような創意工夫を凝らした選挙運動を展開するだろう。それを、組織力を持つ政党や労組が裏で支えて行くという形になった場合に、一体どんなことになるのか、たぶん未体験ゾーンに突入することになる。

安倍は昨年9月の国会終了直前、「法案を(強引に)成立させても、来年夏の参院選には『もう忘れちゃいましょう』『そんなこともあったねとすることが大事だ」と側近に漏らした(15年9月9日付朝日)が、市民はそれを許さない。永田町での政党の合従連衡にかかずらうばかりの大幹部の皆さんに全く見えていないのはその未知の市民的エネルギーである。

 

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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