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Syda Productions/shutterstock

理研の特別研究員が教えます!遺伝子診断にだまされない方法

大手企業の参入が相次ぐ遺伝子診断サービス。その精度や受けるべき際の注意点などなど、数々の疑問が浮かびますが…、理学博士で生物物理学の研究者・安井真人さんが無料メルマガ『科学日誌』の中でそのあたりのこと、すべて答えてくださってますよ。

遺伝子診断の今と今後

近年、DeNAやYahoo! などの大手企業が遺伝子診断サービスを開始しました。これらのサービスを利用することで、数万円のコストで将来かかる病気や体質などがわかります。今回はこの遺伝子診断の現在と今後について解説します。

DNAはコンピュータと似た情報保持の仕方をしている

遺伝子診断について説明するために、遺伝子情報の書かれているDNAについて説明します。

DNAとはデオキシリボ核酸(DeoxyriboNucleic Acid)という化学物質のことです。DNAはデオキシリボ核酸にアデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)という塩基がついたものからなっています。

この、A,T,C,Gの組み合わせにより情報を保持しています。AとT、CとGがくっつき頑強な二重らせん構造をとっています。

ちなみに、コンピュータも情報を0と1により、保持しています。生物はDNAのA,T,C,Gの組み合わせから情報を保持していることから、DNAはコンピュータと仕組みが似ているということができます。

DNAはとても安定した物質

遺伝情報は長期間保持されなければなりません。もし、DNAの並びが少しでも変わってしまうと、体の調子がおかしくなったり病気になります。

その典型例が、です。癌はDNAに変異が入り異常な増殖を示すことで生じます。ですから、DNAに変異をいれる放射能を受けるのはよくないというわけです。

遺伝情報を正しく保持するために、DNAはとても安定した構造になっています。DNAは切れたり変異が入ったり、構造が大きく変わるようなことが起きにくくなっています。

それでもたまにDNAの情報が変わってしまいますが、細胞内では修正用の機構が働き直すようになっています。

DNAは安定していることから、DNAを使って好きな構造物をつくる「DNA折り紙」という技術もできています。うまくDNAの配列を設計すれば、好きなDNA構造物をつくることができます。

ここまでできる!?「DNA折り紙」の最先端(1) ~入門編~

この技術はDNAが安定な物質であるからできた技術です。様々なナノ構造物が作れるので、今後様々な場所で応用されるでしょう。

>>次ページ 遺伝子診断の精度は?

DNAと病気の関係をさぐる

このA,T,C,Gの組み合わせで遺伝情報が保持されているという発見はインパクトがあります。というのも、遺伝情報さえわかれば、生き物の未来を予言できる可能性があるからです。

そのような期待もあり、ヒトの遺伝子をすべて読むという試みが2000年辺りから始まり、今ではヒトや主要な生物種の遺伝情報はすでにわかっています。

遺伝情報がわかれば、次に病気との関係を知りたくなります。例えば、癌細胞の場合、DNAのどこに変異が入っているかを調べれば、癌に関係する遺伝子がわかりそうです。変異が入っている個所がわかれば、その変異を狙い撃ちした薬をつくることが可能になります。

また、長寿の人のDNAを片っ端から調べれば、長生きに重要な遺伝子が見つかるかもしれません。

上記のように、DNAとヒトの表現型(病気、身長、髪の色などの身体的特徴)の情報が大量に手に入れば、両者の関係性が明らかになるのです。

DNAと表現型の関係性がわかれば、DNA情報を読めば将来どのような病気になるかがわかるでしょうというのが遺伝子診断のアイデアです。近年、DNAチップ次世代シーケンサーなどのテクノロジーによりDNAを安価に読めるようになってきたこともあり、遺伝子診査は普及し始めました。実際に、DeNAYahoo!などの大手企業が遺伝子診断サービスをはじめています。

これらのサービスでは、個人において多様性のあるDNA塩基情報を読み込み病気の確率を計算します。この個人差のある塩基のことをSNP(Single Nucleotide Polymorphism)と呼びます。遺伝子検査では、表現型に対応する個体差の高いSNPを多数読み、未来を予測するわけです。遺伝子全部を読むわけでないので、DNAチップにより比較的簡単に診断することが可能です。実際にYahoo! のGeneLife ZEROは29800円で行われています。

DNAから表現型を予測するのは難しい

DNA診断の際に注意しないといけないのは、DNAが必ずしも未来を決定しないということです。

コンピュータは一度プログラムしたものを正しく実行します。一方、おもしろいことに生物の場合、同じDNAでも異なる動作をとります。

例えば、遺伝情報の同じ一卵双生児の場合でも、寿命も異なれば顔や性格も異なります。

双子研究からわかること

生物の場合、食べ物や生活環境が異なれば、遺伝情報が同じでも、病気になる確率や性格などもかなり変わってくるのです。そのため、DNAを読んだからといって、将来なりうる病気を100%の確度で予測することは不可能なのです。

>>次ページ インチキ遺伝子診断サービス業者の見分け方

遺伝子診断の活用法

上記のように環境要因も大きいため、遺伝子診断は必ずしも当たりません。ですから、将来癌になると診断されても実際になるとも限りません。

では、遺伝子診断は必要ないのかと言われたらそうではありません。なぜなら、遺伝子診断の結果から将来なる確率の高い病気がある程度わかるからです。もし、胃がんになりやすいなら、胃の検査を定期的に行えば、胃がんを回避できます。このように遺伝子診断により効率的なヘルスケアが可能となるのです。

遺伝子診断の注意点

遺伝子診断の注意点としては、業者の診断がどの程度の信頼性があるのかにあります。もしかしたら、遺伝子を調べることもしないで、コンピュータでランダムに結果を出力するようなことをしているかもしれません(これではテレビの占いと同じ)。

たぶん、適当に結果を出力しても、簡単にはばれないと考える会社もあるでしょう。実際に診断を行っている姿を見ることができればいいのですが、そんなことをいちいち調べる人はいないでしょう。

では、どうやって上記の点を回避するかというと、「複数の会社に遺伝子診断を依頼する」ということをします。遺伝子診断なので、多少違いがあるにせよ似たような結果になるはずです。ある会社では胃がんになる確率が高いのに、他の会社では低いとなれば何かがおかしいということになります。

この方法を使えば、どの会社がいい加減な診断をしているかを調べることが可能になります。

遺伝子診断の今後

今後、遺伝子を読む技術が進み安価になれば、個人が自分の全DNA情報をもつようになるでしょう。生まれてきたら、DNAを読むのが当たり前になる時代の到来です。全DNA情報をもっていると、安価に遺伝子診断をすることができます。DNAは一度計測すれば変わらないので、最新の研究結果が遺伝子診断に反映されます。

個人が全DNA情報を持つと、薬の副作用をある程度おさえることもできます。例えば、癌の抗癌剤をいろいろ試すことなく、遺伝子情報から副作用の少ないものを選択することが可能となるでしょう。

また、研究においてもおおきな恩恵が受けられます。遺伝情報と病気のデータが大量にあれば、病気に関する情報がDNAのどこに書かれているかがわかります。そのDNAの個所に関わるタンパク質を調べていけば、病気のメカニズムの解明にもつながるというわけです。

最後に

DNAは安定な物質で、今後もDNAを中心とした研究は急速に進むでしょう。

しかし、注意が必要なのはDNAと病気の相関をしらべても、病気の仕組みはわからないということです。例えば、癌化に関する遺伝子がわかるかもしれませんが、なぜ細胞が異常増殖するのかの分子メカニズムはわかりません。

もちろん、分子メカニズムはわからなくても、実用上問題ないのかもしれません。しかし、私たちの体がどのような仕組みで動いているのかを、みなさんは知りたいとは思いませんか?

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