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地に堕ちた信頼。三菱自動車の燃費不正問題を新聞各紙はどう伝えたか

4月20日に明らかになった、三菱自動車による燃費不正問題。同社はこれまでも、2度に渡るリコール隠しなどの不祥事も起こしており、企業体質が厳しく問われることになりそうです。ジャーナリストの内田誠さんはご自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で、この件についての新聞各紙の伝え方を分析・解説、さらに以前取材で訪れた三菱自動車で目の当たりにした「異様な光景」についても記しています。

各紙は、三菱自動車の燃費不正問題をどう報じたか

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「熊本地震『関連死』11人」
《読売》…「熊本『本震』も震度7」
《毎日》…「三菱自 燃費データ不正」
《東京》…「震度7は2回だった」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「避難生活 弱る体」
《読売》…「関連死 対策急ぐ」
《毎日》…「県外避難受け入れ」
《東京》…「心臓部の耐震確認せず」

ハドル

《毎日》の1面トップと《東京》の解説面が別テーマになっていますが、それ以外は熊本地震の続報になっています。これが最大のテーマであることに疑いはありませんが、実は、《毎日》だけが1面トップに持ってきた三菱自動車の不正かなり大きな問題です。各紙、関連記事を含めて大きく扱っていますので、きょうはいったん地震を離れ、こちらをテーマに選びたいと思います。

基本的な報道内容

三菱自動車は20日、軽自動車4車種で、燃費試験のデータを不正に操作していたと発表した。対象は4車種62万5,000台で、同社は該当する車種の生産を停止。国交省は愛知県岡崎市にある三菱自動車の技術センターへ立ち入り検査を始めた。

対象は、2013年6月以降に販売された「ekワゴン」「ekスペース」15万7,000台と、日産向けに生産した「デイズ」、「デイズルークス」の46万8,000台。

日産が測定した結果、三菱が示した燃費と7%ものズレがあり、三菱自動車の当時の部長が指示して意図的にデータを偽装していたことが判明した。

4車種はいずれもエコカー減税の対象で、今後、減税幅が小さくなる可能性がある。三菱自動車は、燃料代の補填などについてユーザーへの対応も検討するとしている。

企業文化の問題…

【朝日】は1面左肩に基本的な情報の記事を載せ、関連で8面に解説的な記事と社長会見での一問一答。頭を下げる会社幹部の写真。38面社会面には、ユーザーに視点を移した記事。対象4車種の写真が掲載されている。見出しを並べておく。

uttiiの眼

8面の記事は、2000年のリコール隠し発覚で悪化した経営を、三菱グループの支援とアジアでの好業績で立て直してきた同社が、再び経営危機に陥ることを予感させる内容。背景には、日本で売れる自動車の4割を占める軽自動車、その市場獲得をめぐって展開される各メーカー間の激烈な「低燃費競争があるという見立ても、おそらくは当たっていよう。先日のフォルクスワーゲンの排ガス規制に関わる不正の際も、日本の消費者の対応は峻厳で、売り上げが大幅に落ち込んだことを考えれば、この先の社内外での調査がどのような方向に進むにせよ、三菱自の未来は明るくないだろうと思われる。

私もリコール隠し発覚から数年後に同社を取材したことがあった。ある企画の準備的な取材で、開発担当の社員数名と面談したのだが、実に不思議な思いを抱いて同社を後にした覚えがある。取材内容はここに書くわけにはいかないが、社員たちはこちらの質問に答えることよりも、自社ブランドへの誇りと忠誠を口にすることに忙しく、「僕たちにはやっぱり三菱DNAがあるんだよねと嬉しそうに頷き合う始末。唖然とさせられた記憶がある。

誇り高く仕事に邁進していただいていればこんなことになるはずもなく、これでは「三菱DNAとは不正の伝統」に他ならなかったのではないかと言わなければなるまい。

38面記事。不正のカラクリは意外に単純だった。燃費計算の前提となる走行抵抗値(走行時の転がり抵抗と空気抵抗の値)を、燃費が高く見えるように不正に操作したということだが、これは複数のデータのうち、中央値を使わず、高燃費が出る数字を使ったということのようだ。

三菱自動車は2000年と2004年に大規模なリコール隠しが発覚。死亡事故も起きていた。2012年にはやはりリコールに消極的だったとして国交省から厳重注意を受け、軽自動車176万台のリコールに発展していた。そして、「今回の不正はその半年後にはあったことになる」と。自動車アナリスト中西孝樹さんは「…企業文化や体質の問題としか言いようがない」と切って捨てている。全く同感だ。

「かなり悪質」

【読売】も1面の左肩と《朝日》と同じ位置に基本情報。関連記事は2面の解説的な記事、8面と9面に跨がる大きな経済記事、さらに38面社会面。見出しを拾う。

uttiiの眼

《読売》はこの問題が、海外に輸出している車種にも及ぶ可能性があると書いている。軽だけではないという意味なのかは不明。また、「社内の燃費目標を達成するため、複数の開発担当者が不正に関与していた」とみられるという。

さらに2面の記事では、データ偽装はマイナーチェンジの際にも行われ、燃費の向上があったようにされていたという。このあたりのことを国交省幹部はかなり悪質」と表現しているようだ。常習的と言い換えてもよさそうだ。

2面記事は、《読売》的ディテールが大変面白い。軽自動車の市場には、普通・小型車が売れないため三菱、日産、ホンダが相次いで参入。しかし、市場はダイハツとスズキの2強が6割を占め、ホンダも18%と健闘。しかも、ダイハツやスズキは燃費がリッターあたり30キロ越えも珍しくない。三菱は上位メーカーに追いつこうとして開発現場が社内の達成目標を意識しすぎ、不正に至った、という筋書きになっている。また、三菱自と日産は合弁会社を設立し、三菱自の工場で生産してきた車種が含まれていて、日産側の不信感が高まっていると。

38面記事には、記者会見で同社の「体質」についての厳しい質問が相次いだと書かれているが、今回の不正疑惑、本当にこれだけなのだろうか。《読売》も「輸出車への波及」について触れているように、同様の不正対象が広がる可能性があるようだが、それだけでなく、さらに色々な別の問題が隠されているのではないかという気がする。3ヵ月後には社内調査の報告書が出るのだそうで、それを待つことにしよう。

「言い値」の悪用

【毎日】は1面トップに持ってきた。関連して2面の解説的な記事、6面経済面、そして社会面にも。見出しを以下に。

uttiiの眼

1面トップの割に関連記事が薄いように見えたが、そうでもなかった。2面の記事が説明する「偽装の手口」は、少なくとも《朝日》や《読売》のそれよりも分かりやすい。

走行抵抗値の偽装というところまでは他紙と同じ書き方。その先がこうなっている。

カタログに載せる燃費性能は国土交通省の審査で決まるが、その基になる走行抵抗値はメーカーの届け出数値が採用される。

さらに、

国は国の施設で行う走行試験データに、メーカーから提出された走行抵抗値を掛け合わせるなどして燃費を算出。三菱自はメーカーの言い値が採用されるこの仕組みを悪用した。

という。ここまで説明されれば、この偽装が意外と簡単に行われてしまった理由がよく分かる。

また、《毎日》の社会面記事は異彩を放っている。この問題でインターネット上にも辛辣な言葉が書き込まれたとして、「もう車を作らないでほしい」というような意見、あるいは「震災報道に隠れることができるかもという考えが見え隠れ」など、公表のタイミングを問題視する声、「他のメーカーも実際の燃費はカタログと違う。当てにならない」と、自動車業界全体に対する不信まで書き込まれていたとする。まあ、この手の情報に頼る場合は、本筋の取材がうまく行っていない時が多いような気がするが、言われていることは事実に相違ない。

私も、燃費性能が著しく高いことが売りの小型車に乗っているが、実際の燃費は、カタログ的な燃費性能の半分強といったところ。それでも、昔の車に比べれば大変な高燃費で、「燃費が悪い」とは言いにくい。しかしながら、カタログの数字を競い合うことは単に馬鹿馬鹿しいだけでなく、本当に価値の高い車を作る上で障害になっているケースさえあるのではないだろうか。車の性能は燃費ばかりではないだろうから。

隠蔽体質

【東京】は3面の左肩に基本情報。9面の経済面に関連記事を置いている。見出しは以下のようになっている。

uttiiの眼

《東京》の記事が強調するのは、1つは燃費競争の姿。もともと燃費が良く「庶民の足」として使われていた軽が、小型のハイブリッド車の台頭でその有利さを脅かされていた。そこにダイハツ「ムーヴ」やスズキ「ワゴンR」が30キロ以上の燃費を達成、三菱自の「ekワゴン」も不正発覚前は30.4キロと肩を並べていた。良い燃費に見せかけなければ対抗できなかったということのようだ。

もう一点、強調されているのは、こうした問題の公表過程にも影を落とす同社の隠蔽体質だ。以前のリコール隠しは内部通報がきっかけだったが、今回は提携先他社である日産の指摘によるもの、つまり、内部告発者は出なかったというこだ。さらに、この問題が社内調査で不正と認められ、相川社長に報告されたのは数ヶ月後の今月13日という遅さ。最後まで隠し通そうとしていたのではないかとの疑惑が沸いてくるが、記者はさすがにそこまでは書いていない。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

三菱自動車が話題に上ると、いつも思い出すことがある。かなり前のことだが、知人の知人が買った三菱車、雨漏りがするので、ディーラーに相談すると、「そうなるように作られている」と開き直られてしまったという。まあ、直接知らない人のことでもあるので、話半分に聞いていたのだが、ある時、ハイヤーの運転手さんと知り合いになり、親しく話させていただいた折、試しに聞いてみた。そうすると、「ああ、三菱車は有名ですよ。トランクで金魚が飼えるって」と、もの凄い話に。実際に金魚を飼ったかどうかまでは聞かなかったが、かなり、雨漏りがするということをプロドライバーから報されることになった(今はそんなこともないだろうと思うが…)。その後、何人ものドライバーに聞いてみたが、同様の話。ついでに言うと、三菱系の会社はハイヤーの車種にもうるさく、三菱の最高級車デボネアでお迎えに上がらないと怒られると。その点、ホンダ関係は自由で、当時既にレジェンドという高級車がホンダから出ていたにもかかわらず、重役たちの送迎も「トヨタや日産で構いません」ということだったらしい。

「隠蔽体質」の裏には、「根拠のない、過剰な自負が横たわっているのではないだろうか。このあたりの古色蒼然としたところも含めて、どうやら「三菱DNA」なるものがあちこちで大暴れしているような気がする。困ったことだ。

image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/4/21号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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