熊本地震で改めて痛感。Jリーグを「秋春制」にすべきでない理由

 

ジャーナリストの友人と、この「秋春制」について話をしている中で、もう一つ重要な問題が浮かび上がってきた。

それは「学制」の問題だ。

欧米の多くの国は9月から新年度を迎える。

南米は2月が年度初めとなる。

日本では4月だ。

どの国でもスポーツシーズンは、学制と密接に関係している。

その理由は、新人選手の育成に影響を与えるからだ。

もしJリーグを秋春制にした場合新人選手は半年間試合がないことになる。

サッカー選手として最も大事な時期に公式戦がないというのは問題だろう。

とりわけ大卒の選手にとっては、年齢的な問題がある。

Jリーガーの引退年齢の平均が26歳前後といわれている中で、半年間公式戦がないということは致命的だ。

僕はこれまで多くの新人選手を見てきた。

彼らがプロの世界で公式戦を経験しながら学ぶことは、プロのスピードとフィジカルなのだ。

テクニック的な部分だけであれば、プロに入ってくる時点である程度完成されている。

だからこそ、入団直後が大事なのだ。

そこでプロの水になれることが出来なければ、その後の成長は厳しい。

練習試合や親善試合では、それは身につかない。

生活をかけた真剣勝負だからこそ、本当のプロの厳しさに触れることが出来るのだ。

また「日本人選手が海外へ移籍し易くなる」という点をメリットとして挙げる人もいると聞く。

僕は海外のサッカー関係者に友人が多いが、その一人として、日本人選手を獲得する上で現行の「春秋制」がネックになるということを言った人間はいない。

海外のクラブが見ているのは、飽くまでもその選手の能力だ。

本当に能力の高い選手であれば、海外のクラブは移籍金を払ってでも連れて行こうとするだろう。

さらに選手の側もバカではない。

海外移籍を考えているのであれば、契約を半年にすることだって出来る。

もし、「春秋制」が日本人選手の海外進出を阻んでいると本気で思っている人がいるのならば、もう少し現実を見たほうが良い。

僕はJリーグ誕生に関わった一人として、日本サッカーの発展を誰よりも望んでいる。

日本サッカーが強くなるためであれば、どんな協力も惜しまないつもりだ。

しかし、今の「秋春制」を巡る議論を見ていると、そこからは日本サッカーを強くするという意志が見えてこない

拙速な議論だけは、厳に慎んでもらいたいと思う。

 

 

セニョール佐藤のアングル~世界の中の日本サッカー~
著者/セニョール佐藤
日本サッカーのプロ化に尽力、Jリーグ設立に寄与。日本サッカー協会国際委員などの他、日本サッカーリーグ、Jリーグの多数の委員会で活動してきたセニョール佐藤が、日本サッカーについて様々な観点(アングル)からお話します。世界中に広がる独自の人脈から得た「ここだけの話」も登場します。
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