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屈辱のAIIB。米国は、中国が覇権国家になるのを止められないのか?

かつては新保守主義の代表的人物として知られた、政治学者のフランシス・フクヤマ氏も、「アメリカは中国に敗れた」とついに認めた? 人気の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、「中央公論」6月号に掲載されたフクヤマ氏のインタビューを取りあげ、この記事が意味するところを語っています。

フランシス・フクヤマ「アメリカは、中国に【敗北】した」

「日本3大リアリスト」のK氏から、大変興味深い話を聞きました。

「歴史の終わり」の著者フランシス・フクヤマさんが、「中央公論」6月号で、「最近の世界情勢について語っている」と。

「歴史の終わり」

「世の中にはいろいろな政治体制があったが、競争しているうちに淘汰され、最後に『リベラル民主主義』だけが残る。『リベラル民主主義』こそが、『歴史の終わり』である!!!」

論文を出した時期が、すばらしかった。

「ベルリンの壁」が崩壊し、「東欧民主革命」のプロセスが進行している「まさにその時」に発表された。

その後、「リベラル民主主義最大のライバル」だったソ連が崩壊した。それで、「フクヤマの予言どおりに世界は動いていく」と、世界中の人が考えた。私も、学生時代、熱心に読みました。

いまとなって考えれば、フクヤマさんの思った方向には進んでいかなかった

ソ連は、政治=「共産党一党独裁」、経済=「国が全部やる計画経済」で崩壊した。しかし、中国は、ソ連の失敗から学び、政治=「共産党一党独裁」を維持しつつ、経済=「資本主義」にして、大成功(?)。

一見すると、「リベラル民主主義の総本山」アメリカより、「一党独裁」中国の方が、パワーを増しているように思える。

こういう、フクヤマさんにとって「不都合な現実」を、彼自身はどう認識しているのでしょうか?

ここからは、「中央公論」6月号の内容です。私(北野)の考えとは違う部分もありますので、ご注意ください。

残念ながらウェブ版はないようです。全文を読みたい方は、「中央公論」6月号をご一読ください。記事は、「習近平、プーチン演ずる「新・世界秩序」の舞台裏」です。

>>次ページ 中国とロシアはなぜ接近する?

中国とロシアはなぜ接近する?

――現在、ロシアと中国が、急接近しています。フクヤマさんはどう見ておられるのでしょうか?

「米国の世界的覇権」を弱体化させることに、中露は共通の利益
を見出している。中露接近の理由は、第一にそれだ。
(中央公論 2015年6月号)

同感です。

しかし、「最近の急接近の原因」は、やはり「クリミア問題」である。これで世界的に孤立したロシアは、何が何でも仲間が必要だった。そして、中国に接近した。

「エサ」は、30年におよぶ巨額の天然ガス供給契約。この時、中国側はロシアが提示した価格を、(中国らしく)値切った。

プーチンは、「安く売ってやる!」と決めた。

プーチン大統領にしてみれば、それでも構わないという気持ちだろう。プーチンは、見かけだけでも中国との関係が大きく前進したということにしたい、と決めたのだ。
(中央公論 2015年6月号)

しかし、中ロ関係にはさまざまな障害があり、「長期的な同盟関係」にはならないそうです。

問題は、「中ロが分裂するとき、アメリカはまだ覇権国家でいられるのだろうか?」「沖縄は、日本領なのか?中国領になっているのか?」という話なのです。(これは、フクヤマさんの発言ではありません。)

>>次ページ アメリカは、「AIIB」で中国に「屈辱的敗北」!

アメリカは、「AIIB」で中国に「屈辱的敗北」!

さて、私は最近ずっと「AIIB事件」の重要性を書いています。

読者さんの中には、「大騒ぎしているのは北野さんだけですよ」などという人もいます。では、フクヤマさんは、「AIIB」をどう見ているのでしょうか?

中国の動きを見ると、国力の増進とともに野望が膨らんでいる状態だ。その好例が、アジアインフラ投資銀行(AIIB)だろう。

AIIBを創設し、そこに出資して、いずれは世界銀行より大きくしようと狙っているのかもしれない。
(中央公論 2015年6月号)

「AIIBを、世界銀行より大きくする」(!!!)

フクヤマさんは、その可能性と展望についてどう考えているのでしょうか?

そうなると、まさに米国の持つグローバルパワーの(中国への)移行の典型的シンボルとなるだろう。
(中央公論 2015年6月号)

この部分を読むと、フクヤマさんは、「アメリカから中国に覇権が移行するのは、『十分あり得る』と思っていることがわかります。

そして、決定的な話に移っていきます。アメリカは、中国がAIIBを作るのを阻止しようとした。

米国はそうした動きを止めようとしたが、屈辱的な敗北を喫した。

結局、主要国でAIIBの創設メンバーに入らなかったのは、米国と日本だけということになった。
(中央公論 2015年6月号)

屈辱的な敗北を喫した。同感です。

フクヤマさんは語っていませんが、それでアメリカは「南シナ海埋め立て問題」を大騒ぎしはじめたのです。

「AIIB事件」について、アメリカは「平静を装って」いますが、中国に完全に負けたというのが本音なのですね。

もちろん、戦いが終わったわけではなく、今アメリカは熱心に「リベンジ」しています。

アメリカが負けたのは、「AIIB事件」の話で、「覇権争奪戦」はまだ始まったばかりなのです。

とはいえ、フクヤマさんご自身は、「もうアメリカは中国に勝てない」と思っているフシがあります。

中国との関係を考えてみると、すでに述べたように、中国がルールを決めていく世界に向うのは避けられない。

中国にはルールを決めていく財力もあるし、パワーもある。それに単純に抵抗しようとするのは、ばかげている。
(中央公論 2015年6月号)

「中国がルールを決めていく世界に向うのは避けられない!!」

これって、別の言葉で、「中国が覇権国家になるのは、避けられない」てことですよね?

なぜかというと、「ルールを決める」ことができるのは、「覇権国家だけ」だからです。(例:冷戦時代、覇権国家アメリカが、西側のルールを決めた。同じ時期、ソ連が共産陣営のルールを決めた。)

>>次ページ この記事をどう読むべきか?

この記事をどう読むべきか?

というわけで、フクヤマさんは、「リベラル民主主義が歴史の終わり」という自分の「歴史観」を、完全に捨て去ったようです。

だって、「共産党の一党独裁国家中国が、世界秩序のルールを決める時代が来るのは避けられない」と言っている。

この記事からわかるのは、「アメリカにもいろいろな思想がある」ということですね。

・ネオコンは、「中国、ロシアを同時に敵にしても勝てる」と考える。(ちなみにフクヤマさんは、かつてバリバリのネオコンでしたが、イラク戦争に反対で、ネオコンを引退したそうです。)

・リアリストは、「ロシアと組んで中国包囲網を築け!」と考える。

・フクヤマさんは、「中国が覇権国家になるのは不可避。欧米は、中国と和解し、中国が『よりよい覇権国家になれるよう指導するべきだ」と考える。

フクヤマさんの現在の立ち位置について、私は詳しく知りません。ただ、「中国は、アメリカが築いた秩序の中で台頭したいだけで、脅威にはならない」とする「リベラル」な考えは、かなりポピュラーです。(日本でも)

しかし、「AIIBは、アメリカが築いた秩序の外に、新たな秩序を築こうとしているのですよね?」……当然、こういう疑問も出ますし、それで、キッシンジャーやブレジンスキーは、「親中派をやめた」といわれます。

しかし、「親中リベラル」も、「あ~だこ~だ」考えながら進化(?)していくのですね。

フクヤマさんの「中国が覇権国家になるのは不可避。だからアメリカは積極的につきあって、中国をよりよい覇権国家にするのが賢明だ」。

これが、「リベラル」「次の理屈」なのかもしれません。

かつてネオコン「スター理論家」だったフクヤマさんの変節。無視できません。

私は、ミアシャイマーさんやルトワックさん支持者がアメリカ大統領になることを願っています。彼らのいうことにしたがって、アメリカが賢明な政策を行えば、日本も安泰でしょう。

しかし、「アメリカがいつも賢明な政策をするわけではない」ことは、歴史が証明済み。

私たちは、「アメリカ」「中国」の動きを、油断することなく追いつづける必要があるのです。

『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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