MAG2 NEWS MENU

カルロス・ゴーンの不意打ち。日産・三菱「電撃」提携を各紙はどう報じたか?

燃費データ不正問題で揺れに揺れている三菱自動車は12日、日産自動車の傘下に入ることが決定しました。日産は約2400億円を投じて、三菱自の第三者割当増資を引き受け筆頭株主となります。不正公表からわずか3週間という速さで決定した今回の「買収劇」を、新聞各紙はどのように報じたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが、自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で、各紙の報道を詳しく分析しています。

カルロス・ゴーン氏登場! 各紙は、日産・三菱提携と燃費不正問題
をどう報じたか

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「三菱自本社 改ざん指示」
《読売》…「日産「三菱ブランド維持」」
《毎日》…「ゴーン氏「好機だった」」
《東京》…「米は「未来志向」意図」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「偽装渦中 再編急ぐ」
《読売》…「再建急ぎ電撃提携」
《毎日》…「名門・三菱 お手上げ」
《東京》…「不正体質一掃なるか」

ハドル

どちらの方面からどんな情報が流れてきているのか、その「方向感」を失わないようにしないといけない、そんな感想が沸いてきます。三菱自動車問題で、突然、あのゴーンさんがプレイヤーの一人として登場してきました。強烈なコストカッターであり、短期間にルノーと日産の経営再建を果たしたとされる人物。まだまだ、他にも主要なプレイヤーが隠れているのかもしれませんが、とりあえず、彼の登場が見えてきたことで、話が賑やかになってきました。

上の「1面トップ」と「解説面」の見出しをつらつら見ているだけで気付くことがあります。《読売》と《毎日》は、話の中心を早くも「合併話」「提携話」の方に移してしまったかのようです。政治で言えば「政局話」。誰と誰がくっついた、いや、離れた…というような話ですが、そこには業界再編の巨大な動きが姿を現しています。どこまで言及しているのか、楽しみですね(笑)。他方、《朝日》は冷静に、「燃費不正問題を追及する姿勢を崩していません。そして、その決定的な進展を見逃しませんでした。今朝の《朝日》は、これだけで称賛に値します。《東京》も、「合併話」の中心に、「三菱の体質」問題を置く姿勢です。

提携話前に燃費偽装問題

【朝日】は1面トップに二つの記事、「燃費偽装」に関する関連記事は34面社会面、「日産傘下入り」に関する関連記事は2面の解説記事「時時刻刻」と9面経済記事、14面社説。まずは見出しから。

uttiiの眼

12日の朝刊のことを思い出していただきたい。各紙、締め切りギリギリに飛び込んできた「三菱自、日産傘下へ」のニュースが前日の記者会見の惨憺たる有り様を覆い隠すかのようにして1面トップに滑り込み、異常な構成にならざるを得なかった。今朝は今朝で、ゴーン氏と益子氏のニコニコ顔の記者会見を取材しているから、どうしたってそれを大きく扱わなければならない。

だが、《朝日》の編集長は考えたに違いない。これでは、日産と三菱が望むような記事を載せていることになってしまう、と。

今朝の《朝日》が選んだのは、1面トップに昨日の報告書のキモである「改ざんは三菱自動車本社の指示だった」という点を強調した見出しで記事を置き、提携話はその横にずらす。

燃費偽装問題から目をそらさないぞという決意表明のような紙面でもある。

1面トップは11日の報告書(国土交通省に提出されたもの)を詳しく分析し、三菱自が燃費目標を達成するために温暖なタイで燃費性能試験を行ったが、狙った数字が出ず、そのことを子会社の担当者が報告すると、本社の性能実験部の管理職が「低い値のデータを使って」と不正に良い燃費がでるよう指示したという。ただし、不正だとは認識していなかったとも。また問題となった車種の開発責任者は「高圧的言動で物言えぬ風土を醸成した」とされている。

2面の解説記事「時時刻刻」で目立っているのは、飽くまで燃費偽装問題を強く意識しながら、この提携話を説明しようという分析態度だ。uttii流にまとめ直せば、両社の5年間に及ぶ協業の積み重ねという「歴史」と、日産の不得意な軽自動車市場やアジアのピックアップトラック市場を三菱自が補い、逆に三菱自の貧弱な開発体制を日産が補うという「構造」(相補性)、そして、燃費偽装問題で三菱自が二進も三進もいかなくなったという「契機」(きっかけ)、以上の三つが、この提携話の骨格を為しているということになる。

エピソードも興味深い。連休中に極秘会談を行ったトップ同士。日産の出資を急いで公表することで信用を補完し、燃費偽装の傷口を最小限に抑えたいという狙い(マスコミの目を誤魔化す、ということでもあるだろう…)、さらに、不祥事で三菱自の株価が大きく下がり、ゴーン氏は「見合う価格だと判断したのではないかとのアナリストの推測もおそらくは当たっていよう。

記事は最後に、三菱自は、もともと三菱重工の自動車部門が独立してできた会社だという由来から説き起こし、三菱グループ内の企業や社員が率先して三菱車を買うことで支えられてきた会社であることを述べる。そして、ダイムラー・クライスラーの出資を受けた時期に続き、リコール隠しで危機に陥った時には三菱グループが直接支援、そして今回は日産に頼るという、まるで身体に染みついたような依存体質”であることも。そして記者は、このまま「ものづくりの基礎となる分野で何度も不祥事が続いた三菱自が根本から変わらないのであれば、ゴーン氏の言う「ウィンウィンの関係にならない、と言い捨てている。その通りだと思う。

本当に偶然?

【読売】は1面トップに「資本提携発表記事、関連で2面3面解説記事、8面と9面経済記事、25面はちょっと意外なスポーツ欄、36面社会面にも。見出しを掲げる。

uttiiの眼

《読売》は、基本的に日産と三菱自の宣伝戦略に乗った形(笑)。1面トップは提携話だけで、しかも世界販売台数を単純な足し算で「960万台」とはじき出し、無邪気に世界3強に迫るとはしゃいでいる。疑惑の全貌も未解明なのに、いつ信用回復が成し遂げられたのか、教えてもらいたいものだ。

2面には燃費偽装に関する記事があるが、《朝日》が詳しく分析しているような中身が全く無い。どうやら、11日の報告書を入手できていないようだ。少なくとも「本社の指示」あるいは「本社社員の指示」という重要な結論はどこにも書いていない

提携話の方は3面の解説記事「スキャナー」。今回の提携に至った理由の解説が興味深い。三菱自はこれまで、他社との資本提携に慎重だったという。それは、「自動車業界では大型提携の失敗例が多く、業務提携にとどめる方が新型車の開発などで柔軟に対応でき、効果が大きい」からだという。ところがその姿勢が一変したのが今回の燃費偽装問題。自力での再建を早々と断念し、日産傘下に入ることになったと。日産側は、「偽装発覚前よりも割安で出資できることも日産の背中を押したとみられる」と《読売》はやけにフラットな書き方をしている。

しかし、ちょっと考えてみよう。そもそもこの燃費偽装の発覚は、提携工場で生産された軽を日産が独自に調査したら、燃費が公称よりも低く、三菱自に調査を求めたことが発端。少なくとも、このことから言えるのは、三菱の不正を暴くきっかけを作った日産は、そのことによって、停滞していた資本提携交渉を驚くほどの勢いで簡単に仕上げることができ、しかも、偽装発覚によって株式取得に必要な資金を4割以上も安くすることができた(日産による三菱自株取得額は一株468円。発覚前日の終値は864円だった)。さらに、政府からも「地域経済、雇用への貢献」ということで歓迎、感謝されるおまけ付きだ。もちろん、これを、“偶然の出来事”とみなす自由は誰にでもあると思うが、読者の皆さんはどう思われますか?

ようなゴーン氏

【毎日】は1面トップで提携話、3面に解説記事「クローズアップ」、7面経済面とスポーツ面に関連記事。見出しを拾う。

uttiiの眼

《毎日》は、偽装問題から提携話、さらにその先の、「ゴーン戦略」にまで関心が飛んでいったようだ。一面記事の見出しが「ゴーン氏「好機だった」」となっているのに照応して、掲載されている写真が凄い。ゴーン氏が鷹のような目つきで前を向き右手で誰かを指さしている。多分、質問者を指定したシーンなのだろうが、写真の印象は、自分が猛禽類に狙われているような気分に陥る。怖い(《読売》の3面も同様の写真を掲載)。で、そのゴーン氏の後ろに、垂れ眉毛で気の弱そうな三菱自の益子修会長がキョトンとした表情で立っている。もう、まるで勝負にならない感じ。解説記事の見出し「名門・三菱 お手上げともシンクロしているような見事な写真使用。

一面記事は、この「好機」について2か所で触れている。1つはゴーン氏の言葉。「日産にとってこれは好機だ。三菱自にとっても好機になる」という“好機”。提携によって、両社にとって良いタイミングだということ。もう一つは、株価急落によって調達費用が激減したことをゴーン氏が“好機”と判断したのだろうという記者の見立て。ゴーン氏にとってのチャンス当来ということ。

3面の記事、前半は、そのゴーン氏のしたたかさに焦点を合わせている。ゴーン氏にとっての三菱自の価値は、SUV、四輪駆動技術、東南アジア市場という表向きの要素に止まらず、プラグインハイブリッド技術なども含まれる。また、軽自動車については三菱の生産体制を回復させた方が得策との判断があったこと、そして、何と言っても株価が安くなり、また以前は支援に回った三菱グループ御三家もそれぞれに苦しい台所事情を抱え、三菱自は他に後ろ盾を見つける必要に迫られていたなどの事情も。最後に、三菱自は「独立路線に限界が見える中、不正問題に背中を押される形で日産の軍門に降った形だ」と述べる。

記事の後半は提携後に何が起こるか、その行く末について書かれている。会見でのゴーン氏は、資材の協同調達や技術開発での協力など、いわば“綺麗事”を述べていたが、三菱自系のメーカーは、ゴーン氏の「コストカット」に警戒感をあらわにしたという。かつて、日産再建中には従業員の14%、2万1千人を削減したゴーン氏は、今回、会長を含む取締役の3分の1を派遣する。益子会長は、記者会見場から退出する際、記者団から「水島製作所の雇用はどうなるのか」との質問に無言を通したという。

実は、今朝の《毎日》、日産と三菱自の提携話の他に、特に大きく扱っているテーマがある。鴻海によるシャープ支配の話だ。「日本人社長」も反故にされ、守るはずの雇用も「7000人削減検討」と後退した。不採算部門もやがて切り離されていくだろう。《毎日》には、日産と三菱自の話は鴻海とシャープの話と見事に二重写しに見えているように感じられる。

次ページ>>【東京】「疑惑を」ではなく「疑惑も」としたところに意地を観た

疑惑も解明を

【東京】は1面トップを、オバマ米大統領による広島訪問関係の記事に譲り、2面の解説記事「核心」とその他のいくつかの記事、5面に社説、7面経済面にも記事。見出しは以下に。

uttiiの眼

《東京》は7面の経済記事で、世界の主な自動車メーカーの提携図を載せている。燃料電池車の普及を図るトヨタやホンダに対して、電気自動車で対抗しようとする日産や三菱との大きな対立構図。次世代エコカーをめぐる覇権争いという位置づけだが、日産と三菱自の提携から何かエポックメイキングな製品が生まれるかというと、そのような期待感はない。提携話に併せて、エコカーをめぐる基本的な構図を整理した記事に止まっている。

他方、昨日の「1面トップジャック」事件では、《東京》も「被害者」。今朝の紙面では、社説でリベンジを果たしている。タイトルは「三菱自疑惑も解明を」。

疑惑を」ではなく「疑惑もとしたところに東京の意地を観る

社説は、今回の提携話を経営危機の中での「ぎりぎりの判断」と受け止めつつ、それでも「疑惑の全容解明は必要だ」とする。特に、いまだに「誰の指示、判断で不正が行われたのかという核心部分」は明らかになっておらず、「不正会計の東芝と同じく、閉鎖的な企業風土の中で上層部からの暗黙の圧力指示が原因だとすれば、グローバル化が進む中、日本的経営のあり方に関わる問題となる」と指摘。燃費偽装問題を追及し続ける正当性を明らかにしている。

あとがき

以上、いかがでしたでしょうか。

しかし、ゴーンさん強かですね。この提携の裏にどんな条件が隠れているのか分かりませんが、その一部はやがて明らかになることでしょう。

ゴーンさん流のリストラは、鴻海ほど荒っぽいものではないかもしれませんが、それでも、やることはキッチリやるのでしょう。三菱自動車はいずれバラバラにされ、有用な部分だけが日産の一部として残り、やがて誰もそのことを意識しなくなっていくのだと思われます。丁度50年前に日産に吸収されたプリンス自動車も、今は、スカイラインというクルマの名にその残影をとどめるばかりとなりました。

image by: Chris Warham / Shutterstock.com

 

uttiiの電子版ウォッチ』2016/5/13号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
<<無料サンプルはこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け