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直木賞作家・石田衣良がメルマガを創刊。動機は出版界の「断末魔」

「池袋ウエストゲートパーク」などの著作で知られる石田衣良さんのメルマガ『石田衣良ブックトーク「小説家と過ごす日曜日」』が7月10日にいよいよ創刊されます。出版界でご活躍されている方がメルマガを出されるのは今や珍しいことではありませんが、石田さんがメルマガを創刊しようと思われたきっかけは、ほかの作家さん方とはちょっぴり違ったものでした。

メルマガで出版界の生態系を守りたい

まずは、石田さんがメルマガを創刊しようと思われたきっかけを教えてください。

「出版の世界をなんとか延命させたい」という思いが、動機としてやはり大きいですね。

テレビや新聞などいろいろなメディアがありますが、そのなかでも最近はインターネット、とりわけスマートフォンが、王様の位置に就いて久しいですよね。でも、僕のいる出版の世界って体質がまだ古くて、そういったものへの対応が全然できていないし、正直ネットに関しては、何もわかっていない状態なんです。「紙と同じように、小説を集めて売ればいいんじゃないか」と思っているフシもあるので。

出版の世界って、この15年ぐらい下り坂じゃないですか? そのなかで「電子書籍」は生まれたんですが、それって今までの紙の本と競合するので、結局はゼロサムなんですよね。だから、そうではない新しい形で、出版とネットの世界がうまく連携できる方法はないかということで、ここはひとつ自分でネットの世界を探ってみようかな、と思ったんです。

出版業界も、厳しい状況がずっと続いていますね。

だって、衝撃的ですよ。近くの駅ビルの本屋さんに久しぶりに行ったら、いつの間にか売り場の半分が雑貨屋になってるという……。「え? カバンも売ってるの?」みたいな。そういう光景を目の当たりにするのは、やはりキツイですよ。

個人的には、あと3年ぐらい後、消費税が2度目のアップをするぐらいのタイミングで、大手出版社の一角が倒産してしまうんじゃないかって、それぐらいの強い危機感を持っています。でも、出版の世界の人たちは、みんな「ネットで何ができるんだろうねぇ」と、まだのんびり構えている感じなので……。

とはいえ、出版の世界ってすごく心地いいんですよね。編集者たちは当然みんな優秀なんですけど、いい加減だったり面白かったりと個性があって。そんな人間たちが集まって、あの小説は面白い、いやつまらないなんて言いながら、それで暮らしていける。そんな生態系を少しでも長持ちさせるための、ひとつの手になればなぁと思っています。

今回創刊されるメルマガですが、具体的にどんな内容になるのか、教えていただけますか。

昔よくあった個人責任編集の個人誌、パーソナルマガジンみたいな雰囲気になると、楽しいかなと。

他のメルマガも参考のためにいくつか読みましたが、自分としてはやはり小説家でないとできないようなことを、やっていきたいんですね。1回1回読み切りの短編小説はもちろん、エッセイに関しても、今まで書いてきたものとは形を変えてみようかな、と考えています。

例えば、僕の視点でひとつエッセイを書き、それに対するリアクションのようなものを、また別の視点でも書いてみたり……。「池袋ウエストゲートパーク」のマコトの声で書いてみるとか。そんな「両A面のダブルエッセイ」みたいなものも、面白いんじゃないかって。

メルマガは即時性もあるので、ニュースとかの話題も取り上げやすいですしね。

テレビの報道番組などに、たまに呼ばれて行くんですが、コメントをさせてもらえるのは、せいぜい60秒から90秒なんですよね。だから、たとえば「これに関してはたっぷりと話をしたいし、伝えるべきだな」っていうネタを揃えて、「ひとりワイドショー」のようなこともやろうと思っています。

読者とのやり取りは、どんなことを考えていらっしゃいますか?

もちろん、人生相談のコーナーも考えていますよ。ただ、読者の方とのやり取りということでは、他の形のものもできればいいなと思っています。たとえば、都内でも地方でもいいですが、カフェとかに読者の方を集めて、ファンミーティングだったり、ブックトークのイベントを開いたりとか、そういうことをちゃんとやれればいいなと思います。

ブックトークといえば、以前からテレビ局の人間に、本を紹介する番組ができないかって、持ちかけたりしていたんですが、出版業界に勢いがないっていうことで、なかなか企画が立たなかったんです。ただ今回メルマガという形で、自分のメディアを作れるようになったので、そういうこともどんどんやっていきたいですね。もちろん紹介するのは、自分の本だけでなくて、他の作家の本を……。本の世界を救うために、いろいろなことを仕掛けていきたいです。

あとは、自分の趣味であったりとか音楽の話といった、日々の暮らしのあれこれも、話せれば良いかなと。『石田衣良ブックトーク「小説家と過ごす日曜日」』というメルマガのタイトル通り、隔週金曜日に配信することになると思うので、週末にのんびり読んでいただくことで、ちょっとした小旅行というか、そういう気分を楽しんでもらえればと思っています。

>>次ページ 始めたばかりのTwitter、炎上してもかまわないワケ

ところで石田さんは、最近Twitterを始められたそうですね。

ネットに対しては、ちょっと苦手意識があって、今までそういうのをまったくやって来なかったんです。だから、もう新鮮というか、ビックリしちゃいますね。

ただ僕自身、Twitterで自分に宛てられたメッセージを読んだり、他の人をフォローしたりするのは、まったくしないかな。ツイートしてそれでおしまい。別に炎上したとしても、僕は見ないで放っておくから構わないと(笑)。

いわゆるネット社会について、石田さんはどのように考えていらっしゃいますか。

まだ完成していないものなんだと思いますね。既存のいろんな思想であるとか、もちろん新しい考えも出てきたりもするんでしょうけど、そういったものが塊になる前の、ゲル状のドロドロとしたものが漂っているような……そんなイメージでしょうか、今のネットの世界って。

今後どのように変化していくのかは想像もつきませんが、ただ1つ言えるのは、ネットの中でも格差というか、文化的な上下などで、徐々に分化は始まっているような気はします。それと、現在のネット上におけるメインストリームとは異なる、サイレントマジョリティーというか、あまり発言はしない「良識ある多数派」といった層も、実は多く存在しているという点についても、心によく留めておかないといけないと思いますね。

ネット上での表現に関してですが、これまでの紙媒体での表現と比べて、どのような点が大きく異なると思いますか。

質が少し違うような気がするんですよね。小説とかいわゆる紙媒体の世界って、すでに完成された大きな世界に、作品をぽんと渡すといったイメージだったんですが、ネットの世界というのは、もっと対応が1対1のパーソナルというか、その人のキャラクターや人間性が前面に出て来る感じがするじゃないですか。ですから、そういう部分を考えながら、ネットの世界にも対応していかないといけないとは思っています。

よくネットでは、共感とストーリー性があるものが支持を集めると言われますが、それに関しては小説の世界でも同じなんです。ただ最近は、ネタに苦しくなってくると、すぐに「佐村河内化」というか(笑)、「一杯のかけそば化」的なものに走ってしまう傾向があるというか……。僕のメルマガでは、そういうベタなコトをする気はまったくなくって、大人の余裕やユーモアなどをまぶしながら、表現していけるといいですね。

これからの作家の活動は、メルマガをはじめとしたネットの媒体を、大いに取り込んでいく方向になるのでしょうか。

最近の新人作家って、デビューしてからすごく苦労するんですよね。ファンの数も増えないし、出版社も本をなかなか出させてくれないので。

だから今後は、タレントさんがデビューしたら必ずブログを開設するように、新人作家たちも小説を書くのと平行して、ネットで自分の固定ファンを増やすための仕事もするのが、今後のデフォルトとなるんじゃないかと。ネットでちゃんとファンを回転させながら、小説の腕も同時進行であげていくと。当然ブログじゃなくてメルマガでも、同じことはできますよね。

もちろん新人作家じゃなくても、作家がメルマガを活用できるシーンはあると思います。たとえば、コアなファンを3,000人ほど抱えるちょっとマニアックな作家がいたとして、1冊分の作品が溜まったから、本を出そうということになったとします。今までならコアなファンに向けて2,000~3,000部を初版で刷っていたんですが、最近は出版業界も厳しいので、そういった小さなロットでの出版もなかなかできなくなっているんです。

でも、そういった作家が仮に5人集まって、メルマガで短編を発表しつつ回していけば……固定客も単純計算で15,000人になるし、本の出版も1人で作品を溜めていくよりも、かなり短いスパンで出版できて、作家たちも潤うと。

それはとてもいいアイデアというか、実現させたいですね。

メルマガを活用すれば、そういうマニアックな作家さんたちを救済するプラットフォームのようなものも作れるなっていう気もするんですよね。

とにかく、出版の世界とネットの世界の連携って、できることがたくさんあるはずなんですが、まだ何ひとつとして成功していない。だからまずは現場から、どんなミニマムな形でもいいから、成功例をひとつ作りたいなと。成功すれば、あとからみんな付いて来てくれると思います。

「出版の世界を延命させたい」という思いでメルマガを発行される石田さん、7月10日の創刊が待ち遠しいですね。初月無料ですので上のボタンをクリックしてぜひお申し込みください。

石田衣良ブックトーク「小説家と過ごす日曜日」
著者/石田衣良
本と創作の話、時代や社会の問題、恋や性の謎、プライベートの親密な相談……。ぼくがおもしろいと感じるすべてを投げこめるネットの個人誌です。週末のリラックスタイムをひとりの小説家と過ごしてみませんか? メールお待ちしています。
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