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【書評】「業界のことなら任せろ」という人がヒットを飛ばせない理由

特定の業界で何年も働いていると、「この世界の中では知らないことなどない」という気になりがちですが、「それは大きな間違いだ」と言い切るのは、無料メルマガ『ビジネス発想源』の著者・弘中勝さん。その業界の中を知るだけでは、お客様の求める「今」から取り残されてしまうとのことなのですが…、では、どうすればいいのでしょうか。弘中さんが数々のヒットを飛ばす有名放送作家の著作を紹介しつつ、その方法に迫ります。

業界の外の今

最近読んだ本の内容からの話。

さまざまな人気番組を手がけた放送作家の鈴木おさむ氏は、自分たち作り手が想像していた以外のところに視聴者は「今」を見ている、と語る。

東京ガールズコレクションを作ったO社長がまだ社員5人ほどしかいない小さな会社の頃から鈴木氏は、彼と数ヶ月に1回、ご飯を食べながらテレビやファッションについて話をする仲間だった。

2008年、O社長は「今の若い人が夜テレビを見ないで何をしているか?」という調査をしたという。その調査で1位になったことは何かと聞かれ、鈴木おさむ氏は「ネットを見ている」と答えた。するとO社長は「テレビの人はなんでもネットのせいにする」とチクリと言った。

正解は、「居酒屋で友達と飲んで話している」だった。

当時は和民や白木屋など、チェーン店の居酒屋のブームが始まりかけたころで、店内をおしゃれにしたり、ランチを始めたり、メニューを改良したり、とにかく女性も家族も来やすく改革していた時期だった。

その結果は、鈴木氏には「居酒屋が知恵を使って新たなブームを作っているのに、テレビは変わっていない」と言われているかのように思えて、悔しかった。

そこで、鈴木おさむ氏は自分が参加している、タカアンドトシがさまざまなことにチャレンジするテレビ朝日の『お試しかっ!』という番組の会議で、「今、居酒屋のブームが来てるらしい」と話した。

その時はまだ雑誌やテレビでは特集されるほどのブームではなかったから、みんなちょっと笑った。だから、「本当にブームが来ているのかどうか試す企画を作ろう」ということになった。

それまで、テレビで居酒屋の話を扱う場合は居酒屋は居酒屋全部をひとくくりで、「今回は和民です」と、店をテーマにして番組を1時間やっちゃう企画はなかった。だけど、本当にブームが来ているならば、その店のメニュー名が出てきただけで、視聴者は「あるある」と「今」を感じるんじゃないか? と話した。

そこで、若手の作家から「ベスト10を当てる」というシンプルすぎるアイデアが出た。

しかし、シンプルな狭いものを掛け合わせるとオリジナリティーが生まれるもので、「出たものは全部食べる」「全部当てるまで帰れない」という狭い制限がついて、独自の企画ができた。同番組の看板コーナーとなった名物企画、「帰れま10テン)」である。

O社長の言葉で悔しい気持ちにならなかったら、人気企画「帰れま10」が生まれることはなかった。

この経験が鈴木氏にとっては非常に大きくて、それ以来、特にテレビ業界以外の人と、より積極的に会って話すようになった。自分が今後もあまり一緒に仕事しないであろう職種の人と出会った時には、仲良くなってご飯に行ったりして、そこから自分が想像しなかったを知るようにしている

これからの時代の「今」は意外なところに隠れていたりする。だから、普段話を聞くことがない人と積極的に話すことがアイデア探しの基本である、と鈴木おさむ氏は述べている。

出典は、最近読んだこの本です。
  
多くの人気番組を手がける放送作家・鈴木おさむ氏の著作。実例を交えた企画の発想が数多く掲載されています。

新企画』(鈴木おさむ 著/幻冬舎)

その業界で何年も経験を重ねていくと、「その業界のことならなんでもわかっている」という意識に陥りがちなのですが、わかっているのは自分たちの中のことだけであり、その外側のことはまったくわかっていません。

しかし、お客様や取引先は別にその業界の中で生きているわけではなく、業界の外の時代の流れの中で生きているわけだから、自分たちよりはるか先に進んでいたりします

だから、自分の業界の中の人間とだけ話していると、どんどん時代に追い越されていって、お客様が求めている「今の常識」がわからなくなっていき、まともな新製品や新企画が生まれてこないのです。

他業界から来た人が既存の業界をぶっ壊していった、という例がたくさんありますが、これは他業界の人間が強いということではなくて、他業界の「今の常識」を持てない既存の業界人が弱い、というだけのことなのです。

そんなことにならないように、自分とはあまり直接関係のない職業や年代の人でもどんどん積極的に会っていき、自分の業界の外に流れている「今の常識を積極的に吸収していかなければならないのです。

でも、この時に気をつけなければならないのは、そういう情報を得るのは、現役の人渦中の人でなければならないということです。

情報を得たいと思った人がよく会いに行くのが、セミナー講師だったりコンサルタントだったりします。でもそういう人は大抵、過去の実績で食っている人で、情報がその過去の実績の時代の話であることが多い。「今はこういう時代らしいけど」と、「今の常識」を自分と同じ客観的目線で見ているだけ、というケースが多々あります。

だから、「その業界をよく知る専門家」ではなくて、今でも現役でその業界の第一線を走っている人、「若者世代のことをよく知る有識者」ではなくて実際に今その若者である年代の人たちと話すのです。

そうやって貪欲に、自分の業界の外にある「今の常識」を吸収していくことで、自分の業界に新しい風を吹き込み、今の時代に即した新商品や新企画が生まれるのです。

【今日の発想源実践】(実践期限:1日間)————-

image by: Shutterstock

 

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