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安保法案「強行」採決、新聞各紙の報道スタンスを徹底比較

ほとんどの憲法学者が違憲とする中、自民・公明両党により安保法案の強行採決が行われました。これを新聞各紙はどう伝えたのか。ジャーナリストの内田誠さんがメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ』で、それぞれの1面に使われた写真と見出しを比較しながら、各紙の意図を解説しています。

安保法案の強行採決、各紙はどう伝えたか

今朝の各紙、当然ですが、昨日の衆院特別委員会での強行採決について4紙とも1面トップで伝えています。似たような内容と思われるでしょうが、1面に関しては、写真の使い方に著しい特徴が出ています。

ということで、今朝はまず「基本的な報道内容」を簡単に抑えた上で、「写真の比較」を行い、続いて「見出しの比較」、さらに、個別の部分では関連記事の内容をご紹介してコメントすることにしたいと思います。

【基本的な報道内容】

集団的自衛権行使容認を柱とする安全保障関連法案は15日の衆院特別委員会で、自民・公明両党の賛成多数で可決された。

浜田靖一委員長が質疑の終局を宣言すると民主党の議員らが委員長席を取り囲み抗議する中、採決が行われ、法案が可決された。維新提出の対案は否決された。

国会周辺は法案採決に反対する人で埋め尽くされ、深夜まで抗議が続いた。

安倍総理は採決に先立つ質疑の中で「まだ国民の理解が進んでいないのも事実だ」と認めていたが、採決後、「国会での審議はさらに続く。国民に丁寧に分かりやすく説明していきたい」と語った。

議院運営委員会は野党の反対にもかかわらず委員長の職権で16日午後の本会議で法案を採決すると決め、民主、維新、共産、社民は採決時に退席、生活は本会議を欠席する方針。

法案が16日に衆院を通過すれば、9月中旬には参院で議決されなくても、衆院の2/3以上の賛成で再議決すれば、法案を成立させることができる「60日ルール」の適用が可能になると言われている。

>>次ページ 1面写真の比較で見えてくる、読売の意図とは?

【写真の比較】

既に触れましたように、各紙、強行採決のニュースに関連して比較的大きな写真を掲載しているのですが、《読売》とそれ以外の3紙との間に、大きな違いが見られます。

《読売》は衆議院第1委員会室内の写真。民主党議員らが委員長席に詰め寄りプラカードを掲げているときの写真ですが、自席のところで起立している与党議員の姿も入るような、引き絵になっています。

《読売》の意図は明らかです。

強行採決の事実は隠しようもないですが、この映像には、用意してあったプラカードを掲げ、テレビで与党の暴挙を映し出させようという民主党議員らの作戦が見えている(NHKは中継しなかったらしいですね)。自民党も問題だけど、民主党のやることも子どもっぽいねえ、所詮は「同じ穴の狢だね」というような、ありがちな批判を惹起しやすい映像です。昨日の強行採決の本質をそこに見ているのなら仕方がないですが、まさかそんなことはないでしょう。《読売》が与党に奉仕する政治的な新聞であることが、こういうところに見えてしまっています。

1つ、《読売》に計算外のことが起こっています。写真の真ん中あたり、与党の理事が座っているあたりで、1人後ろの議員たちに向いて右手を伸ばしている男性が映っています。大分3区選出の岩屋毅議員です。他の全員が委員長の方を向いているのに、岩屋議員だけが後ろを向いている理由は明白です。委員長が「…賛成の諸君の起立を求めます」と言っているのが聞こえにくい状況で、後ろの議員たちに起立するよう指示を出しているのです。強行採決の時には必ずこのような役回りの議員が存在します。かねて打ち合わせの通り、岩屋議員は「中継役」をやっていたのでしょう。

《朝日》、《毎日》、《東京》の3紙は、委員会室の映像ではなく、国会正門前などに集まった、法案に反対し強行採決に抗議する人々の姿を伝えています。特に強く表現されているのは、「人の多さ」「夜」の2つ。

強行採決が行われたのは昼過ぎでした。3紙の写真は、いずれも脚立を使い、少し上からワイドレンズで抗議の群衆を捉えた、迫力ある写真になっています。キャプションにはどれも撮影時刻が入っていて、《毎日》は「午後7時36分」、《東京》は「午後10時57分」、そして《朝日》は「午後11時16分」。憲法違反と指摘される法案の強行採決に怒り、深夜になっても抗議を続けた大勢の人々の姿を捉えた写真。1面にこのような写真を持ってきた3紙の意図もまたハッキリしています。ここから先、この安保法制問題の主役はこの人たちだということを示したのだと思います。

問題の主役は誰か。新聞が写真の選択や説明、1面記事の見出しなどを使って表現することの出来る、大変重要な情報だということをあらためて確認しておきたいと思います。

では次に見出しの比較に入ります。

>>次ページ 東京新聞の見出しが訴えるもの

【見出しの比較】

まずは単純に四つの見出しを並べてみます。

《朝日》■安保採決 自公が強行■
《毎日》■安保法案 きょう衆院通過■
《読売》■安保法案 衆院通過へ■
《東京》■「違憲」批判を無視■

《朝日》は強行採決そのものを、《毎日》と《読売》は今日の本会議で衆院を通過することを、そして、《東京》はここでも強行採決の意味を問いかける見出しです。

強行採決や衆院通過ということも人々の怒りを掻き立てることでしょうが、逆に一種の「諦め」につながる場合もある。それは「採決」や「通過」がどこまで行っても手続きに過ぎないからです。議会内で圧倒的多数を握る与党提出法案であれば、委員会であれ本会議であれ、採決を強行しさえすれば可決成立してしまうのは当たり前のこと。何を言っても届かないということになれば、絶望や諦観が襲ってくる。「強行採決は腹立たしいけれど、でも仕方がないよね」というところに落ち着いてしまうのです。

《東京》の見出しに「違憲」の言葉が入っているのは、その意味で重要なことだと思います。行われていることは、なんと言ったって「憲法違反」。ただの強行採決ではない、憲法違反の法案の強行採決なのです。ここには「諦め」の要素はない。安倍総理は昨年の閣議決定によって、「合憲か違憲か」の問題については既に決着していると勘違いをしていました。与党全体がそうです。ところが、そのことを暴いてしまったのが、与党推薦で法案を違憲と断じた長谷部恭男氏だったのです。有権者もこれで目が覚めました。ですから、この日の見出しに「違憲」の二文字が入っていることは大事なことなのだと思います。

以上は、飽くまで見出しに関すること。読者が一面をパッと見たときに感じる印象に関わることとご理解ください。

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image by: 自由民主党

『uttiiの電子版ウォッチ』2015/7/16号より一部抜粋

著者/内田誠(ジャーナリスト)
朝日、読売、毎日、東京の各紙朝刊(電子版)を比較し、一面を中心に隠されたラインを読み解きます。月曜日から金曜日までは可能な限り早く、土曜日は夜までにその週のまとめをお届け。これさえ読んでおけば「偏向報道」に惑わされずに済みます。
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