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出光の「お家騒動」出口見えず。なぜ創業家と経営側で対立するのか?

原油価格の下落でガソリンスタンドなどをはじめとする石油業界が厳しい状況に置かれています。そんな中、「出光興産」の創業家と経営陣との間に、「昭和シェル石油」との合併問題を巡る騒動が勃発。解決の糸口はどこにあるのでしょうか。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、両社の経営状況を詳らかにしつつ解説しています。

出光の創業家と経営陣が対立する理由

出光興産の経営陣と創業家の対立は解決の糸口が見えない状態です。

出光の経営陣は昭和シェル石油との合併交渉を進めてきましたが、創業家は「社風が違う」ことを理由に、合併反対の姿勢を崩していません。出光は「大家族主義」を掲げ、社員の雇用を守る社風があり労働組合が存在しません(一部の連結子会社を除く)。一方、昭和シェルには2つの労組(一部の連結子会社を除く。15年12月末時点)が存在します。この点において、両社には大きな違いがあります。

創業家は両社の社風の違いを問題視しています。確かに、両社の社風は大きく違うように思えます。企業文化といった価値観の共有は一朝一夕にはいかないでしょう。合併が実現した場合、賃金体系や社員の評価制度を統一させるといった難しい問題も発生します。

出光と昭和シェルは2期連続で大幅な赤字

ただ、両社の現状に鑑みると、多少の困難を理由とした現状を維持するという選択では、両社が正しい方向に進めるとは到底思えません。両社の経営状況は非常に厳しい状況にあるからです。

出光の2016年3月期決算は、売上高が3兆5,702億円(前年同期比22.9%減)、最終損益は359億円の赤字(前年同期は1,379億円の赤字)です。

昭和シェルの15年12月期決算は、売上高が2兆1,776億円(27.4%減)、最終損益は274億円の赤字(前年同期は97億円の赤字)です。

両社とも2期連続で最終損益は赤字でこの2年で急速に経営が悪化しているのがわかります。米国のシェールオイル生産拡大などによる供給超過の懸念や、OPEC総会で減産による需給調整が見送られたことなどで原油価格が下落したことが大きく影響しました。2013年春先から国内ガソリン市況が悪化しています。

国内の石油産業(精製・元売)の事業環境は厳しさを増しています。経済産業省・資源エネルギー庁によると、国内の石油需要は2000年度に比べて13年度では約2割程度減少していて、向こう5年間は年平均で約2%の割合で需要が減少していく見込みとしています。

業界再編は避けて通れない?

石油産業が成長していくためには、石油製品の事業強化はもちろん、電力やガス、鉱物資源といった新たな成長分野を開拓する必要があります。そのためには、業界再編は避けて通れない道といえるでしょう。

出光は、石油製品以外では「資源事業」が強みです。油田や石炭、ウランの開発を得意としています。16年3月期の資源事業の営業利益は6億円の赤字でしたが、15年は130億円の黒字です。主力の石油製品事業と石油化学製品事業の赤字の穴埋めを担っていました。

昭和シェルは、「エネルギーソリューション事業」が強みです。太陽電池や電力の開発を得意としています。15年12月期のエネルギーソリューション事業の営業利益は101億円の赤字でしたが、14年は176億円の黒字です。主力の石油事業の赤字の穴埋めを担っていました。

両社が合併することで、主力の石油製品事業の生産効率を改善し、成長分野での事業多角化を実現することができます。資源エネルギー庁は石油産業の事業再編と設備最適化の必要性を指摘しており、両社の合併は国策にも合致しています。経営統合は必然の流れといえるでしょう。

出光の創業家が「待った」をかける理由とは

しかし、出光の創業家の「待った」により、合併の流れは混沌としています。創業家は出光の株式の33.92%を保有していると主張しています。合併承認には、年内に予定する出光の臨時株主総会で、株主の3分の2以上の賛成が必要になります。現状、合併は困難な状況にあります。

14年12月、出光は昭和シェルを「買収する方向で交渉に入ったと報じられました。TOB(株式公開買い付け)により、子会社化を目指していたようです。しかし、現時点では買収は行われていません。結局は15年11月に、両社が合併する基本合意書を締結することになりました。

出光の創業家にとって、「合併」は不都合なものになります。買収と違い合併の場合、創業家の株主総会における議決権は3分の1以下になり、影響力が大きく低下してしまうからです。株主総会において出席議決権の3分の1超があれば、会社経営の根本にかかわる議案を否決することができます。

創業家にとって合併は影響力の低下につながります。一方で、業界が置かれている厳しさも認識しているはずです。現状のままでいいとは考えていないでしょう。落とし所はどこになるのか。創業家と経営陣の綱引きはしばらく続きそうです。

image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com

 

店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業
著者/佐藤昌司
東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。
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