台湾の「日本好き」が過去最高に。なぜここまで相思相愛なのか?

 

芝山巌事件は、教育開始から半年後の明治29年元旦に起こりました。6人の教師は、新年拝賀式に参列するため台北に向かっていました。しかし、その前夜未明に台北城は匪襲を受けていたため、渡し舟がありませんでした。

やむを得ず彼らは芝山巌に引き返しました。そして、正午近くになって再び山を降りようとした途中、運悪く百余名の土匪に遭遇してしまったのです。6名は事情を説明し話し合おうとしたが、相手は「話せば分かる」ものではなく、「問答無用」の輩でした。たちまち白兵戦となりましたが、多勢に無勢で6名と用務員1名(小林清吉・軍夫)は、あっという間に殺害されてしまいました

殺された7名の首級は、首魁・頼昌の家の門前に掲げられたとも伝えられています。さらに、芝山巌伝習所内の教室や寝室などから、六士先生の所持金や運営資金はすべて奪われていました

事件から8日後、首級のない遺体が発見されました。六士先生の遺灰は、それから半年後の7月1日、芝山巌に墓碑とともに安置され第1回の慰霊祭が行われ、彼らを祀る芝山巌神社も建てられました。こうして、六士先生と彼らの精神は、台湾における近代国民教育の鑑として、多くの人から敬われることになったのです。

その後も、台湾の開化教育に従事して殉職した教師は327名にも及びました。その悲劇に鑑み、日本開化教育は六士先生をモデルに聖職とされたのです。伊藤博文総理も、始政1周年の際に台湾を訪れ、「学務官僚遭難之碑」をみずから提案して、殉職した教師の記念碑を建てさせています。

しかし、戦後、国民党軍は台湾に入ってきてから、この「日本教育」のシンボルに対抗せんとしたのか「六士先生殉職」の記念碑をぶち壊し墓碑銘をセメントで埋めてしまいました。その代わりに、特務のボスであった戴笠(雨農)を記念した雨農記念図書館を芝山巌に建てたのです。

戴笠とは、蒋介石お抱えの殺し屋で、暗殺などで政敵数十万人を葬った人物であり、終戦直前に原因不明の飛行機事故で墜落死しています。この記念図書館は、蒋介石ただ1人に忠誠を尽くすシンボルという意味合いがあったのです。ここにも「のために尽くす日本人と、を最優先にする中国人という違いが現れています。

後になって、台湾籍日本人の書道家である陣内伯台氏が、セメントで埋められてしまった伊藤博文と後藤新平が揮毫した石碑を、丹念に時間をかけて復元させ、拓本をつくり六士先生の遺族に贈呈しました。私は陣内氏が苦心してつくった拓本を見たことがあります。彼に伊藤博文と後藤新平の2人の書道における筆力を尋ねたところ、「プロに負けない」と高く評価していました。

蒋介石の時代には芝山巌神社も打ち壊され、土匪が「抗日英雄」として民族英雄にでっち上げられました。それが中国人の「教育」です。そして、歴史捏造の記念碑がつくられて、台湾の祖国復帰と「反日抗日」の歴史が謳われたのです。しかし、もともと無理のある話ですから、矛盾も多いのです。

その一例が有名な匪賊の首魁であった簡大獅です。簡大獅は土匪を率いて日本の台湾総督府を悩ませたことで、蒋介石時代には抗日英雄とされました。しかし、清国に逃亡した簡大獅を、日本側の求めに応じて台湾に強制送還したのは清の政府だったのです。義人でも何でもなかったわけです。

現在の中国人と昔の中国人で評価があべこべになることはよくあることです。たとえば漢の武帝はその生涯において征伐戦争に明け暮れ、老後は太子軍と首都長安で戦いました。60年以上の征戦で人口が半減したため、『漢書』には武帝の祠を建てるべきではないという主張が述べられているほどです。ところが現在の中国人は、もっとも尊敬する「民族英雄」として、漢の武帝を挙げています。そこまでの価値観が逆転するわけです。

それはともかく、当時の国民党軍は、日本人墓地打ち壊しに夢中となり、記念碑も墓碑も銅像も何であろうと構わず壊しまくりました。中国では王朝が代わるたびに宮城、京師で大虐殺があるのが習慣であり、お決まりの行事のようなものでした。

そのため、六士先生の遺骨は国民党軍によって道端に捨てられ、神社も取り壊されましたが、地元の恵済堂の住職が無名の碑を建て、丁重に弔いました。「六士先生の墓」が再建されたのは、1996年6月1日でした。士林国民学校校友会の会長である林振永氏が中心となり、「芝山巌事件百周年」記念行事として盛大な式典が行われました。

当時の台北市長だった陳水扁氏も挨拶にかけつけました。日本からは、元労働大臣の藤尾正行氏ら34名が参加し、士林公学校卒の尼僧・柯宝祝住職が日本語にて般若経を唱え鎮魂の法要を行ったのです。

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